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最初、天気も曇り気味で人が少なく観賞しやすいかな、と思ったが、入ってしばらくすると次第に混んできた。お年寄りとかカップルとか特定の層ではなく、様々な人々が幅広く観に来ている。
実際、サルヴァドール・ダリと言う人も単にシュールレアリスムの枠にとどまらない、幅広く芸術を吸収し、多様な作品を世に送り出してきた作家であることが分かる。
初期の作品などは分かりやすい。あぁ、これはピカソ風だな、あぁこれはホアン・ミロ風だな、あるいはデ・キリコ風だな、とピンとくる。つまり、確たるダリの個性が確立するのはその後になる。
ダリの人気はおそらく、シュールレアリスムとしては分かりやすい部類に入るからではないか、と思う。作品の構成は超現実主義的だが、1つひとつのモチーフは身近なもの、たとえば時計が曲がっていたり、ピアノの鍵盤がデフォルメされていたり、と遊び心がある。
しかし、ファンタジックな世界から次第に彼の作風に悪趣味的な要素が入ってくる。カラフルさは影を潜め、直接的ではないにせよ、戦争の暗い影が背景にありそうだ。人物や動物はファンタジックな表現でのみ登場するが、物で暴力的な表現が時折見て取れる。
さらに、ダリは広島長崎の原爆投下に影響を受ける。しかし彼は犠牲者のイメージはなく、むしろこれまでの科学のイメージをひっくり返す圧倒的な原子力の力を神秘主義と結びつけてしまう。この辺りはちょっと被曝国に暮らす人間としては理解できない。私としては、率直に残酷さを表現した「ゲルニカ」を描いたピカソに軍配が上がる。
映像作品、モダンバレエなど、20世紀の多様化した芸術表現手段にもダリは幅広くコミットしていく。そこでたくさんの作品が生み出されるが、第二次大戦中、アメリカに亡命していたところからも、かなり商業主義に走った、と言う印象を受ける。それ自体は自分の好みではない。ただ、そうした商業主義的なアプローチは、後々ポップアートがアメリカで花開く素地を作ったのかもしれない。
絵画作品も多かったし、映像作品もあったので、観賞に2時間半近くかかった。次の予定を考え、早めに家を出て正解だった。