その死闘に終止符を打った時、誰もが内心ほっとした。。・・・・まさかのスピーチ③

客席から この大失態を見ている我々も 同情を禁じ得ず、胸は痛み、

まるで 自分が失敗したような、ばつの悪さに いたたまれない思いです。



それでも彼は、思慮分別など何のその、頑固に話を続行します。



もがき、　メモを調べ、　謝り、　そして 水を飲むのでした。



本人以外は皆、見るも無残な その光景が、完全な破局へと一気に近づいていることを感じていました。



彼が腰を下ろし、その死闘に終止符を打った時、誰もが内心ほっとした のです。



これほど居心地の悪い客席は　はじめてでした。

そして、これほど赤っ恥をかいて 面目丸つぶれになった話し手も、他に知りません。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｄ・カーネギー　　話し方入門　　市野 安雄 訳より



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　井の頭公園

ぶっつけ本番でやろうとした彼でしたが。。・・・・まさかのスピーチ②

ぶっつけ本番でやろうとした彼でしたが、今やどうにもならなくなって、

ポケットからメモ用紙の束を引っ張り出します。

秘書がまとめてくれたんですが、と白状しますが、誰一人その打ち明け話を疑う者もいません。



しかも そのメモ用紙にしても、その混乱ぶりといったら、

屑鉄を満載した、屋根も囲いもない貨車よりも なお始末が悪いのです。



彼は、神経質にあちこち引っかきまわしては、メモ一枚一枚を 目を皿のようにして見ます。



自分の位置を確かめ、この荒野を抜け出す道を 必死に見つけようとしているのです。



また、そうしながらも 何とか話そうと試みてもみます。

しかし、それは無理な相談でした。



彼は わびを言い、水を所望し、震える手で一口飲んでは、二、三きれぎれの言葉を発したかと思えば、

同じことを繰り返し、またメモの束と首っぴき・・・・。



一瞬ごとに ますます手も足も出なくなり、取り乱し、うろたえ、身の置きどころをなくしていきます。



額には 脂汗が浮き出し、それを拭くたびに ハンカチがぶるぶる震えます。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｄ・カーネギー　　話し方入門　　市野 安雄 訳より



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あとにも先にもお目にかかったことがありません・・・・まさかのスピーチ①

以前私が、ニューヨーク・ロータリークラブの昼食会に出席した時の話です。

そこでは ある政府高官が、メイン・スピーチを行なうことになっていました。

彼の地位は威信を感じさせるに十分であり、出席者は皆 そのスピーチを心待ちにしていました。

題材は所管官庁の活動についてということで、

ニューヨークのビジネスマンなら 誰しも興味をそそられる話題でした。



題材について 彼はもちろん何もかも知り尽くしていましたし、

持ち合わせた情報量は そこで披露できるものを はるかに超えていました。



しかし、彼は スピーチの段どりを考えていなかったのです。



素材の選択もせず、話を順序立てることもしていませんでした。

にもかかわらず未経験というのは恐ろしいもので、脇目もふらずに突進してしまいます。



行く先もわからないまま、気がついたら、もうスピーチをはじめていた、という具合でした。



彼の頭の中も、我々に出してくれる精神的ごちそうも、まさに ごちゃ混ぜの一語に尽きました。



まず アイスクリームが出て、それからスープが出ました。

次は 魚とナッツ。　そして極めつきは、スープとアイスクリームと上等の燻製ニシンの混ぜ合わせ。



さすがの私も、ここまで混乱しきった話し手には、あとにも先にもお目にかかったことがありません。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｄ・カーネギー　　話し方入門　　市野 安雄 訳より



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