R.D.レイン(天野衛訳),2017,引き裂かれた自己──狂気の現象学,筑摩書房.(1.8.25)
世界から隔絶されているように感じられ、絶望的な孤独のなかで自分自身が分断されていく―統合失調症とはそうした病である。しかし、患者の世界に徹底的に寄り添い、彼らの声に真摯に耳を傾けていくなかでみえてくるのは、苛烈な現実に身を置かざるをえなかったひとりの人間が、それでもなんとか生きようと苦闘する、その姿である。従来の精神医療のあり方に疑問を抱き、反精神医学運動の旗手となった異才の精神科医R.D.レイン。その主著にして、ドゥルーズ=ガタリらの現代思想や、今日のサブカルチャーにも多大な影響を与えつづける古典的名著。
統合失調症の治療となると、もっぱら抗精神病薬の処方である昨今であるが、オープンダイアローグ、妄想・幻覚・幻聴を秘匿することなくピアグループで共有する「べてるの家」の当事者研究とならんで、当事者が精神科医やカウンセラーと対話しながら、自己の病識について理解を深めることも有効である。
レインの分析は、実存主義、現象学の枠組みによるものであるが、本書を読むと、だれしも経験しているであろう解離と統合失調症とが地続きのものであることがわかる。
他者とのあいだに程よい距離感覚をもつことができずに、のべつまくなしに他者が自己に侵襲してくる、あるいは、自己が他者のうちに溶解してしまう、その恐怖から、自己を守るために、自らの殻に引きこもり、被害念慮を募らせる、それが統合失調症の症状であるとすれば、病識理解と並行して、ソーシャル・スキル・トレーニングも有効であろう。
レインの実存主義、現象学的分析であれ、グレゴリー・ベイトソンの「ダブルバインド」理論であれ、根拠薄弱として退けることなく、病識理解と治療とに活かしていくべきであろう。
精神医学においても、解釈という実践を手放すべきではない。
人間は、しょせん、意味の病にとらわれた存在であるのだから。
目次
1
人間科学の実存主義的‐現象学的基礎
精神病の理解のための実存主義的‐現象学的基礎
存在論的不安定
2
肉化された自己と肉化されざる自己
統合失調気質における内的自己
偽自己‐体系
自意識
ピーターの場合
3
精神病への進展
統合失調症における自己および偽りの自己
廃園の亡霊・慢性統合失調症の研究