絶滅したナウマンゾウのはなし（11）

　　　　　絶滅したナウマンのはなしー太古の昔　ゾウの楽園だった
　　　　　　　日本列島（11）

　　　

　　　第Ⅱ部　ナウマンゾウの聖地、横須賀白仙山

　　
　　２．ナウマンゾウの聖地、横須賀白仙山

　　〈2－（1）のまえおき〉
　　前回も〈まえおき〉で触れたのですが、1864（元治元）年に、幕府が横須賀製鉄所の建設に当たってフランスの駐日公使レオン・ロッシュに依頼して建設技師ヴェルニーを招いたのですが、ヴェルニーに12,000ドル、現在の金額にしますとおよそ1億2,000万円と相当高額だったのですが、ナウマン共住の場合は、1876（明治9）開成学校の教授に就任したとき、月給300円だったそうです。年俸にして約3,000～3,500万円位でしょうか。なお、ナウマン教授は鉱物研究者として招かれたのですが、地質学一般、古生物学、化学なども教授したようです。

　（1）ナウマンが研究した歴史的標本（その１）

　1）横須賀市自然・人文博物館の玄関を入ると、ナウマンゾウの全身骨格標本が入館者を待ち受けていたかのように、しかも親しく出迎えてくれます。展示されているナウマンゾウの全身骨格標本は、千葉県印旛郡印旛村が産地で、残念ながら横須賀製鉄所の用地造成工事中に発見された化石は使われていません。

　同博物館は、展示してあるナウマンゾウの部分的化石骨の標本も展示していますが、それらの標本について、次のような説明が添えてあります。

　「ナウマンゾウは、35万年前から2万年前に日本と中国に生息していたゾウの仲間で、横須賀市では2か所から（化石が）見つかっています。

　現在の米海軍横須賀基地である横須賀製鉄所の敷地内から1867年に見つかったナウマンゾウの下顎の化石は、ナウマンゾウの名前の由来となったナウマンによって研究された歴史的標本で、科学的に研究されたはじめてのナウマンゾウの化石」（横須賀市自然・人文博物館による）であること、そして展示されているゾウの化石は、横須賀白仙山開鑿（かいさく）跡地で見つかったナウマンゾウの下顎化石骨のレプリカ（複製）であること、他は肩甲骨、上腕骨の化石であることについて、分り易く解説されています。

　2）井上吉隆（元横須賀市助役）の「横須賀製鉄所物語（5）」（『すまい造りメール』第141号・2013年12月号）によりますと、1864年、幕府は小栗上野介の建議を受け入れ、フランスの技術支援で1865年1月29日には「製鉄所約定書」を作成して製鉄所の建設に踏み切り、1867年9月27日には幕府が横須賀製鉄所建設のための鍬入れを行ったことなど、かなり詳細に記しています。

　前節でも触れましたが、今から150年前、現在の在日米海軍基地（公称は横須賀海軍施設）には、さまざまな関連施設の敷地があり、その中に横須賀製鉄所もありました。また、大型船建造や修理のためには敷地の拡張が緊急の課題でもありました。

　そこで製鉄所と地続きの小高い丘、白仙山を切り崩し、ドライドック（乾ドック）を建設したのですが、その際の残土（土砂）を使って、白仙湾など入り江を埋め立てて、用地の造成が行われました。

　『横須賀市史上巻』（1988）によりますと、1865年3月に三賀保、白仙、内浦の3湾にわたる7万3000余坪の造成が行われ、1868年閏の4月には逸見村の約3万坪余が造成されましたし、白仙山の開鑿で製鉄所の隣接地も7000坪余造成されていますので、切り開かれた山地は合わせて11万坪余ともいわれています。

　また、前述の井上吉隆は、製鉄所サイドでは当初から「三賀保、白仙、内浦の三湾を埋め立てるとともに、隣接している沿岸の畑地にも盛り土し、満潮時でも海面から平均三尺（約91センチメートル）の土地造成を目標にしていた」（「横須賀製鉄所物語(5)」）のだと述べています。

　この横須賀製鉄所の用地造成の一連の過程で、「獣骨の化石」が発見された記録がヴェルニー本家伝来の資料の中に、写真とともに記録が記されています。その「獣骨の化石」を発見したのは、横須賀製鉄所の医師（フランス海軍の軍医）として来日（1866）間もないサヴァティエでした。

　彼は、横須賀製鉄所首長フランソワ・レオンス・ヴェルニー技師が、製鉄所建設工事中に怪我人が多かったこと、また重い病に罹るフランス人技術者や日本人作業員にも多かったことから、母国フランスに医師の派遣を要請していました。その要請に応えて1866年に来日したのが海軍一等軍医で、植物学者でもあったサヴァティエだったというわけです。