本と音楽とねこと

経済成長なき幸福国家論、完本 しなやかな日本列島のつくりかた、進化する里山資本主義

 藻谷浩介さんがかかわった3冊の本を読みながら、わたしが、いま、もし大学生であれば、どのような食い扶持を得ようとするだろうか考えていた。
 藻谷さんが指摘するとおり、大企業の社員や公務員になったとしても、安定した生活を長期にわたって保障されるわけではない。かりに保障されたとしても、公益、共益につながらぬ、なくてもかまわないどうでも良い仕事には何十年も耐えられないだろう。
 19世紀~21世紀初頭は、化石燃料を大量消費し、環境を汚染し続ける時代であった。人間が生をつなぐのに必要なものは、食料、水、エネルギーである。近現代の都市は、水はともかく、食料とエネルギーを自給できない、持続不可能な存在である。都市は、農山漁村、離島から、ブラックホールのように人口を吸い上げ、超少子化により、いまや超高齢化の最先端にたとうとしており、高齢者介護に必要な社会資源の確保という点では、絶望的な状況にある。都市より先に高齢化、そして人口減少を経験してきた農山漁村、離島には、すでにゆたかな高齢者介護の社会資源を確保している地域も少なくないし、その土地の気候、風土にみあった、付加価値の高い食材、食品、木材等による産業振興に成功したところでは、都市から移住する若者や出生児が増えている。再生可能エネルギーの利用という点でも、過疎地域ははるかに有利である。
 衰退し、インナーシティ化した工業都市、デトロイトでは、困窮した市民が空き地を農地化し、それにより、人々の持続可能な生活が可能となった。脱工業化の抗えないトレンドが続くなかで、都市も農村化しないことには、人々の生存さえおぼつかない。
 介護の技能と資格を取得し、過疎地域で、社協の非常勤職員として働くことは容易である。住居費はさほどかからないし、半日、ヘルパーとして働き、耕作放棄地となっている田畑を耕せば、じゅうぶんに暮らしていけるだろう。
 コロナ禍は、都市に、なくても困らないどうでも良い仕事がいかに多かったかを明らかにした。わたしが学生であれば、どうでも良いことに忙殺され、生活不安におびえながら生きるより、都市を脱出し、自分で文字どおりの食い扶持を得られる人生を選ぶだろう。


平田オリザ・藻谷浩介,2017,経済成長なき幸福国家論──下り坂ニッポンの生き方,毎日新聞出版.(3.12.2021)



藻谷浩介,2018,完本 しなやかな日本列島のつくりかた──藻谷浩介対話集,新潮社.(3.12.2021)

日本再生の切り札は「現智」=現場の智慧にあり!地域再生の現場を歩き尽くした著者が、現地の人を迎えて行なった13の対話。都市の未来はどこにあるのか。農業や漁業といった第一次産業はどうなるのか。医療は、教育は、インフラは…?悲観論者の空疎な議論を一蹴する、どこまでも実践的で、ヒントと希望が詰まった一冊。『しなやかな日本列島のつくりかた』と『和の国富論』を合本。


Japan Times Satoyama推進コンソーシアム編,2020,進化する里山資本主義,毎日新聞出版.(3.12.2021)

金銭的利益最優先の「マネー資本主義」のアンチテーゼとして、「里山資本主義」が提唱されてから7年。本書では、実践者たちへの取材をもとに、各地で里山資本主義の種がまかれ、芽が出て、花が咲き始める様子を描きながら、そこにあった「成功要因」を明らかにする。お金に依存することなく、人と人とのつながりによって地域活性化を目指す人たちに不可欠なガイドであると同時に、日本と世界が進むべき道を明快に照らしだした1冊。

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