土木屋政策法務自習室(案)

土木系技術職員がいろいろな事案を法律を基点に検討しています。

人口減少時代の道路管理の負担軽減策について考えてみた。

2021年03月07日 14時18分04秒 | 道路法

人口減少の時代においては、税収及び労働者数が減少することが考えられます。
そのため、現在、管理している橋梁、トンネル、舗装及び附属物等の道路施設の維持管理に充てられる費用や人材が不足し、道路を常時良好な状態に保つことが困難になると思われます。
以下には、維持管理における負担を軽減するための措置について検討します。


1.人口減少
日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計、国立社会保障・人口問題研究所)によれば、将来の人口等は下記のとおり推計されている。

○総人口 全国 2015年127,095千人 2045年106,421千人 2015年比83.7%
○地域ブロック別総人口 2045年人口の対2015年比
 北海道74.4% 東北69.0% 関東91.3% 中部82.4% 中国81.5% 四国73.4% 九州・沖縄83.0%
○都道府県別15-64歳人口 2045年人口の対2015年比
 全国72.3% 40%台都道府県2 50%台都道府県5 60%台都道府県25

これによれば、総人口が減少することの他、15歳から64歳までの人口(生産年齢人口)が32の都道府県において7割未満になるとされ、とりわけ半減以下になる道府県も2あることから、将来、道路の維持管理に対して必要な費用及び人員を、現在の水準で充当することは困難になると推測される。

2.道路管理おける施設管理の義務
道路法等においては、「道路の維持又は修繕」及び「技術的基準(点検)」について下記のとおり定めている。

道路法
(道路の維持又は修繕)
第四十二条 道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。
2 道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める。

道路法施行令
(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)
第三十五条の二 法第四十二条第二項の政令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。
一 道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況(次号において「道路構造等」という。)を勘案して、適切な時期に、道路の巡視を行い、及び清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置を講ずること。
二 道路の点検は、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと。

道路法施行規則
(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)
第四条の五の六 令第三十五条の二第二項の国土交通省令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。
一 トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において「トンネル等」という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること。

これによれば、道路管理者に対する義務としては、①常時良好な状態に維持・修繕して一般交通に支障を及ぼさないことと、②トンネル等を5年に1回の頻度で点検すること、が課されている。
このため、道路の延長やトンネル等の道路施設の多さによって、維持管理の負担が増えることとなる。

3.維持管理・軽減策(一般)
維持管理に対する費用及び人工を減ずるには、前述の道路延長及び施設の数(量)の抑制・削減に合わせて、以下の項目が考えられる。
①〔量の抑制・削減〕 道路延長の増加の抑制・削減、道路施設の抑制・削減、点検対象箇所・要対策箇所の削減
②〔質の低減〕 維持管理水準の低減区間の設定
③〔原因者への除去等の請求〕 道路区域を侵害する物件に対する原因者への除却等の履行請求
これらについて、政策分野、技術分野及び法律等分野、それぞれについて軽減策を述べる。

4.軽減策(政策分野)
○長期間に渡って不連続で将来の改良工事の見込みの無い区間を有する路線の変更・廃止
過去に将来の改良工事を期待して山越えの路線を認定している場合がある。
現状においては、将来の通行量が見込めず、また難工事による多額の工事費が掛かることから、改良工事の予定は立たない場合がある。
一定期間が経過し、改良工事の予定がない場合には、現状に合わせてその区間を路線から除外する。
その際、起終点の地点が変更となるため、路線の変更・廃止を行う。
○都道府県と市町村との連携による路線の統廃合及び道路施設の削減
特に交通量の少ない山間部において、都道府県道と市町村道が並走する区間や山間部の集落へのアクセス道路が複数ある場合には、道路管理者の境界を超えて路線の統廃合の可否を検討する。
これにより、一方の路線が廃止されることができる場合には、橋梁等の道路施設の長寿命化対策施設の削減も可能となる。
○都道府県と市町村との連携による除雪しない区間の設定
冬期の特に山間部の都道府県道と市町村道とにおいて、一方の路線を除雪しなくとも地域の交通が確保される場合には、その区間の除雪を行わず冬期閉鎖とする。
○巡回及び維持管理作業の頻度の低減区間の設定
主として山間部の行き止まりの道路において、その区間を通行する者が終点の集落等の住民が大半である場合には、通行者の区間の道路性状の熟知度に期待して一定程度維持管理水準(巡回及び維持管理作業の頻度)を低減する。

5.軽減策(技術分野)
○道路施設の設置の抑制
道路の設計において、例えば山間部の横断形状を決める場合には、その地質条件に見合う安定勾配を設定することとなる。
しかし、設計段階では予期しない湧水や地質の変化が生ずる場合がある。
その際には、その「安定勾配」を保持するための擁壁工、グラウンドアンカー工及び吹付枠工等の法面保護対策の追加施工を行うこととなり、その対策工に要する費用の他、事後の点検、維持管理に費用が掛かることとなる。
これらの費用を発生させないとすれば、例えば小規模切土法面の設計となる場合であれば、法面勾配を「安定勾配」からさらに緩斜面あるいは平地とし、法面そのものを生じさせない計画とすることが望ましい。
つまり、用地取得による道路施設の設置を不要とする対策と言えるものである。
この場合、その平地は、原則として道路管理者が用地買収により取得するものとするが、相手方の所有のままとしても構わない。
○防災点検箇所(法面)の維持管理対策としての法面の除去
前述の用地取得による道路施設の設置を不要とする対策は、防災点検の対象となっている法面に対しても有効であると考える。
法枠工やモルタル吹付工が劣化した小規模法面における維持管理対策としては、法面対策工の検討と合わせて用地取得により法面そのものの除去を検討する。

6.管理軽減策(法律面)
○維持管理水準の複数設定化
日常的が道路の維持管理については、道路法施行令の他、道路の維持修繕等管理要領(昭和三七年八月二八日建設省道発第三六八号道路局長通達)により定められている。

道路法施行令
(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)
第三十五条の二 法第四十二条第二項の政令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。
一 道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況(次号において「道路構造等」という。)を勘案して、適切な時期に、道路の巡視を行い、及び清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置を講ずること。

道路の維持修繕等管理要領(抜粋)
2 道路パトロールの実施
 1 交通量三〇〇台/日以上の主要な路線については、担当区間を定め、定期的にパトロールを行なうこと。
 2 台風、豪雨等の際及びその直後にはパトロールを強化すること。
 3 パトロールするに当たっては、担当区間内について、次の事項を適確に行なうこと。

これによれば、交通量300台/日未満の区間については、巡視(パトロール)を道路管理者の義務とはしていないため、道路管理者の裁量によって合理的な巡視等の頻度を定めることができるものとされている。
しかし、交通量300台/日に満たない路線であっても、道路管理者は他の路線と同様の頻度で巡視を行っていることが多いものと考えられる。
管理の負担を削減するには、このような交通量の少ない路線について巡回頻度を低減すること必要であり、下記の対策を採用し可能となるものと考える。
①〔道路利用者への周知〕 巡回頻度を複数設定する場合、条例により公示する。
②〔道路利用者への周知〕 路線の通行者に対して巡回頻度が低い路線であることを現地に標識等で明認する。
③〔道路利用者からの情報受信体制の構築〕 利用頻度の高い道路通行者を連絡者として委任し、道路の状況の通報を依頼する。
このうち、①については、道路法42条において「路線により異なる管理水準を定めた場合は、道路管理者は条例で指定できる」及び「指定した場合は遅滞なく公示しなければならない」とする旨の条項を追加することによって、その法的根拠とする。

○道路区域外からの侵害に対する道路管理者への命令権限の付与
道路法においては、下記の規定が定められている。

(沿道区域における土地等の管理者の損害予防義務)
第四十四条 道路管理者は、道路の構造に及ぼすべき損害を予防し、又は道路の交通に及ぼすべき危険を防止するため、道路に接続する区域を、条例(指定区間内の国道にあつては、政令)で定める基準に従い、沿道区域として指定することができる。但し、道路の各一側について幅二十メートルをこえる区域を沿道区域として指定することはできない。
2 前項の規定により沿道区域を指定した場合においては、道路管理者は、遅滞なくその区域を公示しなければならない。
3 沿道区域内にある土地、竹木又は工作物の管理者は、その土地、竹木又は工作物が道路の構造に損害を及ぼし、又は交通に危険を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、その損害又は危険を防止するための施設を設け、その他その損害又は危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
4 道路管理者は、前項に規定する損害又は危険を防止するため特に必要があると認める場合においては、当該土地、竹木又は工作物の管理者に対して、同項に規定する施設を設け、その他その損害又は危険を防止するため必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
 
道路の維持管理において、道路区域外の隣接地からの木の枝の侵害が多く、建築限界への侵害及び枝の落下等によって通行の危険となる場合があり、道路管理者が維持管理の費用によって除去していることもある。
このため、道路区域を侵害する物件及びそのおそれがある物件については、直接相手方に命令を行うことのできる権限の付与が必要であると考える。
44条は道路管理者に対して侵害の相手方への命令の権限を付与する規定ではあるものの、前提として道路管理者が沿道区域を指定する手続きが必要であり、点在する物件等に対する臨機な対応が困難であると考えられる。
道路管理者が「一般交通に支障を及ぼさないように務めなければならない(42①)」とする義務を負っており、この義務を十分に果たすための法的権限として直接相手方に侵害する物件の除却を命令する権限が必要と考える。
この規定により、本来、侵害の相手方が負担すべき除却費用を負担することになり、通行の安全性が向上するとともに、道路管理者の負担が軽減されるものなる。

 
おわりに
 
橋梁等の道路施設について、将来に渡って長持ちさせるための長寿命化対策としての維持補修工事が行われています。
しかし、長寿命化対策として道路施設を延命したとしても、必ず終わりが来ます。
将来、現在の道路施設の全てを維持管理することは困難です。
また、人口密度の希薄化、集落の消滅等、地域の人口分布も変化・縮小することが考えられます。
このような、将来の状況に合わせて、施設の長寿命化の要否を検討、残すべき施設の選別、廃止できる施設の選定等を考えていかなければならないものと思います。
 
以上


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