私の読書記録

ミステリー、サスペンス、アクション
ファンタジー、SF、恋愛、ハートフル
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てのひらの闇 / 藤原伊織

2024年11月02日 | 読んだ小説
                    

☆☆
元ヤクザのサラリーマンが、裏社会と政界が繫がる闇に迫るサラリーマン・ハードボイルド小説。
一部上場企業の飲料メーカに宣伝部課長として勤める主人公は、2週間後にリストラによる自主退職が
決まっていた。 そんな時に20年前の入社時に便宜を図ってもらった当時の宣伝部長で現在の会長から
呼び出され、会長自身が偶然撮ったという人命救助のビデオを会社製品のCMに使えないかと打診される。 
しかし、その映像を調べたらCG加工されたものだった。 その事を会長に話しCMの件はなしになったが、
その夜に会長が謎の自殺を遂げる。 主人公は、会長に入社時の恩義もあり会長の自殺と例のビデオの事
を調べていく。

調べを進めていくと裏社会の人間に突然待ち伏せされ襲われるが、とりあえず普通のサラリーマンだった
主人公だが、裏社会相手には、奴ら以上の非情な暴力で対抗するバイオレンス度が一気に表面化する。
しかし、何で主人公は、ずーっと高熱で体調が最悪なのを押してまで会長の自殺を調べるのか分からな
い。 ちゃんと風邪を治して2週間後に退職してからゆっくり調べても何も問題はないはずだ。
そして、主人公に胸キュンな思いを寄せ、主人公の体を気遣いながらサポートする部下の人妻女性だが、
そのキャラに読んでいるとこっちも胸キュンしてしまいハードボイルド小説の一服の清涼剤だ。

今回の事は、20年前に主人公と会長が出会うきっかけになった女優と会長との、その後の関係に端を発
していて、女優の父親は裏社会の人間という事で会長のスキャンダルを裏社会に握られており、女優の妹
(実は娘)も関係する例のCGビデオに、裏社会と政界の繫がりも含め複雑に絡んだものであった。
そして、会長は愛する女性と、その娘を守るために自ら命を絶ったのであるが、もっと以前に、もっと他
の解決方法がなかったのかな。

他に気になったのが、主人公は会長や同い年の経営企画部長と気心が知れている間柄なのかもしれない
が、社内で会長や上役にタメ口は、主人公の経歴や作中のキャラがどうであれ主人公の魅力と価値をか
えって落としてしまっているように思えたし、主人の正体をなくすほど泥酔する癖もただみっともない
だけだった。 最後に主人公は会長の事を、まれに見る高潔な男と言ったが、ヤクザの組長の娘と不倫
し、会社経営にも失敗した男が高潔な人物なのか疑問だった。

二十一時の渋谷で キネマトグラフィカ / 古内一絵

2024年10月25日 | 読んだ小説
                    


今年中に映像配信会社に買収される事が決まっている老舗映画会社に勤める人達やOBらを、各章ごとに
視点の主人公を変えて描く群像劇。

社内のみんなが今後の事に疑心暗鬼になっている中、早期退職のリストラが行われようとしているが、
そんな中で会社名が消える前に自分の納得のいくやりたい仕事を残そうとする主人公の女性チーム長。
上役や周りの様子を伺いながら常に自分の楽な方へと行こうとする一見ダメ上司だが、なかなか曲者な
男性グループ長。 会社に残れるのか去るのか、恋人と結婚したいのかしたくないのか気持ちの定まらな
い主人公の部下で契約社員のゆとり女性。 まだ会社に勢いのあった90年代には華々しく活躍したが、
今の家族関係に疑問を持つ、今回の主人公の企画に協力する女性OB達。 主人公に嫉妬し妨害しようと
する組織の中の正義を自負する社内警察で、独創力には欠けるが会社の求める仕事をするという意味では
優秀な他部署の女性チーム長。 これらの視点で各章が描かれていく。

会社や仕事に対して人それぞれに思いがあるだろうし、仕事は真面目に一生懸命にやった方がいいのだろ
うけど、それが自分や周りの同僚らにとって必ずしも良い事にはならない場合もある。 だから、主人公
も最後に言っていたけど、働き方、生き方に正解も不正解もないし、自分の仕事内容に納得するか、自分
の社内でのポジションに執着するかも人それぞれだ。

私も自身の会社勤めでいろいろ見てきたけど、社内で昇進していく人は、実際に仕事ができる人より、
上司に上手く取り入って可愛がられる人が多かった。 だから、そんな人が自分達の部署の上司になった
ら、その人が役職の仕事も十分にできないし、部署をまとめる力もないから職場が混乱して大変だった。 
何かいろいろ昔のそんな事を思い出したりした。

最後は情熱を持って仕事をやり通した主人公が自ら会社を去っていくが、宇宙的規模の時間で考えたら
ほんの一瞬でも仲間らと貴重な時を共に経験できた事を胸に、これから先の不安もあるけど強い思いで
新たな未来に歩みを進めようとする主人公に清々しさを感じてなかなか良い作品だった。

密命 巻之十五 無刀 父子鷹 / 佐伯泰英

2024年10月20日 | 読んだ小説
                    

☆☆
当代一の剣客父子の運命、宿命を描いていく「密命」シリーズの第15作目。
直心影流の剣の達人の金杉父子と妹の結衣が、訳あって大和柳生の里に逗留していると、金杉父子に剣術
の指南を乞う近隣諸国の武士らが毎日集まって来ていたが、中には腕自慢の無頼者が道場破りのように
金杉父子に試合を挑んでくる者もいた。

その頃、金杉が留守をする江戸では、町火消しのめ組の次の纏持ちの件で、金杉の長女みわの想い人の
昇平が、多くの兄貴分を飛び越えて次の纏持ちに内定されて、め組内では第一候補のはずだった兄貴分の
ドス黒い嫉妬と陰謀が渦巻いていた。 そして、兄貴分一派や兄貴分が雇った刺客に狙われる昇平。

一方、柳生の里では、柳生藩の家老と金杉父子が催す近隣諸藩の武士を一堂に集めた大稽古大会が行われ
ようとしていたが、そこへ尾張柳生から大会の邪魔立てと金杉父子の暗殺を命ぜられた刺客一味が送り込
まれ大会に紛れ込んでいた。 金杉父子は一味を暴き出し、大会の最後に参加者一同の前で打ち倒す。
そんな全編通しての金杉父子の天下無双の強さが堪らない。

作者の佐伯泰英は、時代劇小説の第一人者らしく、私も何冊か読んだ事があったが、その時代に関する
作者の豊富な知識を作中でも披露し多くのページを割くので、もっと単純明快な痛快娯楽チャンバラ小説
が好きな私には、ちょっと小難しい感じがする作品が多くて苦手だったが、それが本作では少なめで読み
易くて良かった。



過ぎ去りし王国の城 / 宮部みゆき

2024年10月16日 | 読んだ小説
                    

☆☆
これと言って何の取柄もない学校でも目立たない中三男子が、成り行きで西洋の古城を描いたスケッチ画
を手に入れたが、その絵にアバターを書き込むと絵の中に自分が入れる事に気が付く。 そして、隣の
クラスの絵が上手いハブられ中三女子に協力してもらい単身絵の中に入るのだが、ちょっと待ってくれ、
絵の中に入っても元の世界に戻れるのかどうかも分からないし、絵の世界にどんな恐ろしい敵がいるのか
も分からないのに、普通そんな所へ行こうなんて思うわけがない。

しかし、何故か平然と少年は絵の中に入って、城に囚われている(住んでいる?)少女を見つける。
そして、後日に今度はハブられ女子と2人で絵の中に入るが、そこで同じく絵の中に入って探検している
人の良さそうな小太りの中年男性に出会う。 更に絵の中に入ると非常に激しく体力を消耗し内臓にまで
ダメージを負う事が分かったのに、益々そんなの絶対行こうなんて思うはずがない。
この2人の危機意識の著しい欠如はいったい何なんだろう?

城に囚われているのかもしれない少女を救い出すとか、10年前の少女失踪事件とか、2人には関係のない
事で、絵の秘密や絵を描いた者の正体が明らかになり、少女を救い出せば、もしかしたら現実世界の自分
の状況が変わるかもしれないというあまりに不確定な予想だけで、いろいろ辛い境遇のハブられ女子の、
そこまでの動機には成り得ないと思うし、現在に不満のない少年にとっては別にどうでもいい事だろう。 
まずは命を懸けてでも絵の中に入ろうとする2人を突き動かす動機を明確にしてもらわないと物語に感情
移入できない。 てゆーか、少女とハブられ女子の母親に元々何の接点もないのに、何で少女を助けたら
ハブられ女子の母親が交通事故で死なない世界が出現するかもしれないって思ったんだろう? 

結局、ひとつの時間軸の10年前の少女は救う事ができたのかもしれないが、もうひとつの時間軸を生き
た、あれから10年が経って19歳になっていたあの時の少女は、まったく何も救われる事なく辛く悲しい
だけの人生を自ら終えたままで、本当は一番この女性こそ救われてほしかった。 そして、中年男性が
自身の母親に対する後悔を吹っ切れて前を向く事ができたのが良かっただけで、ハブられ女子の辛い境遇
も何も変わる事はなくハッピーエンドとは言い難いし、主人公の2人も特に何の魅力もないし、最初の少
年のキャラが途中でブレて別人になってしまっているのも何だこれって感じで、話に納得できる一貫した
スジが通ってなくてファンタジー擬きの荒唐無稽な作品と云えるかもしれない。

宝くじが当たったら / 安藤祐介

2024年10月10日 | 読んだ小説
                    

☆☆☆
中堅食品会社の経理課に勤める32歳で年収400万の真面目で気弱な独身男性が宝くじで2億円を当てる。
この「宝くじが当たったら」というタイトルだけで庶民の心を擽られ思わず本を手に取ってしまった。

しかし、この主人公は頭が悪くて、当たった翌日に宝くじを買った売り場に確認に行き、売り場の周りに
いた人達に高額当選者だという事が知れてしまう。 更にすぐに当選金の換金のために、会社の仕事で、
しょっちゅう訪れている顔馴染の銀行へ行ってしまい、更に更に当選を伝えた母親が、嬉しくて親戚一同
や隣近所にも話してしまい顔も名前も知らない遠い親戚が現れ出す。 
そうこうしている内に、慈善団体から寄付を求める電話が頻繁に掛かってくるようになり、ネットで2億
円当選者として顔も名前も勤め先も身バレしてしまい、主人公は、会社の名前がネットに出た事で自ら会
社にも当選を報告しなければならなくなり社長からも叱責される。

開き直った主人公は、2億円当選した事をフェイスブックで公表し、慈善団体に3千万円寄付し、両親や
親戚の海外旅行代と実家の大規模リフォーム代と妹の結婚費用を出し、会社の同僚や学生時代からの友人
それぞれ100人程に飲食代数百万円奢り、それほど親しくない会社の同僚の結婚式にも呼ばれるようにな
り、それぞれ30万円ほど包み、学生時代からの友人や会社の同僚らが自由に集うセミナー兼イベントを
何度も行い、その費用を全額負担し、更に投資で騙され4000万円を持ち逃げされ、トドメは親友に2度も
裏切られ負債を背負い、結局これらすべてで2億円を使い切ってしまい会社もクビになる。

別に自分や実家のためにお金を散財するのならいいけど、主人公ではなく主人公の持つお金に敬意を示す
だけの連中に何度もタダで飲み食いさせるのはまったく信じられない。 オマケにリフォーム中の家も放
火されてしまう。 結局、いろいろあって家族にも会社にも友人にも迷惑をかけただけで誰からも本気で
感謝などされていない。

よく宝くじで億の金が当たったら、親兄弟にも場合によっては配偶者にも知らせてはいけないと云われて
いるのに、この主人公は、本当にお人好しでバカの極みなんだろうと思う。 
最後は、お金での結びつきではない本当の愛を手に入れる事ができてめでたしで終わるのはいいけど、
私は読んでいて無駄で無意味な金ばかりを使った主人公に只々不快、不愉快でしかなかったし、内容は
人の不幸話で面白いのだけど、こんなに胸クソ悪い小説も久しぶりかもしれない。