桜井亜美,1999,14,幻冬舎.(8.21.24)
十三歳のカズキは、妄想の世界にいる唯一の親友BJとしか会話ができなかった。学校でイジメられ、家では母親に殴られ、同級生の少女に性的興奮を感じて悩むカズキに、BJは「世界を破壊しろ!」と言い続ける。そして十四歳になった時、彼は儀式を開始した。「そうです。僕が、酒鬼薔薇聖斗です」悲惨な事件の光と影を照らし出す、衝撃の問題作。
1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件の犯人、「酒鬼薔薇聖斗」こと、「少年A」の心象風景に迫る。
「少年A」に本作で描かれているような妄想が実際にあったのかどうかはわからないが、「透明な存在の不透明な悪意」(宮台真司)がいかにして生まれ、膨らんでいったのか、手に取るようにわかる内容になっている。
その後、長崎男児誘拐殺人事件(2003年)、佐世保小6女児同級生殺害事件(2004年)等が発生し、人びとの「不透明な悪意」への恐怖と好奇心が高まり、ロバート・ケネス・レスラーの「快楽殺人」分析書や、トマス・ハリスの『羊たちの沈黙』、『ハンニバル』等が人口に膾炙した。
また、こうした事件の影響が、厳罰化を骨子とした少年法改正につながった。
人びとは、めったに起こらないことであっても、一時の衝撃に強く影響されてしまう。
「少年A」が猫や子どもを殺傷する場面は、読んでいて不快の極みであるが、思春期の少年が壊れていく過程が実によく描かれているように思う。