改めてふり返ってみた。
まさに事実は小説より奇なり、
を地でゆく展開だった。
こんな作ったようなストーリーは、
ベタな小説でも恥ずかしくて使えないと思う。
そもそも今回の竜王戦は、
当初から例年とは違っていた。
すなわち、世の中の多くの人が、
羽生名人と渡辺竜王の一騎打ちで、
初代永世竜王が決まることを望んでいた。
暗い世の中にヒーローを求める人たちは、
年末の明るい話題として、
羽生名人の永世七冠も期待していただろう。
挑戦者決定戦で、羽生名人が
2度の窮地に陥ったとき、
丸山九段、深浦九段の無意識をよぎったのは、
「これを勝ってしまっていいのか?」
という声にならない思いだったかもしれない。
両局を逆転勝ちし、
木村八段との挑戦者決定戦も2-1で制して、
予定どおり?羽生名人が挑戦者になった。
待望の羽生-渡辺のタイトル戦に
熱戦の期待は大きく沸きあがった。
そんな中、困っていたのは渡辺竜王だろう。
自身の調子はいまひとつ、というか
かなり悪い。将棋に自信を失っていた。
特に、後手番で勝てない将棋が続いていた。
そして迎えた第1局のパリ対局。
竜王の先手穴熊に対して羽生名人が
圧倒的な大局観をみせつける。
これはまた、名人の穴熊対策は万全、
という宣言でもあった。
第2局の洞爺湖対局。
後手番となった竜王は矢倉に組み、
穴熊には潜らずに端から攻めかかる。
しかし、攻めが届かず負け。
第3局の平泉対局は、
後手番の名人が一手損角換りを選択。
竜王の玉を低く構える手に対して
果敢に攻めて快勝。
消費時間も1時間以上残して、
圧倒的な力の差を見せつけた。
これであっという間の0-3となり、
竜王は本当に窮した。
熱戦どころか、いい将棋が全く無い。
それでも書き続けたブログは
多くの将棋ファンの涙を誘った。
そして迎えた第4局の熊本対決が
後から見れば、シリーズ全体の鍵となった。
先手番の名人は相懸りを選択。
今年の名人戦で深く追求した戦型だ。
勝ちを決めにいったのか、それとも、
竜王とこの戦型を一度やってみたかったのか?
右銀を左の守りに移動させるという
珍しい作戦で、竜王の攻めを誘ったのが良く、
ずっと名人優勢と言われていた。
しかし、後の無い竜王は、
妻の小言の応援メッセージを背に
あきらめずに指し続ける。
さすがの名人も少し勝ちを焦ったか、
終盤決め損なって混沌となった挙句に、
まさかの打ち歩詰めで劇的な逆転となった。
まさに2年前の対佐藤棋王との竜王戦で見せた
渡辺ミラクルの再現だった。
最後、まだ僅かに時間はあったのに、
名人が、あっさりと打ち歩詰めの筋に
入ってしまったのがちょっと違和感があった。
これで息を吹き返した竜王。
一方、勝ちきれなかった名人には、
納得ゆかない何かが残ったようだ。
ここから名人の歯車が狂い始める。
第5局は和歌山での対局。
矢倉に組み合っての戦いを、
今度は竜王が制した。
やはり、この二人のレベルだと、
組み合っての矢倉では
後手番が苦しいようだ。
こうなると、竜王が後手番となる
第6局の新潟対決が大きな山場となった。
竜王に秘策はあるのか?
一方、名人もここで決めないと、
ほんとうにわからなくなる。
先手の名人は矢倉に誘導。
これに対して、竜王が意表の急戦策に出る。
羽生名人は急戦を得意としている。
一方の竜王は、どちらかといえば、
固く囲う将棋が多い。
誰もが予想しない展開となったが、
組み合っては負ける、
穴熊に変化してもたぶん負ける、ということで、
竜王はおそらく、急戦矢倉に賭けて
研究してきたのではないかと思う。
少なくともそう思わせる展開。
急戦では、研究の差が生きる。
思わぬ一手で足をすくわれることがある。
名人は、相手の研究に嵌ることを警戒したか、
自重した手を指してしまうが、この隙を逃さずに
竜王が優位に立って一気に押し切ってしまった。
勝負の流れは完全に竜王に傾いた。
あとは、百戦錬磨の名人が、最終局に
どれだけ立て直せるかが注目となった。
そして泣いても笑ってもこれが最後の
第7局は、将棋の町天童での対局。
これも何かの因縁か。
振り駒で先手となった名人。
普通なら先手を取ることは大きいのだが、
このシリーズに限っては、
6局のうち先手3勝後手3勝。
名人が選んだ戦型は、
第6局に続いて矢倉だった。
ここで相懸りを選ばなかったのはなぜか?
というのは少し気になるところだが、
やられたらやり返す、ということなのだろう。
前局と同じ急戦になった場合の対策は
持っていたのだと思う。
その対局の経過は既に書いたとおりで、
二転三転する将棋を竜王が制した。
追い詰められてからの
竜王の勝負強さが光った勝負だった。
不利になるかもしれなくても、
あえて挑発するような手を指したところなど、
第6局の急戦策もそうだが、
まさに死中に活を求めるような作戦選択は、
根っからの老獪な勝負師ぶりを伺わせる。
永世竜王インタビューでも、
「開き直るというのは諦めるというのと
紙一重で非常に難しいのですけど」
などと面白いコメントをしている。
一方、名人の第4局からの失速ぶりには、
やはり年齢からくる衰えを
感じざるを得なかった。
年を取るということは、
好調と不調の波が大きくなり、
好調の時間の持続が短くなる、
ということであるのだ。
若い竜王が追い詰められて
開き直ることができたのに対して、
名人には流れをひっくり返す力と時間が
残っていなかった。
ひとつの時代が終わったことを
多くの人が感じたのではないか。
名人を追い詰めたものは、
他にもいろいろあったのかもしれない。
世間の期待もあっただろう。なにより、
将棋界全体の期待もあった。
米長会長のHPによれば、
永世七冠に対して国民栄誉賞が用意されていた、
ということらしい。
(こういうことは普通書かないと思うのだが、
書いてしまうところが、なんともなぁ・・・)
そこには、永世七冠で国民栄誉賞となれば、
将棋連盟の公益法人化の議論や、
将棋会館建て直しにも大きな追い風となる、
という計算もあったはずだ。
そういった将棋以外のしがらみが、
羽生名人を、想像以上に追い詰めていたのかも
しれないと思う。
年を取るということは、
そういうしがらみにいやおうなく
巻き込まれるということでもあるのだ。
一方の竜王は、少しはそういうことを考えて
萎縮するかと思いきや、全くそんな気配もなく、
最終局も、純粋に勝負にのめりこめていたようだ。
これも若さということだろう・・・
なんにせよ、将棋以外の世界をも巻き込んでの
世紀の大勝負にふさわしい濃厚なシリーズを、
リアルタイムに通して見ることができて幸せだった。
28日の「情熱大陸」はこれを
どうまとめるてくれるのか、とても楽しみだ。
しかし・・・
渡辺竜王は昨日の順位戦で先手番ながら
久保八段に負け。これで昇級は絶望的となった。
やれやれ・・・
竜王戦の疲れもあるのだろうが、
正直、なんだかなーという感じ^^;
竜王戦だけのウルトラアキラ、
という評価が定着してしまう。
本人が、深層心理で、それで満足して
しまっているのかもしれない。
勝負師的に考えれば、
一番コストパフォーマンスが良い選択
とも言えるのだから。
一方、羽生名人の調子も心配されるが、
心配したところでどうなるというものでもなく、
ファンとしては、一月の王将戦にはまたすっきりと、
新しい姿を見せてくれることを
祈らせていただくだけだ。
ついでに今年全体の将棋界を振り返ると、
春の永世名人勝負から再度の七冠フィーバーと、
いろんなことがあった年だった。
羽生名人は、
王将(防衛)、棋王(奪取失敗)、
名人(奪取)、棋聖(奪取)、王位(奪取失敗)、
王座(防衛)、竜王(奪取失敗)
一年のすべてのタイトル戦に出場したという。
これは七冠の頃以来ではないか?
それがやっと一巡りして、
来年はどんな年になるのだろうか・・・
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