本書では、政党政治における「社会的なるもの」の衰滅を起点として、議論が展開されている。
マーガレット・サッチャーは、1987年、Woman's Own誌のインタビューにて、「社会など存在しない」と断言した。この威勢の良い宣言は、自己成就する予言のごとく、イギリスのみならず、アメリカ合衆国、日本等で現実化した。
市野川さんが指摘するとおり、日本では、1940年ごろ、一度、「社会」は消失している。当時あったのは、厚生、国家、天皇、臣民、たったこれだけであった。
「社会」を復権できるとすれば、それは、「租税国家」を基盤とし、ロールズの「無知のヴェール」を根拠として、分配的正義を実現していくことによるほかないであろう。
わたしも、この立論に全面的に賛同する。
今日の社会科学にとって重要な問いは、「社会とは何か」「それはいかにして可能か」という抽象的な問いではない。ある歴史性をもって誕生し、この問い自身が不可視にしてしまう「社会的」という概念を問題化することである。本書では、この概念の形成過程を辿り直し、福祉国家の現在を照射することから、「社会的なもの」の再編を試みる。
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