前回の続きです。
ー 湯殿 2ー
ウチの湯殿は近所の銭湯だった。
寮と最寄駅の間にあって、毎日 前は通るもののウチの職場関係の人で行ったという話は聞いたことがない。銭湯までの道すがら「良く行かれるんですか?」と聞いてみると、なんと「初めて」とのこと。
ちなみに この“なんと”は、質問に対し素直に即答したことに驚いた。
いつも質問には答えねーし、思いつきのお出掛けに巻き込まれたりとあまり良いことはないが、こんなことでもないと銭湯なんて行く機会がない。だから今日は良しとしよう!
番台のところでお金を払い脱衣場へ、ササっと用意して浴場の入り口付近へ移動。
先輩がやってきたタイミングで引き戸を開け、先輩は「おぅ」と声を掛け浴場へ入っていく。
もう殿みたいとかではない。まさに殿様だ。
湯船に浸かって大してためにもならない話をして、ほどよく温まってきたところで仲良く洗い場へ。頭を洗いすすぐ先輩の頭にシャンプーをかけ続け“すすぎ終わらない作戦”を決行してみたが、先輩から「殺すぞ」と言われあえなく退却。シャンプーかけて殺されてては割に合わない。
先輩が洗い場を離れるのと入れ替わりに恰幅のいいおじさんが横に座った。
特に気にもせず身体を洗い流していると、まるでJKのような「きゃっ!」と小さな叫び声が聞こえた。
ん?っと思い隣りをみると・・・。
こっちに睨みをきかせつつ、シャワーを手にしたおじさんと目が合った。
即座に目をそらし、その後見てないフリをしつつ様子を伺っていると、ムッとした顔でシャワーの温度調節をし、そして時折こちらを睨む。
なんで…? 身に覚えはないが何だかヤバそうな雰囲気だ。
状況は徐々にわかりつつあったが、洗い場の鏡で先輩の居所を探すと、遠く離れた湯船に顎まで浸かってこっちを見てるのを見つけて確信した。
“あの野郎、自分が洗い場を離れるときにシャワーの温度を冷水にしていきやがった”
怒るならあの野郎に怒ってくれよ とも言えず、早々に何事もなさげにその場を離れることで頭がいっぱいになったが、よくよく思い出すと、あの野郎が洗い場を離れる前になんやかんやこっちに話しかけていたのは、おじさんに先輩と仲間であることを印象付ける作戦だったのかもしれない。
つづく