桐野夏生,2014,ポリティコン 上・下,文藝春秋.(1.10.25)
上
理想社会の実現を目指し、東北の寒村に建設された唯腕村は、もはや時代遅れとなったユートピア思想の残滓である。村の人間関係に倦み、強烈に女を求める青年・高浪東一は、謎の男と村に流れ着いた美少女・マヤを我がものにしようともがき、自らの運命を狂わせてゆく。理想郷を舞台に繰り広げられる、絶望郷のごとき愛憎劇!
下
村の理事長となった東一は、危険なビジネスに手を染め、マヤとも愛人契約を結ぶ。だが、心の渇きは癒されず、あるまじき手段で関係を断ち切ってしまう。十年の後、都会の片隅に沈んだヤマは、憎むべき東一の成功を知る。再会した二人を待ち受けるのは、破滅か新天地か―。性愛の暗部を容赦なく抉った衝撃作!
本作の主な舞台である唯腕村は、武者小路実篤等による「新しき村」をモデルとしたものだろう。
主人公の一人、東一の人としてのあまりのクズっぷりに食傷気味になったが、愛憎渦巻く人間関係の曼荼羅を描きながら、共同体、ホームレス、脱北者、不法滞在外国人、高齢化、世代間対立、ロハスビジネス等の問題を忍ばせる手腕はさすがだな、と思った。
超長編小説であるが、時間があれば読んで損はない作品だ。