ガブリエル・ガルシア=マルケス(野谷文昭訳),1997,,新潮社.(1.16.25)
町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた幻想とも見紛う殺人事件。凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。
表紙の絵は、ジェームズ・アンソールの『仮面の中の自画像』。
アンソールは、小学生のときに美術館で見て衝撃を受けた画家だ。
そのアンソールの絵にふさわしい、禍々しい、ある殺人事件の記録が本書である。
創作よりも、1951年に実際に起きたルポルタージュ寄りに書かれた作品であるので、ガルシア=マルケスお得意の、奇妙奇天烈な怪奇譚を楽しむことはできないが、コロンビアの田舎町の閉鎖的な人間模様と、男たちのマチズモは、それ自体がじゅうぶんに怪奇、である。