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糖尿病あれこれ

2020-01-30 14:04:00 | 引用
近年、糖尿病の診療では血糖値が高いだけでなく、血糖値の変動が激しいことも危険因子として重視されている(※写真はイメージ)
近年、糖尿病の診療では血糖値が高いだけでなく、血糖値の変動が激しいことも危険因子として重視されている(※写真はイメージ)(7:00)週刊朝日

 近年、糖尿病の診療では血糖値が高いだけでなく、血糖値の変動が激しいことも危険因子として重視されている。患者の生活に即して血糖値の変動を把握する検査機器に、低価格で使いやすい新機器が登場した。

 人間の生命活動は、血液中のグルコース(血糖)を燃料として全身の細胞に取り込むことで正常に維持される。糖尿病を発症し、膵臓から分泌されるインスリンの量や作用が不十分になると、燃料として利用されずに余ったグルコースが血液中にあふれてしまう。

 糖質の多い食事のとりすぎや運動不足などによって血糖値が高い状態が続くと、血管の内側の細胞が「糖化」と呼ばれる変性をきたして動脈硬化が進む。こうして細い血管が侵されれば網膜症、腎症、神経障害、太い血管が侵されれば心筋梗塞、脳梗塞などの合併症の原因となる。

 一方、糖尿病患者は低血糖を起こしやすい。これはインスリンだけでなく、下がりすぎた血糖値を上げるグルカゴンというホルモンの分泌も不足するためだ。低血糖を起こすと、強い空腹感、意識障害、集中力の低下、動悸などの低血糖症状を招く。重症低血糖を繰り返せば、心筋梗塞や認知症などのリスクが増す。

 そのため、糖尿病患者は高血糖や低血糖が起こらないよう血糖値を正常範囲に保つ必要がある。近年、こうした血糖値の変動を把握する手段としてCGM(持続血糖モニター)という検査機器が注目されている。

 東京慈恵会医科大学病院講師の坂本昌也医師は、こう指摘する。

「最近の研究では、受診のたびに測定する血糖値が高いだけでなく、日常生活で本人の自覚がないまま低血糖(無自覚低血糖)を繰り返したり、血糖値が大きく変動したりすると合併症のリスクが増すことがわかっています。血糖値は、食事や運動、ストレスなどによって大きく変動します。CGMは患者さんの日常生活に即して血糖値の変動パターンを視覚化し、より適切な治療薬の処方や生活改善の指導をおこなううえで有用です。最近、低価格で使いやすい機器が発売されたことから、広く普及していくとみられています」

CGMは2000年ごろ米国で開発され、日本では10年に1型糖尿病や重症の2型糖尿病で低血糖を繰り返すようになった患者に対し、健康保険で使えるようになった。細い針のついたセンサーを腹や上腕に装着し、皮下の体液(間質液)中のグルコース濃度をリーダーと呼ばれる携帯型の装置で読み取る。1日24時間、数日分記録したデータをパソコンに移し、血糖値の推移をシミュレートしてグラフ化する。

 ただし、測定するのは体液中のグルコース濃度であって実際の血糖値ではないため、1日2~3回、指先から採血して測った血糖値で測定結果を補正しなくてはならない。また、糖尿病専門医2人以上が常勤する医療機関でなければ使用できないという条件もある。

 最大の難点は、機器の価格(医療機関の購入価格)が数十万円と高額なことだ。このため、主に医療機関が機器を購入し、入院患者や退院後に血糖値の変動を測定する必要のある患者に貸与して使われてきた。

 16年12月に発売されたCGM機器「フリースタイルリブレPro」は、センサーの改良により体液中のグルコース濃度と血糖値の相関が高いデータが得られるため、採血による補正が不要となった。リーダーには血糖値とその後の変動を予測する矢印が表示され、センサーをつけたまま運動や入浴もできる。データの記録期間は、最長2週間に延びた。

 医療機関の購入価格もセンサー約6500円、リーダー約7千円と大幅に下がり、センサーは健康保険の対象となる。患者の日常生活に即して血糖値の変動を把握するという、CGM本来の目的をかなえる初の機器といえそうだ。

 都内に住む会社員の勝山剛さん(仮名・44歳)は、近所のクリニックで糖尿病治療を受けていたが、血糖値が悪化し、東京慈恵会医科大学病院に紹介された。CGM検査と問診の結果、服薬やインスリン注射を忘れたり、時間がずれたりしていたため、血糖値の変動が激しいことがわかった。

「不規則な生活がからだに悪いことはわかっていましたが、CGMではっきりその証拠を突きつけられた思いです。強いストレスを受けると低血糖になり、空腹感から食べすぎて血糖値が上がることがわかったことも収穫でした」(勝山さん)

 勝山さんは、CGMのデータにもとづき、食事・運動療法の指導を受け、食後の血糖値の上昇を抑える薬剤を追加することで、高血糖だけでなく血糖値の変動も改善することができた。

「CGMのデータを診療に役立てるには、患者さんに使用方法を詳しく説明し、機器を装着していない期間も適切な服薬や生活改善に努めるよう指導する必要があります。一方、患者さんに生活の状況を尋ねてデータと照らし合わせ、主治医に伝える看護師や薬剤師、栄養士などの協力も必要です」(坂本医師)

※週刊朝日  2017年2月24日号より抜粋