土木屋政策法務自習室(案)

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民法・相隣関係の改正(R5.4.1施行)による道路の維持管理への影響について考えてみた。

2022年11月27日 08時20分27秒 | 道路法

令和3年に改正された民法が、令和5年4月1日に施行されます。
この法改正においては、隣地との関係を規定する「相隣関係」が改正されています。
以下には、民法の相隣関係規定の改正による道路管理への影響について考えてみます。


1.民法・相隣関係の改正条文

 現行の条文と改正条文は以下のとおりである。
 
◯現行 施行日:令和4年6月17日 ※以下には「旧民法」という。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
 
◯改正 施行日:令和5年4月1日 ※以下には「改正民法」という。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
 三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 これによれば、旧民法においては、隣地の竹木の枝が境界を越える場合には土地の所有者から竹木の所有者への請求にとどまるのに対して、改正民法においては旧民法規定の請求に加えて各条件(民法233条3項1号から3号まで)を満たす場合には、土地の所有者(隣地の枝により侵害を受けている者)による枝の切除が可能であるとしている。

 

2.道路維持管理への影響

 1.に示したとおり改正民法においては、一定の条件のもとで土地の所有者に対して枝の切除の権限が付与されることとなる。
 これに伴う道路維持管理の影響について下記に列挙する。

◯竹木所有者に対する枝の切除の手続きの簡素化による現実の支障除去の実現

 旧民法のもとでは竹木の所有者への請求にとどまるため、隣地の竹木の所有者が枝の切除をしないとき、土地が民地の場合には、土地の所有者が枝の切除を請求する民事訴訟を提起し請求認容判決を得た上で、民事執行法における代替執行(債務者(竹木の所有者)の費用で第三者に枝の切除をさせる方法)を行うことにより枝の切除を実現させる必要がある。
 また、土地が道路敷地の場合であれば、道路管理者による監督処分及び行政代執行による必要がある。
 いずれの場合においても、枝の切除を実現するには非常に多大な費用と時間を要することとなる。
 しかし、改正民法によれば、所有者に催告をした後相当期間内(2周間程度(令和3年4月20日・参議院法務委員会〔政府参考人による回答〕))に切除しない場合(1号)、竹木の所有者を知ることができない場合(2号)、及び急迫の事情がある場合(3号)等の一定の要件を満たした場合には、土地の所有者である道路管理者が自ら枝の切除を行うことができるとし、旧民法に比べ簡素な手続きにより、枝の切除による支障の除去が容易に実現できるのものとなっている。
 このため、改正民法はこれまでより管理上支障となる状態を短期間で解消することができることとなるほか、枝との衝突・接触による事故を減少させることができ、それに伴う被害者から道路管理者に対する損害賠償請求を減らす効果も期待できるものとなっている。

◯枝の切除の費用負担

 3項によって道路管理者自らが直接隣地の竹木の枝の切除ができるとすれば、その費用を誰が負担するかが課題となる。
 民法の規定によれば、隣地の竹木の枝が境界線を越えることは「竹木の植栽に関する瑕疵(717条1項・2項)」であり、工作物の占有者(竹木の所有者)に損害賠償請責任が生ずることとなるため、竹木の所有者は損害賠償責任を負うこととなる。すなわち、道路管理者が枝の切除に要した費用は、原則的には竹木所有者が負うものとも考えられる。
 しかし、今回の法改正においては、枝の切除の費用の負担については、検討されたが明文化は見送られているという経緯があり、必ずしも竹木の所有者が負担するともいいきれない。
 比較として、行政が相手方の不履行の行為を自らの行為によって解消する類似の法規定として、行政代執行(行政代執行法)があるが、この行政代執行の場合には「その費用を義務者から徴収することができる(2条)」とする明文規定が設けられている。
 このため、改正民法による枝の切除の費用負担については、明確に竹木の所有者が負担することとするには十分ではなく、相手方との協議及び判例等の積み重ねにより個別の事案ごとに判断せざるを得ないものと考えられ、当面の間は道路管理者が負担することを原則とせざるを得ないものと考えられる。

◯道路管理において適用される場面

 改正民法によって、道路管理者が自ら枝の切除をできることとなったとしても、道路管理の実務においてどのような場面に適用できるか、従来の管理手法ともあわせて検討する。

支障となる枝については、その場面によって以下の対応が考えられる。
①竹木の所有者に対する通知及び指導
  法令根拠等:行政手続法2条6号・行政指導
  道路管理者の対応:竹木の所有者に対する通知及び指導、切除業者の斡旋
  費用負担:竹木の所有者

②通知不可による道路管理者による切除
  法令根拠:改正民法233条3項2号・所在不明
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:道路管理者(当面の間)

③急迫の事情による道路管理者による切除
  法令根拠:改正民法233条3項3号・急迫の事情
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:道路管理者(当面の間)

④催告後の不履行による道路管理者による切除
  法令根拠:改正民法233条3項1号・催告後、相当の期間内に切除しないとき
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:道路管理者(当面の間)

⑤竹木の所有者に対する行政代執行
  法令根拠:行政代執行法2条・他の手段で履行確保が困難、かつ不履行の放置が著しく公益に反する場合
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:竹木の所有者

 ①行政指導及び⑤行政代執行については、道路管理において従来から行われてきた手法であり、今後も継続して行われる手法である。
 ②及び③は、枝の切除の権限を付与し道路管理手法を拡張させたものであって費用負担の面で懸念もあるが、道路管理において有効に機能することが期待できる。
 ④については、適用される要件において⑤と重なることが考えられる。④では「催告からの期間」が要件となっているものの、道路管理である場合、⑤「不履行の放置が著しく公益に反する場合」の要件も当然に要求されていると考えられるからである。
 また、④は⑤に比べ簡便な手続きで実施できることから、本来⑤行政代執行でなすべき事案を脱法的な手法として採用されてしまうおそれがある。このため、道路管理においては、④は⑤に抱合される概念として、⑤に一本化して実施することが妥当と考える。

 

4.関連事項(隣地使用権)

 隣地の竹木の枝を切除する場合には、隣地に立ち入る必要がある。
 この点、改正民法においては、枝の切除についても条文が追加されている。

◯現行
(隣地の使用請求
第二百九条 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

◯改正
(隣地の使用
第二百九条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

このため、枝の切除を行う場合、例え隣地の所有者が土地の使用に反対した場合、あるいは連絡がつかない場合であったとしても、道路管理者は枝の切除のための隣地の使用が可能としている。

4.おわりに

 前の投稿から間が空いてしまい、久しぶりの投稿となりました。
 検討の当初は、民法相隣関係の改正は、枝の切除を自身でできる権利が新たに付与されたものであり、道路管理においてはメリットだけかなとも思っていました。
 しかし、検討をすすめていくにつれて、道路管理者の費用負担の面や行政代執行との兼ね合いがあり、その運用においては簡単では無いこともわかりました。
 とはいえ、道路管理上の手法が拡張されたことであり、この手法を活用して道路管理における通行の安全性の向上に繋げていければと思います。



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