私の読書記録

ミステリー、サスペンス、アクション
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カシスの舞い / 帚木蓬生

2024年12月21日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
南フランスのマルセイユ、港町カシスを舞台にした医学ミステリー。
まず物語の導入部が、フランスの精神医学の講演会の控室での食事会とか、講演場面から始まるが、
これがつまらなくて本当に小説での物語の導入部、序盤というのは非常に大事で、これがつまらないと
最初から読む気が失せてしまうから非常に残念。

その後に大学病院の解剖実習室で首なし死体が発見されるが、普通に考えてとんでもない大事件だと思う
のだが、そんなに大学病院内で大騒ぎになっているふうもなくて、主人公の日本人精神科医が地味に調査
を始めるだけというのが解せない。

それから主人公の周りで不可解な事がいくつか起こるが、大体大学の研究室の教授や助教授らが暴走して
脳の人体実験を行っているんだろうとは早い段階で想像がつくし、主人公と恋人の車の中での会話で、恋
人も一味の一人だという事も想像がついてしまいミステリーとしてはどうなんだろう。

序盤からずーっとつまらないままだったけど、終盤の主人公が脳研究施設に潜入した辺りからようやく面
白くなってきた。 そして、主人公の恋人が覚悟を決めた2人の最後のデートの悲しい結末。 更に恋人
が主人公に宛てた手紙で、自身が子供の頃の母娘と父親の悲しく辛い運命を吐露する所は心を揺さぶられ
るし、彼女が教授の下で行っていた狂気の人体実験に対して後悔どころか確固たる意義、信念を持ってい
た所に逆に崇高ささえ感じた。

でも、何で主人公は、教授らが人体実験を行うグループの仲間に入れてもらえなかったんだろうか。
多分、人体実験に参加させるには主人公の妙な正義感が教授らに危険視されていたのかもしれない。
それにしても収監された恋人を何年も待ち続ける事になった主人公は・・・。

素敵な日本人 / 東野圭吾

2024年12月14日 | 読んだ小説
                    

☆☆
9編からなる短編集だが、何でタイトルが「素敵な日本人」なのかはまったく意味不明。
「10年目のバレンタインデー」は、10年前に別れた女性からバレンタインデーに食事の誘いがあり、
いい雰囲気の中でチョコレートらしき物や手紙らしき物を渡されたら、男は誰だって女性が復縁を望んで
いるんだと思ってしまうだろう。 しかし、女性が個人的に男に激しい恨みと怒りを抱いていて、実は
チョコレートらしき物が手錠で、手紙らしき物が逮捕状って、いくら男が10年以上前の事件の真犯人で、
10年経って女性が刑事だとしても非常に悪趣味だと思う。 そんなの普通に逮捕すればいいだけだと思う
が、ベタなミステリーだけどなかなか面白かった。

「君の瞳に乾杯」は、主人公の男性(実は刑事)が、業務上横領で指名手配されていた犯人女性を偶然
発見して逮捕する所がクライマックスで、その後の説明は確かに必要なのだが必要以上にグダグダと長過
ぎる文章で、せっかくのクライマックスのインパクトが薄れてしまってるのが残念。

「レンタルベビー」は、主人公女性がレンタルしたベビーも、女性の恋人も作中ではロボットとなってい
るが、ロボットではなくアンドロイドが正解だと思う。 恋人男性アンドロイドほどの人間と寸分違わず
思考し動作するアンドロイドが制作され普通に市場に出回っているような技術が進歩している近未来のわ
りには、その他の日常生活等が、そこまで進歩、近未来化してるふうがなくて違和感を覚えた。

「壊れた時計」は、犯行現場では指紋を消す等の基本的な事以外の余計な偽装工作を行わないがセオリー
らしいが、部屋の住人を殺害してしまった主人公は、犯行時に被害者の腕時計が壊れた事が警察に作為的
に受け取られるような気がして、すぐに腕時計を時計屋で修理して犯行現場に戻り被害者の腕に付けた
が、実は被害者の腕時計は朝から壊れていて、その事を会社の同僚らも知っていた。 壊れていたはずの
腕時計が動いていた事から警察は時計屋を当たり逆に主人公の犯行がバレてしまう事になる。

「クリスマスミステリ」は、売れない男性役者が人気女性脚本家と男女の関係になって女性脚本家の口利
きで仕事も増え人気役者になれたが、次第に女性が邪魔になり毒殺を企てるが、逆に女性の罠に嵌って
しまう話。 毒殺したはずの女性が普通に生きていた時点で、男性は女性に騙されていた事を疑わないの
が不思議だった。

「水晶の数珠」は、家に代々伝わる秘術の品の水晶の数珠で1日だけ過去にタイムスリップできるという
チートアイテムを使って運命を変える話だが、その家に何でそんなものが代々伝わっているのか謎のまま
だし、世の中の人は、変えたくても変える事のできない昨日があっても、みんな運命を受け入れ必死に
生きているのに、代々の当主が、それぞれたった一度しか使えないとはいえ、その数珠を使って災難に遭
う事を回避したり、相場やギャンブルで財を成したりする事が容易に可能で、何かズル過ぎると云うか凄
くシラける話だった。

海峡 / 伊集院 静

2024年12月07日 | 読んだ小説
                    


朝鮮から日本に渡って来て事業で成功した偉大な山のような父親と、大きく深い海のような愛情の母親の
間に生まれた主人公の英雄は、父親の経営する店や旅館などで働く50人程の人々と共に大きな家で大家族
の様に暮らしていた。 そして父親は、その50人全員に心酔され、その息子である英雄も皆から敬われて
いた。 そんな主人公の英雄が、いろんな出会いと別れの中で悲しみ傷つき寂しさを感じながらも成長し
ていく姿を描いた作者の故郷の瀬戸内を舞台にした自伝的物語。

泳ぎを教えてくれ、キャッチボールの相手をしてくれ、相手に立ち向かっていく事を教えてくれた優しい
リンさんの死。 山の村に連れて行ってくれたサキ婆さんと、サキ婆さんの孫でマラソンが得意で英雄が
兄のように思っていた良来の朝鮮への帰国。 英雄が憧れていた鳩を飼っていたイサムが突然街を去る。
英雄がほんの淡い恋心を抱いていた病弱な美津の死。 ずっと遊び友達だった真ちゃんも突然街を去る。
これらの英雄の周りの大切な人達が、次々と英雄の前からいなくなってしまい寂しさと共に、両親もいな
くなってしまったら自分はいったいどうなるのかと不安に襲われる。

主人公の英雄という10歳の少年は、正義感のある優しい少年というわけではなく、臆病な所、小狡い所、
卑怯な所、卑屈な所、意地悪な所もある普通の少年で、豪快な人物だが密入国の手助けや女性関係の乱れ
が目立つ父親の存在感も凄いが、それ以上に誰にでも分け隔てなく愛情をもって優しく接する母親の存在
が作中で際立っていた。 

海峡は三部作で、幼年篇の本作、少年篇の「春雷」、青年篇の「岬へ」とあり、この少年が男として、
どのように成長していくのか是非読んでみたいと思った。 

ある男 / 平野啓一郎

2024年11月28日 | 読んだ小説
                    


次男を病気で亡くしたバツイチ子持ち女性が、``ある男``と再婚して娘も儲けて3年9ヶ月の間普通に
暮らしていたが、その夫になった男が事故死した後に、夫が名前や生い立ちを偽っていたまったくの別人
だった事が判明する。 女性は、以前に離婚調停の時に世話になった弁護士(何故か物語の主人公)に、
夫の正体と死んだ夫が名乗っていた実在の人物の消息の判明、死んだ夫が別人だった事による法的事務
手続きを依頼する。

女性は、あの穏やかで幸せだった3年9ヶ月の日々は、私と長男、そして2人の本当の娘にとっていった
い何だったんだろうと苦悩し、弁護士は、自身が在日3世である事の複雑な思いや妻と家庭内で距離が
できて冷めた関係になってしまっている事に、自分の人生はいったい何だったんだろうと苦悩しながら、
自分が別人になる事に憧れを持ち、バーで女性の夫が名乗った名前と生い立ちの男に扮する。

おそらくこの物語を読んだ多くの人が、夫にずっと嘘をつかれ騙されていた家族の方にこそ興味があり、
弁護士の生い立ち、家庭生活、心情などは別にどうでもよくて、弁護士が名前と生い立ちを偽って死ん
だ夫の真実を調査し暴いていくのには興味があるが、何でこの弁護士の苦悩の話の方がメインで弁護士
の方が主人公なのか。 女性の方が主人公であるべきだろうと残念に思うだろう。

弁護士の調査の結果、名前を偽って死んだ夫は、父親が息子の友達も含む一家3人を殺害した凶悪殺人犯
の死刑囚で、その息子である苦しみと、周りの者からの攻撃や蔑みの目から逃れるために他人と名前と生
い立ちを交換し入れ替わった事が分かった。

そして、名前と生い立ちを変えた男は、女性と出逢い結婚し娘も生れ、妻と2人の子供を愛し、まじめに
一生懸命働きながら3年9ヶ月の間幸せな生活を送った。 その幸せな家族生活は本当だったと思うが、
妻にさえ本当の事を最後まで言わなかったのは複雑な思いがする。 妻に本当の事を告白したとしても、
妻は理解し受け入れ、あんな事故がなかったら変わらず幸せな生活が続いていたんだろうと思う。

最後に重ねて主人公の弁護士の生い立ちや家庭生活の苦悩は別にどうでもいいが、弁護士の切なくて儚い
秘めたる恋が、せめてワンナイトラブでもあれば良かったのに。 でも、弁護士の妻が浮気をしているよ
うな描写があったから、妻と別れてあの女性といっしょになれる未来線があるのならいいけど。

セブン / 浅暮三文

2024年11月18日 | 読んだ小説
                    

☆☆
秋葉原のラブホで女子高生が、首を絞められた後に非常階段で首を吊った状態で発見される。
事件を捜査する帰国子女の主人公は、組織で群れない、長い物に巻かれない美貌の女性刑事で、そんな女
性刑事は小説やTVドラマなどでも世の中に履いて捨てるほどあると思う。 そんなどこにでもあるような
使い古された主人公のキャラの作品で、作者がどのように同系他作との違いを見せて面白く料理するのか
に注目して読んだ。

読み始めると名前が七で愛称がセブンの女性刑事が、生まれつきなのか、子供の頃に火事で両親を亡くし
た精神的ショックが原因なのか、人の心を上手く理解する事が苦手な発達障害のような感じの人物だとい
う事が分かる。 そして、独りの部屋で飼い始めたばかりのフクロウに事件を相談する妙な癖がある。
この辺が、同系他作とは少しだけ違う今回の主人公の個性なんだろうか。(ちょっとショボイかも)
それからセブンの相棒のベテラン刑事の意味不明な例え話は、余計に分かりにくくするだけでいらない。

何で犯人と思われる被害者の同伴者の人物は、女子高生を絞殺するだけでなく、これ見よがしに非常階段
に吊るさないといけないのか。 そして、最初からロープを準備していて計画的な犯行のようだが、
何故かホテルの監視カメラに自分が映るのを避けようとはしていない不可解な行動を取っていた。
そして、被害者の女子高生は、秋葉原で風俗のアルバイトをしていた事が分かる。 更に、犯行のほぼ同
時刻に事件現場のラブホの部屋の隣の部屋を1人で利用していた監視カメラに映る謎の女子高生とは。
セブンらが捜査を進めていく中で、犯人と思われる同伴者の人物を特定できたが、その人物が何者かに殺
害されてしまう。 セブンらは、殺害された男に女子高生を紹介した謎の人物を追う事になる。 

その謎の人物がラブホの隣の部屋を利用したティアラと名乗る女子高生と思われたが、後にティアラが
自殺した時の遺書を書いたのは本人なのか、ティアラに成りすました真犯人なのかどっちなんだろうか。 
もし本人なら女装している時が本当の自分だと言っているのに、秋葉原の女子高生のプチカリスマになっ
ていた彼女が、遺書に本当の女の子に生まれたかったと、自分が男である事を信者らにカミングアウトす
るはずがない。 そして真犯人が、ティアラに化けて即席の女装をしてラブホの監視カメラに映っている
が、女装は所詮、女装した男でしかなく誰が見ても女性ではない。 ましてや初めての女装で上手く女に
化けられるはずがない。 何かセブン以上に作者の方が人の心や物事を上手く理解できてない気がする。 

作者は、文章にそつがなくなかなか上手いと思ったが、最初からTVの連続刑事ドラマとして映像化される
事を狙っているのがミエミエな主人公のキャラや主人公の両親が火事で死んだ事故の真相とか、ドラマの
最終回まで持ち越しそうな謎もあり、連続ドラマとしてはセオリー通りなのかもしれないが、私が読みた
いのは、刑事ドラマのシナリオの様なものではなく小説なのだが。