500ページを優に超える大著。
1980年にアルビン・トフラーが、その著、『第三の波』で予見しただれもがプロシューマー(コンシューマー兼プロデューサー)である情報社会、ジョエル・コヴェルが夢に描いた、使用価値に根ざした商品やサービスがシェアされ、「アソシエーション」により「コモンズ」が水平的協働的に管理される民主社会の可能態と未来像が、詳細に論じられている。
太陽光・熱、風力、地熱、潮力・波力、バイオマス等の自然エネルギーによる電力が地域社会において自家生産され、スマートグリッドを介して協同組合により管理、運営される。もちろん、それは、各家庭や事業所において、電力消費が大きければ節電する、といったエネルギーの民主的活用の理想形でもある。
「限界費用がほぼゼロ」となると、特定の人々による財の過剰消費が生まれるのではないかと危惧されるが、それに対して、リフキンは、「脱物質主義」の意識の高まりを対置する。たしかに、住宅にせよ、クルマにせよ、わたしたちは必ずしもそれらを「所有」することを望んではおらず、「必要に応じてシェアすればよい」のである。大邸宅に住みたいとも思わない(掃除がたいへんだ)し、レクサスやメルセデスの高級車に乗りたいとも思わない(成金みたいで下品だし取り回しがめんどうだ)。
「限界費用ゼロ社会」において、「労働」は、「交換価値」としての「貨幣」を得るための手段ではなくなり、「使用価値」で充たされた「コモンズ」へ提供されるボランタリーな労力となる。その対価は、「地域通貨」や「ビットコイン」であっても良い。工業製品、日用品、衣服、建築物、そして移植される臓器さえも、3Dプリンタが生み出してくれる。農作業、機械の制御・管理、アプリの制作、医療、教育、介護・福祉、音楽、演劇等々、わたしたちは、自らの知識・能力を生かせる活動に従事すれば良い。そうした活動の喜びは、貨幣価値ではなく、他者のニーズの充足と、それによる社会関係資本の豊饒化によって生まれる。そこに、中央集権的な管理は不要であり、水平的協働的アソシエーションが機能すればよいことになる。
第四次産業革命による社会変動と、新たな社会の近未来形を明確に提示してみせた好著である。
目次
第1章 市場資本主義から協働型コモンズへの一大パラダイムシフト
[第I部 資本主義の語られざる歴史]
第2章 ヨーロッパにおける囲い込みと市場経済の誕生
第3章 資本主義と垂直統合の蜜月
第4章 資本主義のレンズを通して眺めた人間の本性
[第II部 限界費用がほぼゼロの社会]
第5章 極限生産性とモノのインターネットと無料のエネルギー
第6章 3Dプリンティング――大量生産から大衆による生産へ
第7章 MOOCと限界費用ゼロ教育
第8章 最後の労働者
第9章 生産消費者(プロシューマー)の台頭とスマート経済の構築
[第III部 協働型コモンズの台頭]
第10章 コモンズの喜劇
第11章 協働主義者は闘いに備える
第12章 インテリジェント・インフラの規定と支配をめぐる争い
[第IV部 社会関係資本と共有型経済]
第13章 所有からアクセスへの転換
第14章 社会関係資本のクラウドファンディング、民主化する通貨、人間味ある起業家精神、労働の再考
[第V部 潤沢さの経済]
第15章 持続可能な「豊穣の角(つの)」
第16章 生物圏のライフスタイル
特別章 岐路に立つ日本(ドイツと日本の比較/日本の進むべき道)
いま、経済パラダイムの大転換が進行しつつある。その原動力になっているのがIoT(モノのインターネット)だ。IoTはコミュニケーション、エネルギー、輸送の“インテリジェント・インフラ”を形成し、効率性や生産性を極限まで高める。それによりモノやサービスを1つ追加で生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して、資本主義は衰退を免れないという。代わりに台頭してくるのが、共有型経済だ。人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する新しい社会が21世紀に実現する。世界的な文明評論家が、3Dプリンターや大規模オンライン講座MOOCなどの事例をもとにこの大変革のメカニズムを説き、確かな未来展望を描く。21世紀の経済と社会の潮流がわかる、大注目の書!
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