私の読書記録

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アキラとあきら / 池井戸 潤

2025年02月01日 | 読んだ小説
                                                


小さな町工場を営む両親の下に生まれた瑛と、日本有数の海運会社の社長の息子として生まれた彬。
やがて大人になった2人のアキラの運命が交差する時が来る。

工場の経営難が続く瑛の家庭では、優しくて力強かった父親が次第に荒れたりふさぎ込むようになり、
同じく優しかった母親の笑顔も消え、いつも瑛に優しくしてくれた従業員のヤスさんも辞めなければなら
なくなり、瑛は両親の様子を伺いながら不安な毎日を過ごしていたが、ついに工場は倒産し、借金取りが
大勢押し寄せ工場の機械も家も取られ夜逃げする事になる。 そんな両親の苦難苦悩と絶望する姿を見て
きて、家族の絶望、自身の絶望を少年時代に経験してきた瑛。

それと比べ、もう一人の超裕福な家庭に育った彬だが、海運会社を経営する父親と少し距離を取りつつ、
同族系列会社の社長を務める自分勝手で無能な2人の叔父を冷ややかに眺めながら自分の進むべき道を
模索していた。 彬は頭脳明晰で気概もあり優秀な人物のようだが、多くの読者は子供の頃から修羅場を
経験してきた心優しい瑛の方を応援したいんじゃないかな。

そんな2人が同じ年度に同じ銀行に就職して数年、彬の父親が病死して途中に間の社長を立てたが、2年
後に2人の無能な叔父におだてられた彬の弟が社長になる。 しかし、兄の彬に対するコンプレックスと
経験不足による甘さで暴走し、更に叔父らが無謀なリゾートホテル事業に乗り出し、その口車に乗せられ
騙されて弟が社長の海運会社が、巨額の連帯保証債務を持たされグループ全体が壊滅の危機に直面してし
まう。 最早自身の無能さを知った弟は社長を降りて彬が銀行を辞めて社長になり会社を立て直す事にな
るが、そんなんなら最初から彬が家業を継いでおけよと誰もが思っただろう。

そして、会社再建に注力しようとする彬の前に現れたのが、銀行で彬の海運会社の担当になった新人研修
以来に顔を合わせた瑛だった。 何とかリゾートホテルを売却しようとする瑛と彬の再建計画は上手くい
かず難航する中、銀行が140億円もの債務を肩代わりするという瑛の融資の稟議書が通るのかというのが
ラストの焦点になっているが、瑛の子供の頃の辛い経験を踏まえ会社に金を融資するのではなく、人に融
資して従業員やその家族の生活、未来を救いたいという瑛のバンカーとしての信念、情念のこもった稟議
書が上司の重い心を動かす。

下巻では、彬の無能な親族らの陰謀によるグループ会社内の揉め事に終始していて、親族らのあまりの身
勝手さに只々読んでいて腹立たしいだけだったし、瑛の出番が終盤までなくてつまらなくて上巻の瑛の子
供時代の話の方が面白かった。 あとは本作のスピンオフ作品として「人情クリスチャン、ヤスさん」と
「忠犬チビの大冒険」の発表を期待したい。

アラスカ戦線 / ハンス=オットー・マイスナー

2025年01月23日 | 読んだ小説
                    


第2次世界大戦中、アリューシャン列島の端にあるアッツ島を占領した日本軍は、島に飛行場を作り
アッツ島を拠点にアメリカ北西部の都市を爆撃する計画を進めていた。 しかし、飛行経路のアラスカの
気象が障害となるため、精鋭部隊をアラスカに送り込み気象情報を通信し始める。 その日本軍を発見し
阻止する為にアメリカ軍は、狩猟に長けた精鋭部隊をアラスカに送り込む。 過酷を極める極寒の大自然
の中で知力と体力を尽くした両陣営の決死の攻防を描いたサバイバル小説。

物語の主人公の日本の気象観測隊の指揮官である日高大尉と、アメリカの偵察隊のリーダーである
アラン・マックルイアの2人が、それぞれアラスカに向かうまでの事もしっかり描かれていて、普通、
物語の本筋の前フリが長いとダレてしまう事も多いが、骨太な作品のわりには読み易いために逆に期待を
そそられて良かった。 

アメリカの偵察隊は、日本の観測隊を発見し奇襲をかけるが、戦果は日本側の辛勝で、両陣営に死者、
負傷者を出し、観測隊は通信と滞在に安定した土地を求めてアラスカを彷徨い、偵察隊は少数精鋭で観測
隊を追う事になる。 観測隊の日高大尉は、途中でアラスカ原住民の少女アラトナを助け、アラトナは
日高大尉の妻として観測隊に同行する。 このアラトナは、本作の原題にもなっている。

やがて観測隊は、野生動物に襲われたり原住民の攻撃で部下を失い日高大尉とアラトナだけになり、
偵察隊もマックルイアが只一人で観測隊を追い、日高とマックルイアの2人は最後に接触する・・・。
極限の極寒の地で死力を尽くして戦った日高とマックルイアは、お互いを認め尊敬し合い後年に渡って
深い友情の絆で結ばれる事になるが、この物語の最高殊勲選手MVPはアラトナだと云えるのかもしれな
い。 そのアラトナの存在と共に、この互いに殺し合った者同士が後年の友になる所が、張り詰めて殺伐
とした悲壮感漂う物語の中で最後に爽快感を生んで素晴らしい最高の冒険サバイバル小説だ。

非常に面白い作品なのだが只一つ不満なのが、巻頭にアッツ島とアラスカの地図が掲載されていないため
に小説だけ読んでいたら物語の舞台であるアラスカでの日本の観測隊の位置がまるで分からない。 私も
途中でネットでアッツ島を捜してみて、アッツ島はアラスカに近いものだと思っていたが、ずい分と日本
に近い所にある島だと分かって驚いた。(カムチャッカ半島のちょっと隣ぐらい)

ホテル・コンシェルジュ / 門井慶喜

2025年01月13日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
ホテルのコンシェルジュと、そのアシスタントをする事になったフロントの女性スタッフが、難題?を
解決していくドタバタコメディーの連作短編集だがマジでつまらない。

ホテルのエグゼグティブスイートに長期間滞在している名家の御曹司で大学生の男が、毎回厄介事を
コンシェルジュの男性に持ち込んでくるのだが、それがホテル内での事でコンシェルジュが上客の
ために格段のサービスをするのなら分かるが、コンシェルジュが問題を解決するのが、御曹司の伯母
の家での事、御曹司が飲みに行った店での事、御曹司のアルバイト先での事、御曹司の実家での事と
か・・・。 いくら上客でもコンシェルジュが、そんな事までするかなと読んでいてシラけてしまう。

そして、この御曹司がマンガみたいなキャラの世間知らずのお坊ちゃんで、大学を留年し頭の上がらな
い伯母に、1泊21万円の部屋の半年間に渡る長期の宿泊費を支払ってもらいながら、その部屋から大学
に通っている。 しかし、そのマンガみたいなキャラも、ドタバタコメディーもつまらなさ過ぎてまるで
笑えないし、まったく楽しくもないしょーもない作品だった。
私的には、ホテル内でのコンシェルジュの働きを描いた小説が読みたかった。

密航者 / ジェイムズ・S・マレイ、ダレン・ウェアマウス

2025年01月09日 | 読んだ小説
                    


異常な連続小児惨殺事件の陪審員を務めた主人公の大学の女性心理学科長。
評議の結果、容疑者は無罪放免となり陪審員らは、被害者児童家族から恨まれ、マスコミや世間からも猛
バッシングを受けていた。 特に、それらの矢面に自ら立った主人公は、精神的に疲弊し気分のリフレッ
シュのために子供達と結婚予定の恋人と共に大西洋を渡るニューヨークとイギリス間の豪華客船の旅に出
る。 しかし、出航直後から不穏な気配を感じ、ついにその船内で、あのサイコパスなシリアルキラーの
連続小児惨殺犯と同じ手口の連続殺人事件が起こる。

主人公は、あの連続殺人犯が船に乗っていると確信して船内警備員や恋人に訴えるが信じてもらえない。
そして、シリアルキラーの魔の手が主人公の双子の子供に迫ってくる。 主人公は船内で家族を守る事が
できるのか。 話は単純明快にスピーディーに、ストレートに展開していく。

話のテンポがいいから読み易くて面白いのだが、その分、主人公家族や犯人の人物が描き切れてなくて
深みが足らないし、連続小児惨殺事件の裁判の暴露本で主人公を辛辣にバッシングした著者で、主人公
の敵みたいな男を、序盤で簡単に殺して早々に退場させてしまうなんて、せっかくこんなに美味しい設定
の人物なのに、もっと上手く使わないなんてもったいない。

そして、ラストで犯人に浴びせた主人公の最後の一言には驚かされたが、それなら何で記者会見を開いて
私が無罪の票を投じたと嘘の発表をしたのか。 陪審員で知り合っただけの軽い友人を救うために、自身
ばかりか何よりも一番大切なはずの双子の子供や恋人を犠牲にしたのか。 この主人公が家族を犠牲にし
て危険に晒したり、裁判の暴露本の出版発表会に乗り込んで暴れたり、船内で犯人を捜すために理性を
欠いた行動を取ったりと、主人公の異常行動の方もかなり目立っていて、とても心理学の専門家とは思え
なかった。 

幻の女 / ウイリアム・アイリッシュ

2025年01月04日 | 読んだ小説
                    


80年以上前に書かれた名作サスペンスの新訳版らしい。
主人公の男は、離婚で揉めている妻と喧嘩をした後、街で出会った風変わりな帽子を被った女と酒を
飲み、食事をし、演劇を観て6時間ほどいっしょに過ごした後、家に帰ったら妻が殺害されていた。
警察に妻の殺人容疑で逮捕された主人公は、女と一緒にいたとアリバイを訴えるが、バーやレストランの
従業員、タクシーの運転手の誰もが、主人公は1人だけで同伴の女などいなかったと証言される。
そして、主人公自身も、その幻の女の容姿を何故かまったく憶えていなかった。

本作は、主人公の死刑執行までの5か月間をカウントダウンしていく形で描かれ、その間に主人公の無実を
立証しようと刑事、親友、不倫相手の女性が幻の女を捜すために奮闘する。

主人公と一緒にいたという女は、普通に考えたら幽霊か主人公の幻覚とかでなければ、バーやレストラン
の従業員らの証言が嘘なのだと思うが、彼らを買収して嘘の証言をさせて、尚且つ主人公の妻を殺害した
真犯人は、ミステリーのセオリーで云えば親友の男なんだろうなと思って読んでいた。
しかし、それにしても主人公が、6時間も一緒にいた女の容姿を憶えていないなんてあり得ないだろう。

さすが名作と呼ばれているだけあって面白かったが、真相は大体私の想像した通りで捻りが足りないし、
中盤の中だるみも少しあったりはしたが、一番の致命的なツッコミ所は、犯人である親友が、主人公と
幻の女が一緒にいた所を目撃している人物らを買収するために、レストランも劇場も終わっていて誰にも
訊けない深夜2時から4時までのたった2時間で、名前も住所も分からない目撃者の従業員やタクシー
運転手を捜し出して買収を成功させるなんてどう考えてもできるわけがない。 

そして、幻の女の正体もちょっとショボイものだったし、主人公が幻の女の容姿を、まったく憶えていな
かった事に対する理由の説明が何もなくて非常に不明瞭なままだ。