高橋龍太郎,2002,あなたの心が壊れるとき,扶桑社.(4.12.24)
高橋さんが問題にしているこころの病は、「ゆたかな社会のアノミー」──The Anomie of Affluence: A Post-Mertonian Conception──として捉えることができるものであろうが、たしかに、援交(現在のパパ活)、摂食障がい、アパシーといった症候群は、親に扶養される若者も含めて、物質的充足がとりあえずは保障された環境下において、刹那的な欲望充足にはしったり、生きることの価値と人生の方向性が定まらず、自らの身体に過剰に執着したり、まわりの世界への興味・関心・関与を喪失して極端な無気力に陥ったり、といった問題として位置づけることができる。
また、高橋さんは、アダルト・チルドレン、PTSD、多重人格障がい(現在の解離性同一性障がい)といった新しい症候群のインフレ(乱用)に批判的であるが、新型うつ病も加えて、かりにある不適応症状に悩む者が実はこれらの症候群に該当しないとしても、依然として不適応の問題は残り続ける。
高橋さんは、東電OL殺人事件について、被害者がなぜ街娼をしていたのか、その要因を、「拒食症による倫理観の喪失」に求める。
拒食症の項で述べたように、この病気になると、倫理観や道徳観が逸脱します。少なからざる女性が万引きや自殺企図などに走る。A子さんの夜の行動は、拒食症による倫理観の喪失と見なすこともできます。
生物学的にいえば、生体が危機を迎えると、生殖行動のエネルギーが高まることはわかっています。どんな生命体も、食べ物がなくなると性行為に向かう。これは「子孫を残せ」という生命体にインプットされている情報による行動です。もっとも、拒食症で脳の中枢をやられると性欲が出てくるという、内分泌的な考え方を出してきても、A子さんの行動はそれによってすべて説明できるかといえば、やはり無理があります。
(p.23)
その無理がある部分を見事に解明したのが、水無田気流さんの無頼化した女たちであるように考える。
近頃の日本では、精神的に病んでいる若者が多くなったといわれている。結果として、事故にあったり事件に巻き込まれたりするケースも稀ではなくなった。例えば、東電OL事件で殺された女性は高校時代から拒食症だったという。また、宮崎勤事件では、多重人格説をとなえる専門家もいる。その他、アダルト・チルドレン、PTSD、境界性人格障害、ストーカー、アパシー、パニック障害など、現代日本に蔓延する若者の“心の病”を、ベテラン精神科医が豊富な臨床例を基に綴った問題の書。
目次
「コギャル」と「団塊の世代」の父親たち
「拒食症」と「過食症」に揺れる現代日本の女性たち
アダルト・チルドレン(AC)の持つ現代性
「ストーカー」にひそむ人格障害者の“影”
ボーダーライン(境界性人格障害)という重い病
宮崎勤事件と「多重人格」の“深い霧”
「いじめ」が心に残した深刻な傷跡
若者に蔓延する「過呼吸発作」と「パニック障害」
心的外傷後ストレス障害(PTSD)という恐怖
若者を蝕むアパシー(無気力症候群)という病
東電OL事件と「性同一性障害」の男と女
幽体離脱など超常現象を生む脳のメカニズム
ポジティブ・シンキングの危うさと“つんのめり症候群”