![]() | 鬱の力 (幻冬舎新書) |
五木 寛之,香山 リカ | |
幻冬舎 |
これは2008年出版の本ですが、図書館の新刊コーナーに置かれていた本。
誰かがそこに置き去ってしまったのでしょう。おかげで読む機会を得られました。
精神科医の香山リカさんと作家の五木寛之さんの対談形式の本、楽しそうな組み合わせだなという理由だけで手にしました。
「治療すべきうつ病と、人間本来の感情である『うつ』は分けなければならない」という共通の考えから2人の対談となったようです。
以前は精神疾患の診断は「心因性」「内因性」「外因性」の3つをシビアに区別しなくてはなりませんでした。つまり失恋して悲しいというのはうつ病でなくて心因性のうつ反応にすぎないと。
しかし現在は世界中で共通の診断基準が使われ、マニュアル式の診断ができるようになり、それ以来うつの背景をあまり問わないことになったらしいのです。失業してうつになった人も、脳に問題があってうつになった人も、貧困などの社会問題でうつになった人も、その症状が2週間以上続いていればうつ病と診断できる非常にシンプルになってしまいました。どちらにしても「うつ病」と「うつな気分」を区別しなくてよいので、治療法はある種の薬を出して終わりです。
香山さんは精神科の現場で起きている変化に警鐘を鳴らしながらも時に面白い表現を交え話してくれています。
一方、五木さんは日本全体が戦後から60年ほどは「躁の時代」が続き、いまは「鬱の時代」へ転換してきている、「鬱の時代には、鬱で生きる」と述べています。
無気力な人は鬱にならない、エネルギーと生命力がありながら出口をふさがれていることで中でなんとなくモヤモヤと発酵するものが鬱である、というのが五木さんの考え。
ニュースでもうつ病に関する問題が取り上げられることがあり、日本を支える働き盛りの年代にうつ病が多くなっていると聞くと、この先日本はどうなってしまうのだろう?と思うこともありますが、そんな時こそこのような発想の転換が必要だと思いました。「うつ」と聞くとマイナスのイメージがありますが、日本全体がうつの時代なのだから、その中で自分がどのようにあるべきか考えることが必要なのでしょう。
うつに対する薬や診断だけでなく医療全般のこと、日本社会のこと、鬱の思想などを中心にフリートークのように次から次に話が沸いてきて、お二人の知識の広さに感心しながら読んでいて引き込まれていきます。
そして何によりこの本の良い点は、うつ病に関する難しく堅苦しいことは書かれていないこと、おしつけのような「○○しなさい」がないこと、そして文字が大きいこと。読みやすさ◎です。