早朝の出発。
十数年前のこと。函館山の夜景が一望できるホールでコンサートを終えて翌朝早く、コントラバスの齋藤 徹さんを見送りに函館駅に来ました。前夜は徹さんのお誕生日で皆で祝杯を交わしたことが思い出に残ります。
<どこにいくんだろう>
当時、大きな体の徹さんが、これまた大きな黒いケースに入った獅子頭のコントラバスを抱えて、ホームに1人。ぱあっと手を広げて、にこっと挨拶をすると、私鉄線に乗り込んでいきました。線路の先は果てしなく続いて、徹さんは北海道に吸い込まれていくようです。その後ろ姿を今でも忘れません。「どこにいくんだろう…。」私は思いました。その線路の先になにがあるのか、とても興味をひかれたのです。
<北国の人々>
コントラバスを抱えてひとり、北海道の大地に旅立つ徹さん。その先の街町に徹さんを "待っている人たち がいたのですね。そしてつぎの街へ、楽器と共に電車を乗り継いで、毎日音楽を奏でる。徹さんの心にはどんな風景が映っていたのでしょう。コンサート企画に初めて携わった私に、すぐ労いの言葉をかけて下さったのは徹さんでした。私は歌い手の立場もあり、けれどひとりで黙ってすすめていました。そんなとき、ポンと肩に手をおかれたようでとても嬉しかったことを思い出します。そしてその裏方面の仕事の大切さを教えてくださいました。音楽家・斎藤徹さんの大きな背中を思い浮かべる、函館本線の駅頭にて。
<小樽市立文学館へ>
これから海の街へ向かいます。やはり旅慣れた直毅さんが、「ヨーロッパに行く時もこのくらいは持っていきますよ」といいながら、大きなリュックを背負ってバイオリンを肩にかけると、さっと電車に乗りこんでゆきました。衣装や台本やなど詰まった白いスーツケースを持って私も続く。一路、小樽へ。
おとがたり
朗読 : 長浜奈津子
ヴァイオリン : 喜多直毅
北海道ツアー2020 『啄木と一穂を訪ねて』
9月3日(木) 《函館》
漂白の歌人:石川啄木『啄木といふ奴』~A Guy called Takuboku~