こうもり傘

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映画感想「英国王のスピーチ」:薄味な、あまりにも薄味な...

2011-05-05 02:27:26 | 映画

英国王室——恐らく世界で一番人々の関心を集める王室であると言って差し支えない存在だろう。英国王室はなぜこれほど世界中の耳目を集めることができるのか。アカデミー賞で4部門を獲得した本作が、その理由をおしえてくれるはずだ。

 舞台は戦間期の英国。パクス・ブリタニカの栄光は歴史の彼方に去り、ナチスドイツとソビエトロシアの台頭もあって国力の衰退は隠しようもなくなっていた。王室も最早世間から超然とした態度を取り続ける訳にもいかず、国家の象徴として国民と向き合い、鼓舞することが求められていた。こうした時代背景を念頭において本作を見ると、重度の吃音を克服しようともがくジョージ6世(コリン・ファース)の奮闘ぶりと、英国人の象徴としての新たな立ち位置を模索する王室の姿が重なって見えてくる。それがためにクライマックスの演説シーンで訪れるカタストロフィーがジョージ6世のみのものではなく、新たな立ち位置を獲得した英国王室の、ひいては国民に向き合う姿勢を持った王を頂いた英国という国家のカタストロフィーとしてもとらえられ、見るものに大きな感動を与えているのではないだろうか。 

 本作は新進気鋭の若手監督、トム・フーパーの指揮の下、コリン・ファースやガイ・ピアースといった英国の有名俳優がその実力を遺憾なく発揮している。その中でもジョージ6世の吃音矯正を任される偏屈オーストラリア人、ライオネルを演じたジェフェリー・ラッシュの演技は目を見張るものがある。普段は偏屈な人間を決め込んでいるが、状況によっては卑屈になったり、優しさをみせたりする人間らしい「ぶれ」を演技だけで表現しきったのには脱帽した。物語の軸は終始ジョージ6世に据えられているので、本来はライオネルには焦点が当たりにくいプロットだったにもかかわらず、ジョージ6世との交流を通して素直な心を獲得するライオネルの物語も浮かび上がってくる。 

 とはいえ「大満足!」と言える映画ではなかったことはたしかで個人的には物足りなさが拭えなかった。それは映画として手際が良すぎることに起因するように思われる。クライマックスを除けばドキドキさせる場面でも、笑わせる場面でも、気まずくさせる場面でも、最低限の描写を揃えたらすぐ次のカットに移行してしまう。サクッと見られる娯楽映画としては正解なのだろうが、あまりにも薄味過ぎるような気がしてならない。(★★★☆☆)