私の読書記録

ミステリー、サスペンス、アクション
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あなたは、誰かの大切な人 / 原田マハ

2025年02月19日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
どんなに無能でダメな人間でも、どんなに惨めでダメな人生でも、それでもきっと自分は誰かの大切な人
なんだと思いたい、思わせてくれと願いながら読み進めた短編集だったが・・・。

大切な人とは、家族だったり、友達だったり、同僚だったり。 
この作品の中でも、いろんな大切な人との心の関係が描かれているが、ちょっと浮世離れした人とか、
端から見たらオシャレでカッコイイ成功した人生を生きているような人とかの話が多くて、私としては
正直、もっと身近で普通の地に足が着いている人達の話を期待していたから、それほど感情移入できな
くて残念だった。

そんな中で「無用の人」の親子関係が、ほんの少しだけ心に引っかかった。 スーパーの野菜担当で昇進
もできずに長年黙々と働きながらもリストラされた父親。 妻からも、その存在を無用と云われた父親。 
でも、美を愛し娘の事を理解していた心豊かで優しい父親。 父親が生きていた間は一方通行のような
思いも、深い所での心の繫がりや愛情に多くの言葉は必要ないのかもしれないと思わせてくれる素敵な
いい話だった。 

私の父親も気が弱くて無能で生きている間は、家族みんなから疎ましがられていた無用の人だったが、
そんな父が死んでから、ずーっと父が、朝早くから真面目に一生懸命に働いてくれていたから我が家の
生活が成り立っていたという事を今更ながらに実感した。 こんな私は、当時は無用だと思っていた父の
足元にも及ばない愚かなダメ人間で、父は家族にとって大切な人だったんだと、やっと父の凄さ偉大さに
死んでから気付けたという次第で情けない息子だ。

当たり前のように与えられる物には、なかなか気づけず感謝できない。 でも、そんな当たり前のような
幸せを何も言わず黙って与え続けてくれる人が一番尊くて大切な人なんだ。(まるで太陽のように)
この作品には、そんな普通の暮らしの中の素朴で温かい心の繫がりの物語を期待していたのだが、
少しだけ私の思いとは違ったか。

学生街の殺人 / 東野圭吾

2025年02月16日 | 読んだ小説
                    

☆☆
寂れた学生街にある喫茶店の3階にあるビリヤード場で働く主人公の青年の周りで不可解な連続殺人事件
が起こる。 まずはビリヤードフロアを担当していた男性が自宅アパートで刺殺され、次は主人公の年上
恋人女性が自宅マンション6Fのエレベーター前で刺殺され、更に恋人女性がボランティアで毎週訪れて
いた児童施設の園長が、学生街に設置されたクリスマス・イルミネーションの前で刺殺される。
一連の事件は、この学生街に関係する者の犯行なのだろうか? そして、その犯行動機は?
主人公の青年は、殺害された恋人の妹と共に事件を調べていく。

話が進んでいく中で、コンピュータのAIテクノロジーが絡んでいる産業スパイである事が浮上してくる
が、ミステリー小説だから犯人は、主人公、殺害された人物以外の登場人物の中に必ずいるはずで、
ミステリーとしてはインパクトのある意外な人物が犯人というのが望ましいわけだが、最初に明らかに
なった犯人が作中での印象の薄い人物でショボイし、学生街とも特に関係がなくてガッカリだった。 

でも、それで事件の完全解決ではない事に主人公が気が付き、園長を殺害した犯人は別人で、2つの殺人
事件と園長の殺人事件は二重構造の事件だったわけだ。 そして、ミステリーの定石通りの案の定な犯人
を追求する為に、犯人が結婚式を挙げる教会へ向かうが、そんな最高に幸せな瞬間の時に、最悪な事を告
げに行くくらい犯人の事が許せないのなら(恋人と姉が殺害されるように仕掛けた人物なのだから許せな
くて当然)、中途半端な事を言ってないで最初から警察に犯人を引き渡せばいいのにと思う。 
それにしても女の友情なんて所詮こんなものなのかと読者に思わせてしまうのも残念な所だ。

元々、主人公の青年が、この事件の事を調べ出したのが、殺された恋人の自分が知らない秘密を知りた
かったからなのだが、そこまで思うほど恋人の事を愛していたとは文中からは最後までまったく伝わっ
てこなくて、主人公の行動の動機が希薄に思われ、それがこの作品の最大の弱点かもしれない。

本作は東野圭吾の初期作品であるらしいが、全体を通して暗くうら寂しい雰囲気が漂い、物語のテンポも
妙にモタモタした感があり無駄にページ数が多くて、その後の作者の映像化される事を意識した華やかな
エンターテイメント路線とは明らかに違った趣がある。

菊むすび  / 坂井希久子

2025年02月11日 | 読んだ小説
                    

☆☆
江戸で料理居酒屋を営むお妙と亭主の只次郎の養女になったお花が、店の常連の人達の人情や料理を通し
て成長していく姿や、お花の兄的存在(想い人?)の熊吉の葛藤や成長も合わせて描く市井小説。

お花の友達のお梅が、薬種問屋の若旦那の所に嫁ぐ事になり、その祝言の席での料理の一部を懐妊して
体調の優れないお妙に代わってお花が作る大役を引き受ける。 お花は、大好きなお梅に自分の作った
料理で勇気づけて幸せの門出を送り出してやりたかった。

少し時は流れお妙も妊娠5ヶ月になり腹帯を巻く事になり、常連達がお妙の店に集まり祝いの宴が開か
れ、そこでもお花の作った料理が振る舞われ、数日後には、常連のご新造らが集まる女子会もあり、
お花は、店の次期女将としてみんなに認められていく。

料理小説でもあるから料理が話の中心なのは当たり前なのだが、もう少し人情話部分やお花の深い人物
描写が多かったら良かった。

アキラとあきら / 池井戸 潤

2025年02月01日 | 読んだ小説
                                                


小さな町工場を営む両親の下に生まれた瑛と、日本有数の海運会社の社長の息子として生まれた彬。
やがて大人になった2人のアキラの運命が交差する時が来る。

工場の経営難が続く瑛の家庭では、優しくて力強かった父親が次第に荒れたりふさぎ込むようになり、
同じく優しかった母親の笑顔も消え、いつも瑛に優しくしてくれた従業員のヤスさんも辞めなければなら
なくなり、瑛は両親の様子を伺いながら不安な毎日を過ごしていたが、ついに工場は倒産し、借金取りが
大勢押し寄せ工場の機械も家も取られ夜逃げする事になる。 そんな両親の苦難苦悩と絶望する姿を見て
きて、家族の絶望、自身の絶望を少年時代に経験してきた瑛。

それと比べ、もう一人の超裕福な家庭に育った彬だが、海運会社を経営する父親と少し距離を取りつつ、
同族系列会社の社長を務める自分勝手で無能な2人の叔父を冷ややかに眺めながら自分の進むべき道を
模索していた。 彬は頭脳明晰で気概もあり優秀な人物のようだが、多くの読者は子供の頃から修羅場を
経験してきた心優しい瑛の方を応援したいんじゃないかな。

そんな2人が同じ年度に同じ銀行に就職して数年、彬の父親が病死して途中に間の社長を立てたが、2年
後に2人の無能な叔父におだてられた彬の弟が社長になる。 しかし、兄の彬に対するコンプレックスと
経験不足による甘さで暴走し、更に叔父らが無謀なリゾートホテル事業に乗り出し、その口車に乗せられ
騙されて弟が社長の海運会社が、巨額の連帯保証債務を持たされグループ全体が壊滅の危機に直面してし
まう。 最早自身の無能さを知った弟は社長を降りて彬が銀行を辞めて社長になり会社を立て直す事にな
るが、そんなんなら最初から彬が家業を継いでおけよと誰もが思っただろう。

そして、会社再建に注力しようとする彬の前に現れたのが、銀行で彬の海運会社の担当になった新人研修
以来に顔を合わせた瑛だった。 何とかリゾートホテルを売却しようとする瑛と彬の再建計画は上手くい
かず難航する中、銀行が140億円もの債務を肩代わりするという瑛の融資の稟議書が通るのかというのが
ラストの焦点になっているが、瑛の子供の頃の辛い経験を踏まえ会社に金を融資するのではなく、人に融
資して従業員やその家族の生活、未来を救いたいという瑛のバンカーとしての信念、情念のこもった稟議
書が上司の重い心を動かす。

下巻では、彬の無能な親族らの陰謀によるグループ会社内の揉め事に終始していて、親族らのあまりの身
勝手さに只々読んでいて腹立たしいだけだったし、瑛の出番が終盤までなくてつまらなくて上巻の瑛の子
供時代の話の方が面白かった。 あとは本作のスピンオフ作品として「人情クリスチャン、ヤスさん」と
「忠犬チビの大冒険」の発表を期待したい。

アラスカ戦線 / ハンス=オットー・マイスナー

2025年01月23日 | 読んだ小説
                    


第2次世界大戦中、アリューシャン列島の端にあるアッツ島を占領した日本軍は、島に飛行場を作り
アッツ島を拠点にアメリカ北西部の都市を爆撃する計画を進めていた。 しかし、飛行経路のアラスカの
気象が障害となるため、精鋭部隊をアラスカに送り込み気象情報を通信し始める。 その日本軍を発見し
阻止する為にアメリカ軍は、狩猟に長けた精鋭部隊をアラスカに送り込む。 過酷を極める極寒の大自然
の中で知力と体力を尽くした両陣営の決死の攻防を描いたサバイバル小説。

物語の主人公の日本の気象観測隊の指揮官である日高大尉と、アメリカの偵察隊のリーダーである
アラン・マックルイアの2人が、それぞれアラスカに向かうまでの事もしっかり描かれていて、普通、
物語の本筋の前フリが長いとダレてしまう事も多いが、骨太な作品のわりには読み易いために逆に期待を
そそられて良かった。 

アメリカの偵察隊は、日本の観測隊を発見し奇襲をかけるが、戦果は日本側の辛勝で、両陣営に死者、
負傷者を出し、観測隊は通信と滞在に安定した土地を求めてアラスカを彷徨い、偵察隊は少数精鋭で観測
隊を追う事になる。 観測隊の日高大尉は、途中でアラスカ原住民の少女アラトナを助け、アラトナは
日高大尉の妻として観測隊に同行する。 このアラトナは、本作の原題にもなっている。

やがて観測隊は、野生動物に襲われたり原住民の攻撃で部下を失い日高大尉とアラトナだけになり、
偵察隊もマックルイアが只一人で観測隊を追い、日高とマックルイアの2人は最後に接触する・・・。
極限の極寒の地で死力を尽くして戦った日高とマックルイアは、お互いを認め尊敬し合い後年に渡って
深い友情の絆で結ばれる事になるが、この物語の最高殊勲選手MVPはアラトナだと云えるのかもしれな
い。 そのアラトナの存在と共に、この互いに殺し合った者同士が後年の友になる所が、張り詰めて殺伐
とした悲壮感漂う物語の中で最後に爽快感を生んで素晴らしい最高の冒険サバイバル小説だ。

非常に面白い作品なのだが只一つ不満なのが、巻頭にアッツ島とアラスカの地図が掲載されていないため
に小説だけ読んでいたら物語の舞台であるアラスカでの日本の観測隊の位置がまるで分からない。 私も
途中でネットでアッツ島を捜してみて、アッツ島はアラスカに近いものだと思っていたが、ずい分と日本
に近い所にある島だと分かって驚いた。(カムチャッカ半島のちょっと隣ぐらい)