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君たちのための自由論──ゲリラ的な学びのすすめ

内田樹、ウスビ・サコ,2023,君たちのための自由論──ゲリラ的な学びのすすめ
,中央公論新社.(4.16.24)

 おなじみ内田先生と、アフリカ・マリ出身の元京都精華大学学長、ウスビ・サコさんとの対談集。
 内田先生の講義録を対談のあいだにはさむ構成となっている。

 論点が多岐にわたっており、要約するのは難しいが、学校教育において、生身の人間である生徒、学生を育てるのではなく、あたかも画一的な工業製品を生産するかのごとく、査定、評価のしくみのもとでの管理化が進み、教育と研究の質は著しく劣化することとなった。

 教育、研究において重要なのは「創造」であり、「管理」ではない。
 行きすぎた「管理」は「創造」の芽を摘み取る。
 「管理」を強化するのは、学校教育においても、効率や生産性といった物差しで成果を測った気にならないと、(管理する側が)不安だからである。

 管理強化による教育、研究、とくに教育の質低下は、子ども、青年の感情の劣化をも帰結している。

内田 (前略)
でも、ここ数年、学生たちのリアクションがだんだん弱くなっているような気がします。なんとなく、しだいに無表情になり、感情の分節が弱く、単純になっているように見える。ですから、今の学生たちに必要なのは「感情教育」なんじゃないかと僕は思います。
 感情というものは、誰でも生得的に、同じようなセットを揃えているように思われていますが、違います。感情は学習するものです。学習して、広げ、深めて、多様化するものです。微細な感情を表現して、伝達できるためには、語彙も、表情も、声質も、体の使い方も複雑なものにしていく必要がある。でも、そのための教育が特に中等教育では致命的に欠如しているように思えます。
 人文学のめざす目標のひとつは「より複雑な人間になること」ではないかと僕は思っています。ひとつの事象をながめる時に、複数の視点に立つことができる力を養う。複数の文脈のうちに置いて、別の側面を見ることができる「複雑な人」になることを目標に掲げてよいと思います。でも、そういう言葉づかいで人文学の意義を語る人って、あまりいません。
(p.22)

 知人の大学の先生から聞いた話なのですが、冬に1限の授業に行ったら教室が真っ暗だった。誰もいないのかと思えば、学生はちゃんといた。部屋の電灯を点けて、「スイッチはここですよ」と教えた。翌週教室に行くとまた真っ暗な部屋に学生が黙って待っていた。誰も電灯を点けないんです。目立ちたくないから。一人立ち上がってスイッチを点けるのが嫌なんです。他の学生が暗い教室で黙っているのに、自分一人が余計なことをして、環境を変化させると、「浮いて」しまう。それを避けようという無意識の抑制がかかっている。
 日本の子どもたちは今、学校教育の中で、マジョリティの中に紛れ込み、「みんなと同じ表情」をすることで、身の安全を図ろうとしている。そうやって、豊かな表情や多様な視点を捨てている。そのことに僕は危機感を覚えました。
(pp.24-25)

 わたしも、昨年度、まったく同じ経験をしている。

 学校教育行政の失敗が、子どもや青年の人間らしい情操さえ奪っている現実は、もっと直視されるべき深刻な事態であろう。

かたや哲学者であり武道家、かたやアフリカ・マリ出身の元大学学長。2人の個性派教育者による、自由すぎるアドバイスとメッセージ。曰く、「管理から逃れて創造的であるために、もっと“だらだら”しよう」「“ゲリラ的”な仕掛けで、異質なもの同士の化学反応を生み出そう」「将来は“なんとなく”決めるべし」「“なんでやねん!”とツッコミを入れて、自らの中に問を立てよ」等々。若い人たちが「大化け」するためのアドバイスとメッセージを、コロナ禍の教育現場から発信。かくも窮屈で不自由な世界を、君たちはどう生くべきか? 京都精華大学で行われた人気講義「自由論」をもとに、新規に語り下ろした対談などを加えて構成。

目次
1章 「だらだらする」ということ
目立たず、シンプルに、深掘りしたい若者たち
格付けに怯える若者への「一喝」という教育 ほか
2章 教育は「ゲリラ」だ
オンライン授業導入の右往左往
救われる学生、救われない学生 ほか
3章 将来は「なんとなく」決めるべし
ニューヨークから過疎地に移った想田和弘監督
過疎化は国策!? ほか
4章 自由にはある種の「毒」がある
アメリカ合衆国が抱える矛盾と葛藤
ドナルド・トランプに見る「リバタリアン」思想 ほか
5章 君たちは「不自由な世界」をいかに生くべきか?
学長を経験して見えてきたニッポンの大学
教育現場にはびこる査定・評価・競争 ほか


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