前回の続きです。
ー 湯殿 3ー
浴場では、湯船でほどよく温まって・身体を洗って・再度湯船に浸かった僕らにもうやることはなかった。先輩も「先に出るわ」と言いながら脱衣場の方へと歩いていってしまった。
遠ざかる後姿を見るとはなく見ていると、浴場出入口の扉のところに止まってなんかやっている。
どうしたんだろう?
ん? 鍵が掛ってる?
いや…
スライドドアなのに手前に引いてる...
確かにこの扉はわかりにくい。
見た目が押し引きするドアのように見えること、そして、扉に「引」と書いてある。
が、ここは引き戸である。
なかなか扉が開かず焦った感じでこちらを振り返りそうになったので、僕は条件反射的に目線を外し、少し泳がせておくことにした。
しばらくすると今度は扉を押し始めた。
でも開くわけがない。
ここは引き戸である。
周りの人も先輩の行動に気づき始めたが、先輩は他人の視線など気にすることもなく。前に後ろにガチャガチャやっている。
その手がパタっと止まり、小走りにこちらに近づいてくる。
先輩が僕の耳元でささやいた。
「とじこめられた!」
僕)「僕ら以外にも10人くらいいますよ」
先輩)「んじゃ、皆 閉じ込められたかも」
僕)んな訳ねーやろ と思いつつ
「そうかもしれませんね」
と答えたのと同時ぐらいに…
浴場にいたおじさんが引き戸を開けて脱衣場へと出て行った。
それを2人で見ながら
「大丈夫でしたね」と先輩に笑顔を向けると、先輩は答えることなくスタスタと脱衣場へと行ってしまった。
無言で服を着て
無言でコーヒー牛乳を飲み
無言で銭湯を出て
50mくらい歩いた先で先輩が言った
「おまえ知ってたんか」
「いや、いやいやいやいやいや…」
風呂上りのはずなのに、背中が少し涼しくなった…