熊沢誠,2000,女性労働と企業社会,岩波書店.(7.20.2020)
「女性労働」の典型ともいえる職業的キャリアを築いきた女性たちのライフヒストリー、被差別女性労働者を原告とする裁判の判例等をまじえて、女性労働者たちが直面しつづけてきたさまざまな困難を論じる。
引用されている海外の研究からもわかるとおり、女性の労働問題は日本固有のものではない。ただ、現在に至っても、日本における男女間の労働条件の不平等は圧倒的に大きい。
本書が書かれて20年、いっこうに問題が解消されていない現実に気付かされる。
女性が多数を占めるケア労働の評価を高める、その根拠が興味深い。
ペイ・エクイティの要求は、従来の職務評価方式をジェンダー的な先入観の批判を通して修正させる意義も担っている。従来の方式では、「男の仕事」・上位職務を特徴づける要素としての知識、「問題解決能力」、人事・財務の「統括責任」などが高く評価されるのに対して、「女の仕事」・下位職務にまとわりついている要素は軽視または無視される傾向がある。ここを見直せという運動の成果は、たとえばさきにみたイギリスの三組合の協約闘争の場合、職務評価に「感情をコントロールする要請」(emotional demands)、「ケア的・人間関係的コミュニケーション技能」(caring and interpersonal communication skill)という、とくにナースやホームへルパーの仕事に期待される要素を加えさせるという成果を生み出した。「女の仕事」に特徴的に求められる文化的・人間関係的な熟練、細部に気配りする責任、ストレスに耐える力など「見えない熟練」を評価させる営みは、ヨーロッパのコンパラブルワース運動のなかに息づいている。
(pp.210-211)
目次
1章 女性労働をみる視点
女性労働―到達の地点
私の関心と方法
2章 企業社会のジェンダー状況
女性労働者の分布
五つのライフヒストリー ほか
3章 「男の仕事」・「女の仕事」
「女性の特質・感性」とはなにか
性別職務分離の職場 ほか
4章 女性たち自身の適応と選択
ジェンダー意識の一般状況
専門職とOL―若い女性たち ほか
5章 ジェンダー差別に対抗する営み
職場の性差別に対抗する思想
職場の性差別に対抗する手段 ほか
専門職、OL、増える派遣社員やフリーター、深夜勤やフルタイムの仕事までこなすパートタイマー…改正「均等法」の下、能力主義管理の進む中で、女性の働き方はますます多様化している。変らぬ職場の性別役割意識に不満をくすぶらせながらも、働き続ける彼女たち。その実像を豊富なデータで描き出し、性差別に対抗する戦略を提言する。