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【旧作】自ら逝ったあなた、遺された私──家族の自死と向きあう【斜め読み】

グリーフケア・サポートプラザ編(平山正実監修),2004,自ら逝ったあなた、遺された私──家族の自死と向きあう,朝日新聞社.(5.31.24)

 わたしは、肉親を自死で喪ったことはないが、本書に収められた自死遺族の手記からは、残された者の悲嘆の重さ、深さが伝わってくる。

 平山さんは、「自殺」ではなく、「自死」という言葉を使う。

 その理由は、以下のとおりである。

 私は、「自殺」という言葉を使った場合は、文字どおり自ら、自分の意志で命を絶つ行為を意味すると考えています。このような考え方にしたがうと、自ら自覚的に与えられた生命を殺すわけですから、当然、本人や家族の責任が問われることになります。責任を問う主体は、神であったり、世間であったり、親戚や友人であったりします。つまり、この場合は本人や家族が原因で、自殺という事態が生じたのだと考えるわけです。このように自殺を「原因」「結果」という因果の連鎖としてとらえることは、自殺を防止するために役立つかもしれません。自ら命を絶つという行為を、このように因果論的に考えることは、じつは科学的で客観的な知のあり方に依拠しているといえるでしょう。
 他方、私が「自死」という言葉を使った場合、自ら自分の意志で命を絶つのではなく、おのずから、命が危機にさらされることを意味すると考えます。別の言葉で言い換えるならば、命が病的な力あるいは自然の力によって、取り去られると考えてもよいと思います。つまり、「死にたい」という衝動が、おのずから湧き上がってきて、自我のコントロールが利かなくなって、前後の見境がなくなることにより、突発的に生の連続性が絶たれて死への帰結をたどると考えます。自死という事態をこれまで述べてきたように考えた場合、その行為を本人や家族の責任とすることは、酷ではないでしょうか。このような事態においては、彼らの自由意志をもって生死を選択する幅は、極度に縮小していると考えられます。
 そう考えますと、自死者の遺族にとっては、自死の原因を追究する科学的な知のあり方から認識の枠組み(パラダイム)の変換をして、その自死の意味を探る知のあり方を追究することのほうが、その心の癒しのためには有効なように思えてきます。つまり、こと自ら命を絶ったことに関していえば、因果論は自死予防(プリベンション)に有効であり、意味論は、自死後の遺された者に対するケア(ポストベンション)に役立つといえるのではないでしょうか。
(pp.243-244)

 「自殺の原因」をつきとめ、苦悩し自責の念に駆られるより、「自死の意味」を問うことが、「自死後の遺された者に対するケア(ポストベンション)に役立つ」。

 すべての人間が死すべき運命にあることの、ポジティブな意味についての考察にも共感した。

 死は、人間の限界を示してくれます。死によって、深層意識下に隠されている万能感は、徹底的に打ち砕かれます。
 人間は、死によって自己の限界に気づき、万能感が打ち砕かれれば、我執や欲望にとらわれることがなくなり、ありのままの自分の姿を見つめることができるようになり、過剰な責任感や自己愛から距離をおくことができるようになります。そして自分に対しても、他者に対しても、寛容になって、過剰な罪責感に悩むこともなくなるのではないでしょうか。
(pp.245-246)

 「いずれ自分も死ぬ」という諦念が、自死遺族の悲嘆と自責の念を軽減してくれるであろうこと、これもまた重要な視点だろう。

生と死を考える会

不況を背景に、近年増加する「自死」。「なぜ?」「どうして?」。遺された家族は、答えの永遠にでない疑問にからめとられ、悲嘆のどん底に突き落とされる。「自死は弱い人間のするもの」「恥ずべきこと」という社会の偏見や、「あの時きちんと話を聞いていれば」という自身の罪責感、そして「元気を出して」「早く忘れなさい」といった人々の何気ないひとことが、さらに彼らを追い詰めていく。「自死」であるがために、遺族は口をつぐみ、社会に背を向けてしまいがちだ。絶望の末に、あとを追おうとする人も少なくない。しかし、彼らには生きる権利がある。引き裂かれんばかりの心の行き場はどこにあるのか?周囲の人間はどう支えればよいか?遺族が人生を取り戻すために、遺族自身と彼らを支える人々に知ってほしいことがある。

目次
愛する人の「自死」
1 遺族の声
信仰が私の人生を変えた
私はなにに負い目を感じていたのだろう
こんなにも激しい闘いが続くとは思わなかった ほか
2 グリーフワーク
悲嘆のプロセス
グリーフワーク実践編
「分かち合い」のすすめ
3 「自死」が遺すもの
自死遺族に注がれるまなざし
自死者の心理
遺族にどう接すればよいか ほか


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