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小さな町工場を営む両親の下に生まれた瑛と、日本有数の海運会社の社長の息子として生まれた彬。
やがて大人になった2人のアキラの運命が交差する時が来る。
工場の経営難が続く瑛の家庭では、優しくて力強かった父親が次第に荒れたりふさぎ込むようになり、
同じく優しかった母親の笑顔も消え、いつも瑛に優しくしてくれた従業員のヤスさんも辞めなければなら
なくなり、瑛は両親の様子を伺いながら不安な毎日を過ごしていたが、ついに工場は倒産し、借金取りが
大勢押し寄せ工場の機械も家も取られ夜逃げする事になる。 そんな両親の苦難苦悩と絶望する姿を見て
きて、家族の絶望、自身の絶望を少年時代に経験してきた瑛。
それと比べ、もう一人の超裕福な家庭に育った彬だが、海運会社を経営する父親と少し距離を取りつつ、
同族系列会社の社長を務める自分勝手で無能な2人の叔父を冷ややかに眺めながら自分の進むべき道を
模索していた。 彬は頭脳明晰で気概もあり優秀な人物のようだが、多くの読者は子供の頃から修羅場を
経験してきた心優しい瑛の方を応援したいんじゃないかな。
そんな2人が同じ年度に同じ銀行に就職して数年、彬の父親が病死して途中に間の社長を立てたが、2年
後に2人の無能な叔父におだてられた彬の弟が社長になる。 しかし、兄の彬に対するコンプレックスと
経験不足による甘さで暴走し、更に叔父らが無謀なリゾートホテル事業に乗り出し、その口車に乗せられ
騙されて弟が社長の海運会社が、巨額の連帯保証債務を持たされグループ全体が壊滅の危機に直面してし
まう。 最早自身の無能さを知った弟は社長を降りて彬が銀行を辞めて社長になり会社を立て直す事にな
るが、そんなんなら最初から彬が家業を継いでおけよと誰もが思っただろう。
そして、会社再建に注力しようとする彬の前に現れたのが、銀行で彬の海運会社の担当になった新人研修
以来に顔を合わせた瑛だった。 何とかリゾートホテルを売却しようとする瑛と彬の再建計画は上手くい
かず難航する中、銀行が140億円もの債務を肩代わりするという瑛の融資の稟議書が通るのかというのが
ラストの焦点になっているが、瑛の子供の頃の辛い経験を踏まえ会社に金を融資するのではなく、人に融
資して従業員やその家族の生活、未来を救いたいという瑛のバンカーとしての信念、情念のこもった稟議
書が上司の重い心を動かす。
下巻では、彬の無能な親族らの陰謀によるグループ会社内の揉め事に終始していて、親族らのあまりの身
勝手さに只々読んでいて腹立たしいだけだったし、瑛の出番が終盤までなくてつまらなくて上巻の瑛の子
供時代の話の方が面白かった。 あとは本作のスピンオフ作品として「人情クリスチャン、ヤスさん」と
「忠犬チビの大冒険」の発表を期待したい。