『世界一周の絵手紙』 岡本一平著 磯部甲陽堂 大正13年 〈1924年〉 右が岡本一平
今年も夏の甲子園が開催される。甲子園といえばアルプススタンド。確かに青空に向かって切り立つ山のようにそびえるスタンドは、いかにもふさわしい命名だ。この名付け親は、岡本一平。明治から昭和にかけて活躍した漫画家。「芸術は爆発だ!」という言葉や1970年の大阪万博、太陽の塔の制作者として知られる岡本太郎のお父さん。そして、一平の妻、太郎のお母さんは、有名な作家岡本かの子だ。
岡本一平は、大正11〈1922〉年、36歳のときに世界旅行に出発し、アルプスを見た。出発のときの自画像を、同行者とともに描いたのが、上図の漫画(船に乗った二人の右側が岡本一平)。
一平は本物アルプスのその記憶をもとに、昭和4〈1929〉年に、増設された甲子園のスタンドを、「アルプススタンド」と名付けた。
その際書かれた漫画と説明文は、以下の通り。
「甲子園野球大会 漫画速報台 (昭和四年)〈1929年〉 アルプススタンド 入り切らぬ入場者のため今年はスタンドの両翼を増設した、両方で八千人余計入る、そのスタンドはまた素敵に高く見える、アルプススタンドだ、上の方には万年雪がありそうだ。」『新らしい漫画の描き方』岡本一平著 先進社 昭和5年 〈1930年〉
スタンドの上に浮かぶ夏の白雲が、万年雪に見えたのだろう。
《文責 中川 越(手紙文化研究家・コラムニスト 東京新聞連載中 NHKラジオ深夜便・文豪通信・レギュラーとして出演中)》
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