瑞原唯子のひとりごと

「伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい」第5話 伯爵家の堅物当主は元同級生から離れられない (前編)



 アーサー・グレイは、同級生のリチャード・ウィンザーが嫌いだった。

 彼はウィンザー公爵家の嫡男である。
 公爵家というのは王家に連なる血筋で、他の貴族とはいささか性質や役割が異なっている。国が安泰であるためには、公爵家が安泰であることが重要になってくるのだ。それゆえに責任が重い。
 なのに彼はその責任を軽視している。
 公爵家の人間ともなれば公の場に出ることも多いのだが、彼はごくたまにしか姿を現さない。未成年のうちだけならまだしも十六歳で成人になってもだ。それはすべて彼個人のわがままだという。
 学業においても真摯に取り組んでいる姿勢が見えない。自主的に勉強している様子はなく、授業中でもぼんやりと窓の外を眺めていることが多い。ときには目をつむって微睡んでいることさえある。
「いまは自習の時間だ。居眠りをしていいわけじゃない」
「んだよ……誰にも迷惑かけてないんだから別にいいだろう」
「いいかげん公爵家の後継者たる自覚を持ったらどうだ」
「おまえ、ほんといつもそればっかりだな」
 そんなやりとりは日常茶飯事だった。
 課題の提出もいつも期限ギリギリだ。催促する役目はたいていアーサーに押しつけられる。誰も未来の公爵の不興を買いたくはないのだろう。先生も級友もみんな及び腰なのが腹立たしい。
「君はどうして期限ギリギリにしか提出しないんだ」
「期限には間に合ってるんだからいいだろう」
「催促されなければ提出しないつもりじゃないのか?」
「まさか」
 アーサーが苦言を呈すのは、彼を公爵たるにふさわしい人物にしなければと思ったからだ。級友として、貴族として、国民として——頼まれもしないのに勝手に使命感にかられていたのである。
 もっとも成績は彼のほうが良かった。いつも学年一位か二位で、アーサーはだいたい五位前後で一度も勝てたことがない。武術と剣術も彼が群を抜いて優秀である。ついでにいえば見目もいい。
 そんな恵まれたものを持っているにもかかわらず、何にも関心を示さず、いつも醒めた目をしていることがひどくもどかしかった。
 決して孤立しているわけではない。多くのひとに囲まれて笑みを浮かべてはいるが、誰にも心を許していないように見えるのだ。ときどき避難するように穴場の木陰でひとり寝転んでいた。

 八年の学生生活を経て、雲ひとつない快晴の日に卒業を迎えた。
 首席はリチャードである。これが不正や忖度でなく実力によるものだということは、同級生であればみんなわかっていただろう。本人は望んでいなかったようで面倒そうにしていたけれど。
 それでも卒業生総代の辞は立派なものだった。内容もだが、それを堂々と述べる彼自身の姿に惹きつけられてしまった。さすが公爵家に生まれた人間だけのことはあると、感心せざるを得ない。
 式が終わると、彼は中庭で大勢のひとに囲まれていた。
 それを横目で見ながら通りすぎようとしたところ、彼がこちらに気付き、すぐにまわりのひとたちに断ってひとり駆け寄ってきた。めずらしく屈託のない表情をしているように見える。
「アーサー、いろいろ世話になったな」
「自覚があったのか」
 急に殊勝なことを言われて軽く驚きながらそう返すと、彼はおかしそうに笑った。
 つられてアーサーもかすかに笑みを浮かべた。これからはもうあまり顔を合わせることもなくなるし、苦言を呈することもなくなる。そう思うと、すこしだけ感傷的な気持ちになった。

 卒業後、アーサーは領地に戻った。
 領地経営をみっちり叩き込みたいという父親の意向である。アーサーは後継者として手伝いながら学んでいった。そしてほどよい頃合いに親の決めた相手と結婚し、三人の子供にも恵まれた。
 妻のアリシアとは政略結婚だが、相性が合っていたようであたたかい家庭を築けていると思う。夫婦として互いに尊重し合いながら子供たちを慈しむ日々に、かつてない幸せを感じていた。

「それでは王都に?」
 文官として働かないかと王宮から打診があり、それを承諾した旨を告げると、妻のアリシアは驚いたようにそう聞いてきた。アーサーは静かに頷く。
「先方が急いでいるので来週には行かなければならない。それで、できれば君と子供たちも一緒に連れて行きたいと考えている。まだ子供たちが幼いし、君には少なからず負担をかけることになると思うが……」
「もちろん一緒に行きますわ」
 迷う素振りもなく彼女はにこやかに即答した。
 家族一緒に暮らしたいという気持ちは彼女も同じなのだろう。それでも急だったにもかかわらず笑顔で承諾してくれたことはありがたく、頭の下がる思いだった。

 翌週から、家族ともども王都のタウンハウスで暮らし始めた。
 急に環境が変わって子供たちがどうなるかと心配していたが、すぐに馴染んだ。特に第一子のシャーロットは街が好きなようで、使用人の買い出しにもしょっちゅうついていくという。
 アーサーは予定どおり王宮で文官として勤めている。しばらく人手不足だったので仕事がたまっていたらしく、かなり忙しくはあったが、それでも夜遅くまで働かされるようなことはなかった。

「え、アーサー?!」
 ある日、文官としての仕事で騎士団本部に足を運んだところ、ふと驚いたように名前を呼ばれた。ありふれた名前なので自分のことなのか不明であるが、反射的に声のほうに振り向く。
 そこには騎士服姿のリチャードがいた。
 思わず目を見開くが、そういえば彼は卒業したら騎士団に入るという話だった。公爵家の嫡男としては異例のことで、当時はかなり話題になったはずだ。いまのいままで忘れていたけれど。
「ウィンザー侯爵、お久しぶりです」
「いや、リチャードでいいよ」
「そういうわけにはまいりません」
「相変わらずだな」
 リチャードはそう言って苦笑する。
 現在、彼は従属爵位であるウィンザー侯爵を儀礼称号として名乗っている。学生のときは階級など関係なく対等に話すことになっていたが、社会人となったいまはそういうわけにもいかない。
「おまえ領地に帰ったって聞いたけど」
「はい、ですが王宮に勤めることになりまして」
「なるほどな」
 騎士団にも王宮の人手不足の影響があったという話なので、彼もそのあたりのことは聞き及んでいたのだろう。
 流れで妻子のことも尋ねられた。隠すことでもないので聞かれるまま答えるが、こういう話を穏やかに彼としていることが何か不思議だった。それだけ二人とも大人になったということかもしれない。
「あなたは……」
「ん、ああ、俺は先日婚約したところ」
「それはおめでとうございます」
 彼にも聞いてみたところ、思いがけない答えが返ってきて表情が緩んだ。
 公爵家は何より血筋を絶やさないことが求められている。なのにその嫡男である彼が結婚を忌避しているようだったので、学生時代は勝手に気を揉んでいたのだ。あとは彼個人の幸せにもつながるよう願うばかりである。

「すみません、失礼ですがグレイ卿でしょうか?」
 会話が途切れたところで、事務方と思われる男性がアーサーに声をかけてきた。自分を知っている人間がそういないはずのところで名指しされ、思わず怪訝な顔になる。
「そうですが……」
「さきほど近所の子供がこれを持ってきまして。どうやら見知らぬ男から騎士団本部に届けるよう頼まれたらしいのですが」
 差し出された封筒には『グレイ卿』と宛名が記してあった。
 おそらく騎士団本部に入るところを見ていたのだろうが、それにしても不可解だ。封筒を裏返してみても差出人の名前は見当たらないし、封蝋の紋章らしきものにも見覚えはない。けれど——。
「アーサー、いますぐ開けろ!」
「えっ、どういうことでしょうか?」
「いいから開けろ!!!」
 リチャードが血相を変える。
 戸惑いながらもアーサーは言われるまま封蝋を破り、二つ折りの手紙らしきものを取り出して開くと、冒頭の文章に目を落とす。それはいわゆる脅迫状だった。娘のシャーロットを誘拐したから身代金を払えという——。
「貸せ!」
 血の気が引いたまま呆然と立ちつくしていると、リチャードがひったくるように脅迫状一式を奪い取った。ひととおり目を通したのち、怖いくらい真剣な顔でアーサーを見据えて問いかける。
「アーサー、おまえ身代金は用意できそうか?」
「領地に帰れば……ですが、三日で用意できるかは……」
「だったら俺が個人的に貸してやる」
「えっ」
 当然ながら気軽に借りられるような金額ではない。ごく親しい相手であっても躊躇してしまうだろう。まして久方ぶりに再会したばかりの元同級生という、交流さえなかった相手になんて。
「いえ……それ、は、さすがに……」
「他に当てはあるのか?」
 そう言われて考えてみるが、それだけの金額をすぐに用意できるひとなどそういないだろうし、そもそも王都に来て間もないので交流のある知人からしてあまりいない。だとしたら——。
「お言葉に甘えさせていただきます」
 気は引けるが、娘の命がかかっているのだからなりふり構っていられない。
「おまえは家に帰って状況を確かめてこい」
「わかりました」
 そう答えてすぐに自宅に向かう。
 リチャードに命じられて事務方の男性もついてきた。名はレオという。冷静ではいられないかもしれないので、事情を知っている人間がいてくれるだけでありがたい。
「あなた! シャーロットがいなくなったみたいなの!」
 邸宅に入るなり、妻のアリシアが顔面蒼白でそう訴えてきた。
 やはりシャーロットは誘拐されていたようだ。焦燥と恐怖と不安と怒りでどうにかなりそうだが、自分がいまここで取り乱すわけにはいかない。
「話を聞かせてくれ」
「侍女のマヤがシャーロットを連れて街へ買い物に行ったんですけど、彼女ひとりが路地裏で頭を殴られて気絶していたらしくて……シャーロットの姿はあたりを探しても見当たらなかったみたいなの」
 おそらくそのときに誘拐されたのだろう。侍女を殴り倒してまでということは、最初からシャーロットを狙っていたとしか思えない。それもグレイ伯爵家の娘であることを知ったうえで。
「マヤはいまどこに?」
「病院です。さきほど執事が向かいました」
「わたしも話を聞いてこよう」
「お願いします」
 アリシアの双眸はひどく不安そうに揺らいでいた。そんな彼女に追い打ちをかけるのは気が咎めるが、黙っているわけにもいかない。アーサーは覚悟を決めると一呼吸してから切り出す。
「実は、シャーロットを誘拐したという脅迫状が届いている」
「えっ?」
「身代金の受け渡しは三日後と指定されているから、それまでは無事だろう。身代金は借りられることになったし、騎士団も動いてくれている……シャーロットは必ず無事に戻ってくる」
 最後は力強く断定した。
 アリシアはいまにも泣きそうに顔を歪ませたが、どうにかグッと唇を引きむすんでアーサーを見つめ返すと、気丈に頷く。こぼれそうなほどの涙をその目にたたえながら。

「もっ、申し訳ありません……取り返しのつかないことを……」
 病院に行くと、ちょうど侍女のマヤが目を覚ましたところだった。かなり出血したとのことで頭には白い包帯が巻かれている。最初はまだぼうっとしていて状況も理解できていないようだったが、こちらから説明すると記憶がよみがえってきたらしく、真っ青になって震え出した。
「謝罪よりもまずは話を聞かせてほしい。何か覚えていることはないか」
「はい……いきなり後ろから何かで頭を殴られたので、顔は見ておりません。ただ、倒れたときに船乗りのような靴が見えました。潮のにおいもかすかにしたような気がします」
 これが手がかりになればいいが——。
 何か思い出したら騎士団本部まで連絡するよう言い置くと、病室の隅に控えていた執事にマヤのことを頼み、同行していたレオとともに急いで騎士団本部へ向かった。

 騎士団本部では、誘拐事件の捜査会議が行われていた。
 リチャードも参加していたが、レオが会議の邪魔にならないよう静かに呼びに行ってくれた。すぐさま抜けてきた彼にさっそく侍女から聞いた話を伝えると、彼は納得したように頷く。
「やはり港だ」
「えっ?」
 思わず聞き返すと、すこし躊躇う様子を見せながらも教えてくれた。この一年のあいだに類似の誘拐事件が三件あったこと、今回の誘拐事件も含めて同じ組織の犯行と思われること、三件で得られた情報を総合して港に目星をつけていたことを。
「それで、過去三件の事件はどうなったのでしょう?」
「……最初の二件は身代金を払って子供は無事に戻ってきた。ただ、騎士団が知ったのは身代金の受け渡しが終わってからだ。最後の一件は期限までに身代金を用意できずに騎士団を頼ってきた。それで身代金を受け取りに来た男を捕らえたが、監禁場所を吐かせようとしたところ自害され……子供は遺体で発見された」
 アーサーは息を飲んだ。わかってはいたつもりだが、その危険があることをまざまざと思い知らされた。目の前が暗くなるのを感じてふらりとする。
「そ、れは……身代金さえ払えば、無事に戻ってくると……」
「身代金はいま用意させている。ただ、騎士団としては素直に身代金を払うだけというわけにはいかない。これ以上の犠牲者を出さないために組織を壊滅する必要がある。もちろん娘の身の安全は最優先に考えるが、状況によっては身代金の受け渡し前に作戦行動をとるかもしれない」
 リチャードがつらそうな顔をして現実を告げるが、すぐには受け止められない。
 これ以上の犠牲者を出さないためにというのは理解できるし、王国や王都を守る騎士団としてはそれが正しいのだろうが、親としてはすこしの危険も冒したくない。身代金を払えば無事に戻ってくるのであればそうしたい。けれどそれは自分たちのことしか考えていないということで——。
「シャーロットは必ず助ける」
 逡巡したまま承諾も反対もできずに奥歯を食いしめていると、彼はまっすぐにアーサーを見つめてそう断言した。

 アーサーはそのまま騎士団本部に留まることになった。
 とはいえ捜査会議には入れないので来客用の部屋で待つだけだ。たびたびレオが姿を見せてはこまごまと世話を焼いてくれたが、せっかく用意してくれた軽食はあまり喉を通らなかった。
 そのうちウィンザー家の執事が身代金となる金貨を届けてくれた。それが手元にあるだけで安心感が違う。これほどの大金をこんなにも早く用意してくれた彼らには、いくら感謝してもしきれない。
 夜になると出入りが激しくなり慌ただしい気配を感じた。気にはなるが、状況については聞いても答えられないとあらかじめ言われている。アーサーにはただ祈ることしかできなかった。
 そのまま一晩が過ぎる——。
 ずっと一睡もせず、胃がキリキリするのを感じながらソファに座っていた。用意してくれた毛布はきれいに折りたたまれたままだ。いつ何が起こるかもわからないのに眠れるわけがない。
「グレイ卿!」
 空が白み始めたころ、レオが慌ただしくバタンと扉を開けて飛び込んできた。ハッとはじかれたように立ち上がったアーサーに向かって、髪を乱したまま声を張り上げる。
「娘さんが救出されました! 無事だそうです!!!」

 いてもたってもいられず騎士団本部のまえで待つ。
 シャーロットは港から馬で連れ帰るところだという。手足を縄で縛られていたので若干の擦過傷はあるが、それ以外は何ともないらしい。けれど自分の目で確かめるまではとても安心できなかった。
 朝靄が消えるころ、数頭の馬がゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。どうやら白馬に乗っているのがリチャードのようだ。そして、彼のまえに乗せられている小さな子供が——。
「シャーロット!!!」
 到着するのを待っていられずに我を忘れて駆け出した。リチャードは白馬を止め、眠っているシャーロットを片腕に抱えて下りると、必死に両手を伸ばしたアーサーに横抱きにして渡す。
 瞬間、アーサーの視界がにじんだ。
 そのぬくもりで、重みで、ようやく娘が無事に生きて戻ってきたことを実感した。全身の力が抜けそうなほど安堵して膝から崩れ落ちる。それでも娘はしっかりと腕に抱いたまま離さない。
「ありがとうございます。本当になんとお礼を言ったらいいか……ああ……」
「俺は騎士として仕事をしただけだ」
 リチャードはあたりまえのようにさらりと受け流すと、じゃあなと軽く手を上げ、馬を引きながら仲間と騎士団本部のほうへ足を進める。その背中にアーサーは精一杯の気持ちをこめて頭を下げた。

 数日後、妻と子供たちは領地に帰した。
 今回の誘拐事件で王都に置いておくことが心配になったのだ。必ずしも王都だからというわけではないのだろうが、子供たちに起こりうる危険は可能なかぎり回避したい。妻も同じ気持ちだった。
 領地においても、グレイ家の敷地外に子供たちを出さないよう妻に頼んだ。過保護かもしれないが、大人と一緒にいても誘拐された事実があるのだから、そうでもしないと安心できなかった。
 ただ敷地はかなり広く、小規模ながらも山や川や森などの自然があるし、広場で乗馬もできるようになっているので、遊びには事欠かない。少なくともあまり窮屈な思いはしないですむはずだ。
 遊び相手には従兄弟、つまりアーサーの弟たちの子供を考えている。いまのところ男の子ばかりなのが難点だが。みんな遠くないところに住んでいるので、ときどき来てもらうことは可能だろう。
 そして、いつか外に出るときのために護身術を習わせるつもりだ。成長に合わせてすこしずつ——。

 翌々日、ひとりの男性がアーサーを尋ねてきた。
 彼は広大な領地を有するポートランド侯爵家の嫡男で、名をグレアムという。アーサーとは同年齢で、互いの領地が隣接しているということもあり、友人というほどではないがそれなりに交流はあった。
「それで、どういったご用件でしょうか」
「いますぐ金を借りたい」
 まさか裕福なポートランド家の人間からそんなことを頼まれるとは思わなかった。いくらなのか聞いたところ、アーサーでもすぐに出せるくらいの金額だったが、だからこそなおさら何があったのか事情が気になる。
「理由をお伺いしても?」
「……先日、恩人夫妻が馬車の事故で亡くなり、その息子が借金の形に売られそうになっている。今日の午後四時までに相手方に返済しなければならないが、手持ちではすこし足りなかった。領地に戻っていては間に合わないのであなたに縋った次第だ」
 葬儀に出たとき、息子の叔父夫妻が話しているのを耳にしたという。借金の相手はカドガン伯爵だ。少年を性的に好んでいて孤児に手を出しているとか、良くない噂をささやかれる人物である。
「そうなると、本当にただの事故だったのか疑わしいですね」
「ああ……だが時間がないので、ひとまず借金を返済して彼を助けたい」
「わかりました」
 アーサー自身も誘拐事件のときに金を借りた。結局、使うことなくそのまま返却したのだが、借りられたことでどれだけ精神的に助かったかわからない。だから、自分が金を貸すことで助けられるのならそうしたいと思った。
「助かる。来週には返済する」
 金貨を用意すると、グレアムはそう言い残して屋敷をあとにした。

 翌週、返済に訪れた彼に話を聞いたところ、恩人の息子は無事に助けることができたそうで、いまは彼の屋敷に住まわせているという。関わったひとりとして上手く事が運んだことに安堵した。
「それで、その子のことはどうするおつもりですか?」
「養子先を探そうと思っていたが、よそに行きたくないと言うので悩んでいる。カドガン伯爵のところで怖い思いをしたせいだろう。一時的なものかもしれないし、いまはあの子が落ち着くのを待っているところだ」
 アーサーは頷く。
 実直で思慮深い人物なので心配はしていなかったが、この答えを聞いて、あらためて彼に任せておけば大丈夫だと思うことができた。きっとその子にとって望ましい結論を出してくれるに違いない。

「アーサー、久しぶりだな」
 慌ただしさが落ち着いたころ、王宮の仕事場に突然リチャードがやってきた。
 誘拐事件のあとも聴取などで会っていたので久しぶりという気はしないが、言われてみれば十日くらいは顔を合わせていなかったかもしれない。自席から立ち上がると軽く会釈して尋ねる。
「お約束はなかったと思いますが、いかがしましたか?」
「こっちに用があったから寄ってみたんだ」
 彼がここに来たのはアーサーの知るかぎり初めてだ。同僚の若い女性たちは色めき立っているし、上司は当惑している。公爵家の跡継ぎが前触れもなくふらっと訪れたら、そうもなるだろう。
「こちらへどうぞ」
 内心で嘆息しながら隣の応接室へ通した。
 そこは応接セットがあるだけの簡素な部屋である。仕事の打ち合わせには基本的に会議室を使うし、賓客向けには共用の立派な応接室もあるので、ちょっとした来客のときにしか使わないのだ。
「別に応接室でなくてもよかったのに」
「申し訳ありません、こちらの都合です」
「まあ二人っきりのほうがいいか」
 リチャードは軽く笑いながらそう言うと、向かいに腰を下ろしたアーサーに優しい目を向ける。
「元気そうでよかったよ」
「ええ、もうだいぶ落ち着きましたので」
「このまえは顔色が悪かったからな」
 気付いていたのか——。
 確かに誘拐事件から数日は心労が響いたのか体調が優れなかった。睡眠不足もあったかもしれない。妻子を領地に帰すための準備に追われていたのだ。それでも彼のまえではいつもどおりに振る舞っていたつもりなのに。
「ご心配をおかけしました」
 そう応じて、座ったまま丁寧に頭を下げる。
「このとおり体調も戻りましたので、今度、何かお礼をいたします」
「礼は不要だ。あくまで騎士団としての仕事だから気にしなくていい」
「でも身代金は個人的に用意してくださったのですよね」
「まあ、それは……」
 リチャードは困惑したように目をそらせて言いよどみ、そのまますこし考え込むような素振りを見せたあと、再び視線を上げる。
「じゃあ、一緒に食事に行くってのはどうだ?」
「……あなたがそれでよろしいのでしたら」
「店は俺が決める。明日の夜は都合がつくか?」
「問題ありません」
 ただ、そんなことで果たしてお礼になるのか——。
 一抹の不安を感じつつも、本人が望むものを拒否するわけにもいかず、彼に仕切られるまま約束を交わしてしまった。

 翌日、リチャードに連れられて店に向かったのだが、そこは酒場だった。
 公爵家の人間にはおおよそ似つかわしくない庶民的なところだ。うるさいくらい賑やかだが、治安は悪くなさそうに見える。おそらく騎士団の同僚たちと飲みに来たりしているのだろう。
「こういうところは初めてか?」
「ええ……」
「安心しろ。意外と味は悪くない」
 リチャードはニッと口元を上げると、店員を呼んでメニューを見ながら適当にあれこれと頼んでいく。ほどなくしてジョッキが運ばれてきて乾杯した。そのうちに料理も次々と運ばれてきて二人で食べていく。
 アーサーは何もかもが初めてだった。いかにも庶民的な料理も、大雑把な大皿の盛り付けも、ジョッキで飲む酒も、陽気で騒々しい店内も。戸惑う気持ちはありつつも料理は素直においしいと思えた。
「そういえば、おまえ妻子を領地に帰したんだって?」
 お互いの仕事のことで軽く雑談したあと、リチャードがジョッキを片手にふと思い出したようにそう言った。どうしてそんなことまで知っているのだろうと驚いたものの、表情には出さずに頷く。
「ええ……このまま王都に置いておくのはやはり心配でして」
「まあな。でも帰すまえに言ってほしかったよ。一度きちんと会いたかった」
「申し訳ありません」
 言われてみれば、恩人の彼に何も言わないままというのは失礼だった。余裕がなくてそこまで頭がまわらなかったのだが、本来なら妻とともに挨拶くらいは行ってしかるべきだろう。ただ——。
「シャーロットは元気か?」
「ええ、とても元気にしています」
「それならよかった」
 ふっとやわらかい笑みを浮かべるリチャードを見て、心苦しくなる。
 彼女は元気にしているが、どうやら誘拐された事実を忘れているようなのだ。それほどショックだったということだろう。だから、恩人がいるということさえ話すわけにはいかなかった。

 それからリチャードはたびたび仕事場に訪れるようになった。
 ただ長くは居座らず、すこし言葉を交わしただけで帰っていくのでそう支障はない。おそらくついでに寄っているだけなのだろう。同僚たちもいつしか慣れたようであまり気にしなくなっていた。

 しかし——その日、リチャードは応接室で話がしたいと言ってきた。
 最初に来たときのように簡素な応接室に通して向かい合わせに座る。ただ、そのときとは違って彼はひどく真面目な顔をしていた。アーサーもつられるように緊張して落ち着かない気持ちになる。
「先日、俺は婚約を解消した」
「えっ?」
 思わず聞き返した。聞こえていなかったわけではないが、あまりにも唐突でにわかには受け止められなかったのだ。しかし彼は何でもないかのように淡々と話をつづける。
「公表は明日だ。そのまえにおまえには伝えておきたくて」
「そう、ですか……何と申し上げたらいいのか……」
「そんな顔するな。別にショックを受けたりはしていない」
 リチャードはクレランス侯爵令嬢のロゼリアと婚約していた。
 両家の親が決めた縁談とのことだが、誰もがうらやむ美男美女でとてもお似合いだと評判だった。実際、アーサーが数週間前に夜会で二人を目撃したときも、リチャードがそつなくエスコートし、彼女も誇らしげに受けていて、これといって問題はなさそうに見えたのに——。
「何か、家のご都合で?」
「悪いが理由は話せない」
「申し訳ありません」
 どうにも信じがたくて思わず聞いてしまったが、いささか不躾だった。
 ただ、やはり考えられるとしたら両家の問題ではないかということだ。二人が仲違いした程度のことで婚約解消が認められるとは思えない。あるいは二人のどちらかに結婚を取りやめざるを得ない事情が発覚したか——。
「いつか……話せるときがきたら話すよ」
 リチャードは遠くに思いを馳せるかのような顔をしてそう言うと、アーサーに視線を移してふっと笑う。このときの表情を、アーサーはどうしてだかいつまでも忘れることができなかった。

 翌日、予定どおりリチャードとロゼリアの婚約解消が公表された。
 当然ながら、数日後の夜会ではその話題で持ちきりになっていた。理由が公表されていないことも拍車をかけているのだろう。みんな好き勝手に憶測を披露しては盛り上がっているのだ。やはり家同士の事情ではないかという説が有力なようだが、その事情については意見が分かれている。
 アーサーはその話題に積極的に加わろうとはしなかったが、リチャードの元同級生だと知られているため、何か聞いていないかとあちらこちらで尋ねられた。本当に聞いていないので正直にそう答えているが、たとえ聞いていても、公表されていないものを勝手に話すことはないだろう。
 ザワッ——。
 ふいに空気が変わった。ざわめきがさざ波のように広がっていく。
 何があったのだろうと怪訝に思いながら周囲の視線を追うと、人垣のあいだからロゼリアの姿が見えた。エスコートしているのは彼女の兄だ。まさか婚約解消した直後に現れるとは誰も思わなかっただろう。
 しかし彼女はそんな好奇の視線など意に介していないかのように、堂々と背筋を伸ばして歩いている。優美な笑みさえ浮かべながら。それは前を向いて生きていくのだという覚悟の表れのように見えた。
 まだ年若い女性なのに、強い——。
 恥知らずだの小癪だの鉄面皮だのと眉をひそめるひともいるのだろうが、むしろ貴族の常識からすればそういうひとのほうが多いのかもしれないが、アーサーはひそかに彼女に好感を持った。

「リチャード様って本当に素敵よねぇ」
 昼休憩中にあてもなく王宮内を散歩していたら、ふとそんな声が聞こえた。
 振り向くと、同僚の女性二人が庭園のベンチに並んで昼食をとっていた。どちらも後ろ姿しか見えないが誰なのかはわかる。その若いほうがどうやらリチャードに憧れているらしい。
「言っとくけど、リチャード様が婚約解消したからって夢見ちゃダメよ」
「わかってるわよ……いろんな意味で分不相応だってことくらい自覚してるわ」
「ん、それもあるけど」
 知人の話なので気になるが、だからといって盗み聞きするつもりはなかったので、そのまま足を止めずに通りすぎようとしたところ——。
「リチャード様って実は男色らしいのよ」
「え、うそ?!」
 思わぬ発言に驚き、ほとんど反射的に白い柱の陰に身を隠してしまった。幸か不幸か周囲には他に誰もいない。鼓動が速くなっていくのを感じながら聞き耳を立てる。
「婚約解消もそのせいじゃないかって」
「じゃあ、どうして婚約なんて……」
「婚約してから目覚めたとか聞いたけど」
「なるほど」
 彼女たちは合間にすこしずつサンドイッチを頬張りながら、なおも話をつづける。
「でも目覚めたというより自覚したというほうが近いのかも。子供のころからずっと女嫌いだったみたいだし、女性関係も皆無のようだし、そういうお店にも行ったことがないらしいわ」
 いまはわからないが、確かに学生時代は女性関係が皆無だったはずである。女遊びは一切しないし、娼館にも決して行かないともっぱらの噂だったのだ。そのあたりに関しては真面目だなとひそかに感心していたのだが。
「でね、リチャード様はいまアーサーに懸想してるみたいなの」
「ええっ?!」
 はあっ?!
 どうして自分が——あまりにも予想外のことでわけがわからない。もしかしたら名前が同じだけで別人かもしれないと思ったが、この二人がどちらも同僚であることを考慮すると、やはり自分だろう。
「騎士団のひとに聞いたんだけど、リチャード様って自ら積極的に交流するタイプじゃないらしいのよ。苦手なわけじゃなく淡泊みたいで。なのにアーサーには自らグイグイ行ってるでしょ?」
「確かに……」
「事務方の雑用を奪ってまで王宮に来てるって話よ」
 言われてみれば、騎士団員が王宮に来るような用事はそう頻繁にないはずだ。もちろん王宮や王族の護衛にあたっていれば別だが、リチャードはそうではない。
「ふふっ、それが本当なら初めて恋をした少年みたいね」
「騎士団でも初恋なんじゃないかって言われてるらしいの。みんなこっそりと生あたたかく見守ってるみたい。だから本人は気付かれてるなんて全然わかってなくて。何かちょっとかわいいわよね」
 笑い合う二人の声を聞きながら、アーサーはひっそりと音を立てないようにその場を離れた。彼女たちの目の届かないところまできても足を止めず、そのままあてもなく回廊を歩きつづける。
 まさか、いくら何でもそんなことは——。
 男色については判然としないが、アーサーに懸想しているというのは周囲の憶測にすぎない。こんな何の確証もないことを安易に信じるわけにはいかない。そう自分に言い聞かせた。

「よう、元気にしてるか」
 その日もリチャードはひょっこりと王宮の仕事場に姿を現した。
 妙な憶測を聞いてしまったせいで少なからず意識してしまうが、それでも努めて普段どおりに接する。どうやら不審に思われない程度には取り繕えているようだ。彼の様子はいつもと変わらない。
「おまえ十日ほど領地に帰るんだって?」
「そんなことまでよくご存知ですね」
 ほんの数日前に上司に相談して休暇をもらったばかりなのに。思わず半ば呆れたような物言いになったが、彼は気付いているのかいないのか平然として話を進める。
「それさ、俺もついていっていいか?」
「……何か御用がおありなのでしょうか」
「シャーロットに会いたくなってな」
 それが本心なのかはわからない。ただ、いずれにしてもグレイ領の邸宅までついてくれば、シャーロットと顔を合わせないわけにはいかない。机の上で組み合わせた両手に力がこもる。
「あなたがシャーロットを救ってくれたことには、本当に心から感謝をしています。ですが……こちら側の事情で非常に申し訳ないのですが、シャーロットには会わないでいただきたいのです」
「事情?」
「シャーロットはあの事件のことをあまり覚えていないようなのです。それだけショックが大きかったのでしょう。ですから、それを思い出させるようなことは避けたいと考えていまして」
「そうか……」
 ひどく残念そうにしながらも、それなら仕方ないと一応は納得してくれたようだ。それでもただでは引き下がらないのが彼である。
「じゃあ、せめて写真を撮ってきてくれないか」
「……わかりました」
 受けた恩を思えば、写真のひとつやふたつくらいやぶさかではないが、彼がそこまで必死に要求することに何か違和感を覚えた。本当に救出した少女を気にかけているだけなのだろうか——。

「おとうさま!」
 領地の邸宅に帰るなりシャーロットが満面の笑みで駆け寄ってきた。アーサーはすぐに抱き上げ、遅れてやってきた妻や息子二人とも笑みを交わし、胸を熱くしながらただいまと告げる。
 子供たちはみんな一目でわかるくらい大きくなっていたし、重くなっていた。子供の成長は本当に早い。それをこうしてありありと実感できるのは幸せだが、一緒に暮らせない現状はやはり寂しい。
「仕事を辞めたくなるな」
「さすがに早いわよ」
 おかしそうにころころと笑う妻に、こちらに戻ってからの子供たちの様子を聞いたところ、敷地内だけで楽しく日々を送っているとのことだった。いまのところ街に行きたがることもないらしい。
 ひとまずは安堵した。けれど成長するにつれて不満が出てくる可能性は大いにある。そうなったらどうすればいいのだろうか。そもそもいつまで禁止すればいいのだろうか。今後の不安は尽きない。
 とはいえ、いずれにしてもいますぐにどうこうすべき問題ではないのだ。おいおい妻と相談しながら考えていけばいいだろう。それよりもまずは子供たちと過ごす時間を優先しようと決めた。
「シャーロット、写真を撮るよ」
「写真ってなぁに?」
「肖像画みたいなものかな」
 翌日には写真技師を呼んでシャーロットの写真を撮った。ついでに妻の写真も。息子二人はまだじっとしていられないので見送ったものの、もうすこし成長したら撮れるようになるはずだ。
 決して安くはない。しかしそれに見合うだけの価値は十分にあると思っている。
 そもそもはリチャードに頼まれたことがきっかけなのだが、いまはアーサー自身がおおいに乗り気になっていた。家族の写真があれば、離れて暮らしているあいだの心の支えになるだろう。
「どれもよく撮れているな」
「わぁ、そっくり!」
 写真が出来上がると、ローテーブルに広げて家族みんなで見ていく。
 シャーロットは初めて見る写真に驚いているようだった。すぐに手にとり、凝視したり裏返したり光にかざしたりと興味津々である。一方、妻は自分の写真を目にして微妙に恥ずかしそうな顔になった。
「これ、あなた本当に持っていくの?」
「そのために撮ったからな」
 反対はしないので、ただ単に照れているだけなのだろう。
 写真はすべて折れないよう丁寧にファイルに挟んで鞄にしまった。それを持ってあした王都に戻る予定だ。寂しい気持ちはあるが、妻子を領地に帰したあのときほどの孤独感はなかった。

「シャーロットの写真です」
 王都に戻ると、約束を果たすために騎士団本部のリチャードを訪ねた。
 挨拶もそこそこに厳選した五枚を彼の執務机のうえに並べる。どれもこのうえなくかわいくてきれいで愛らしくて、彼の思惑がどうであれ、見てもらえるだけで誇らしいような気持ちになる。
「あのときよりもすこし大きくなってるよな」
「はい、元気にすくすくと育っております」
 どうして写真をと思ったりもしたが、もしかしたら本当にシャーロットのことを気にかけていたのかもしれない。彼はやわらかい微笑を浮かべつつ一枚一枚しっかりと目を通していた。ただ——。
「ありがとな。五枚ももらえるとは思ってなかったよ」
「……あの……差し上げるつもりはなかったのですが」
「えっ?」
 彼は困惑しているようだが、アーサーのほうこそ大いに困惑している。写真を撮ってきてくれとは言われたものの、写真をくれとは言われていないのだ。
「元気にしている姿をお目にかければいいだけかと」
「いや、せっかく撮ってきたんだからくれよ」
「ですが……よその子供の写真なんて要りますか?」
「俺とおまえの仲だろう!」
 どうしてそこまで写真をほしがるのかもわからないし、俺とおまえの仲というのもわからない。一瞬、アーサーに懸想しているという例の憶測が頭をよぎったが、そんなわけはないと慌てて思考から振り払う。
「わかりました」
 すこし迷ったが、恩人である彼の要望なら断るわけにはいかない。度が過ぎたものではなく写真がほしいというだけなのだ。
「それでは一枚だけ差し上げますのでお選びください」
「ん、一枚だけ?」
「もともとわたしが眺めるために持参したものですから」
「なるほど、それで五枚も撮ってきたというわけか」
 彼は得心したように頷くと、机のうえに並べられた五枚を見比べながら考え始める。どうしてそこまでというくらい真剣な様子で。
「んー……じゃあ、これをもらうよ」
 選んだ写真はシャーロットの顔がアップになっているものだ。すこしの揺るぎもない清冽な緑の瞳をまっすぐに向けられて、まるで奥底まで見透かされるかのように感じてしまう、そんな一枚である。
 なかなかお目が高い——。
 それが最もシャーロットの本質を捉えていると思っていた。もちろん他もそれぞれ違った魅力があるのだが。そんなことを考えながら丁寧に残りの写真を回収して、脇に抱えていたファイルに挟む。
「あなたも早く結婚すればいい。我が子はかわいいですよ」
「そうはいっても当分のあいだは結婚できないんだよなぁ」
「それは、どうして……」
 聞いていいのかどうかわからず躊躇いがちに尋ねると、彼はふっと思わせぶりに口元を上げ、紫色の挑発的なまなざしでアーサーを見据えて告げる。
「おまえのせいだ。責任は取ってもらうからな」
「えっ……わたしの……?」
 そのとき、最後のピースがはまった気がした。
 ここまできたらもはや誤解や曲解だと思うほうが難しい。アーサーに懸想しているという例の憶測は正しかったのだ。彼の同僚たちも、そこここでひっそりと生あたたかい笑みを浮かべていた。


◆目次:伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい



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