おとがたり 北海道ツアー2020 『啄木と一穂を訪ねて』
ブログの写真は、2019年4月の四谷茶会記のものです。(写真:前澤秀登氏)今回のツアーとは雰囲気が違いますが「啄木といふ奴」の初演です。このときは会場の個性もあって、読み芝居よりの表現、今回の北海道公演は朗読よりとなりました。
北海道ツアーの1日目は、函館公演で幕開けでした。ここは私の生まれ故郷なのです。演目は石川啄木のローマ字日記と短歌で作られた作品『啄木といふ奴』は再演です。初演は昨年の4月に四谷茶会記で上演させて頂きました。台本は手を入れずそのまま函館・札幌公演へ。
「啄木のお墓参り」
石川啄木のお墓が函館にあるのですが、公演会場へ入る前にそこを訪ねました。墓所は、石川家一族の墓、として函館山中腹の立待岬のほうにあります。細い坂道をのぼり、車から降りると海からの追い風が頬をなぜました。目の前にお墓があり、私たちはそれぞれ啄木に手をあわせました。
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啄木が函館に住んでいた期間は数ヶ月だったそうですが節子と京子とともに暮らした楽しい時間だったようです。函館の新聞社で働いたり、弥生尋常小学校で教員もしていて、学校はいまでも市内に残っています。しかし函館大火に追われて、啄木は札幌へ、またその後、小樽・釧路とゆくのです。節子もまた京子をつれて小樽・函館と。今回の公演は、啄木の足取りを訪ねる旅となりました。27才という短い生涯(妻・節子は行年28才)。東京の小石川で亡くなった啄木は「おれは死ぬ時は函館へ行って死ぬ」という言葉を義弟への手紙に残していたそうですが、その遺骨は節子夫人により、函館の立待岬に移されました。
「東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたわむる」
この歌碑はのちに義弟・宮崎郁雨によって建てられ、ここから大森海岸がみえます。
「大森海岸」
私たちが訪ねた日は、雲がかかっていましたが湾曲の地形にそってなめらかに描かれた砂地に、津軽海峡の海が白いしぶきをあげていました。この海の風景はなんとも郷愁感を誘います。啄木はこの砂浜を散策するのが好きだったそうです。津軽海峡をながめながら、なにを想ったのでしょうか。海のむこうのその先の先には啄木の故郷、岩手県があります。ここにたつと晴れた日には下北半島がみえます。啄木は函館の空の下、波の音を耳にしながら、その胸の内にさまざまな歌をうたい刻んだのでしょう。
『啄木といふ奴』~A Guy called Takuboku~
浪漫の街・函館のイメージからなのか、啄木経歴やその作品を知らないと、啄木ー函館の坂の街ーロマンティックな詩人…案外こういうイメージをもっているひとは少なくない。歌碑になった有名な短歌「函館の青柳町こそかなしけれ友の恋歌矢ぐるまの花」は啄木が青柳町での暮らしを懐かしんだ歌です。友達の恋の歌など聞きながら楽しんだ日々… 函館での数ヶ月の暮らしは、そんな彩りだったのかも知れません。
初演2019.4:おとがたり「啄木といふ奴」於:四谷茶会記(写真:前澤秀登氏)
『啄木といふ奴 ~A Guy called Takuboku~』
”おとがたり”で描いた「石川啄木」はもちろんまったく違います。日記にローマ字で書きつづられた、苦しみ・嘆き・痛み・もがき・叫び・怒り、恨… など___闇。直毅さんの言葉を借りると、歪み・棘・毒を含む作品です。しかし重苦しいばかりではなく、短歌に凝縮し昇華された瑞々しい歌が、闇中の声を真直ぐ音を立てて打ちつづける。心根の音。そしてユーモアと清々しいばかりの率直さに溢れています。私たちが終幕でひとつ残したエピソードは、絶望の中に沸きあがる歌人としての希望。これは27才で生涯を終えるその日まで絶えることなく、啄木は歌人として生きたのです。いく人かの登場人物は、啄木の友人、母、妻、愛人や故郷はすべて啄木のローマ字日記に記されままの肉声で現れた姿です。この日記を、啄木は自分の死後に燃やせと指示して妻に手渡したとのエピソードが残っています。おとがたりの台本は、ヴァイオリニストの喜多直毅さんがこれを構成して下さいました。直毅さんは石川啄木の生まれ故郷、岩手県出身で、啄木を大切に心におかれています。今回も舞台で聴いて頂きたい作品となりました。
2020.9.3 おとがたり「啄木といふ奴」於:函館芸術ホール Free Room
「函館公演」
函館での公演が叶って、とても嬉しかったです。この作品と共にまた旅をしたいと思いました。席数の制限を持ちましたが、おかげさまで満席のはこびとなり、「啄木といふ奴」を函館の皆さんに聴いて頂くことができました。会場設営やウイルス対策に関して、臨機応変なご対応を頂いたスタッフの皆さんに感謝しております。また、国際啄木会さまにも公演の告知などご協力を頂きました。ネットからこの公演にお申し込みくださった初対面のお客様にもご観覧頂きました。今回は地元の友人が受付を手伝ってくださったり、本番はこられないため開演前に駆けつけてくださった知人の方もいらっしゃり、地元の温かさを実感することができました。皆さん本当にありがとうございました。
またお会いできます日を、心より楽しみにしております
おとがたり
朗読 : 長浜奈津子
ヴァイオリン : 喜多直毅
北海道ツアー2020 『啄木と一穂を訪ねて』
9月3日(木) 《函館》
漂白の歌人:石川啄木『啄木といふ奴』~A Guy called Takuboku~