増田カイロプラクティック【読書三昧】

増田カイロプラクティックセンターのスタッフ全員による読書三昧。
ダントツで院長増田裕DCの読書量が多いです…。

日本の心を語る

2011-03-01 15:39:40 | 佐藤留美子
日本の心を語る
平山 郁夫
中央公論新社


2011/1/18~3/6東京国立博物館で「仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護」の特別展が開かれており、これを鑑賞に行く前の予習として読んだ平山郁夫氏の本。
今回の展示のメインの一つは「大唐西域壁画(だいとうさいいきへきが)」です。実は私は昨秋に奈良の薬師寺の特別公開でこの壮大な壁画を見ていたのです。ただその時、薬師寺に訪れた理由は別にあって、この壁画についてそしてそれを描いた平山氏について全くの無知でした。雄大な山々が描かれていた記憶しか残っていません、大変失礼な話です。

平山氏は画家ですが、仏教と東西交流をテーマに創作活動を続けていく中で、世界各地で文化遺産が危機的な状況にさらされているのを目にし、それらの保護の重要性を感じ、「文化財赤十字」を設立しました。
一方的に文化財を守ろうとするのではなく、伝統を守ることの大切さを訴えたり、地元の人々に修復技術を指導し、自分たちの力で守れるような働きかけを行ないました。
文化財を守るためには、その土地の歴史や背景、宗教、自然観などを知り、自分たちの文化への誇りを自覚してもらうことが必要であると平山氏は考えたのです。金銭的な支援は一過性のもので、地元の人が大切さを理解していなければ、時が経てばまた壊され失ってしまうのです。
私は今の自分の身の回りのことを考えるのに精一杯なのに、世の中には自分のことだけでなく日本のこと、そして世界のことへ目を向けて、さらに直接自分の利益にならなくても将来の人々のためを考えて大きな活動をしている人がいることに改めて感動しました。

ただ画を描くだけでなく、このような活動を続けていた彼の根底にあるものは、
・14歳、広島での被爆体験、
・大伯父の教え、「絵がうまい人間はいくらでもいる。必要なのは自分の世界をもつこと、そのために文学や哲学の古典を読んで、人間としての幅広い基礎を身につけなさい」
ということです。

大唐西域壁画も単なる絵ではありません。実際に展示されている画を見ると「大画面液晶ハイビジョン3D」という感じです。なんだか軽~く表現してしまいましたが、本当に立体感が感じられます。創作活動約20年、この奥行きはその画に懸けた平山氏の思いが表れているのだと思います。

本書では彼が活動の中で感じたこと-世界を見つめる大切さ、そしてそのためには日本文化がどのような変遷をとげてきたのか、そして現代社会において日本がどのような文化的役割をになうべきなのかが述べられています。
また第3章ではご自身が歩んできた経験からでしょうか「子供を育てるということ」というテーマで書かれています。被爆経験を経て、画家として日本人として人間として地球に生きる者として、自分の進むべき道を必死に探してきた彼のメッセージは、どの育児書よりも説得力を感じます。

予習として何となく手にした本ですが、予想以上に内容が濃く、彼の素晴らしい活動はもちろんですが、その根底にある考え方を知ることができ、感銘を受けました。また一人素晴らしい人と出会えました。

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