雨が降り始めた
私は雨が好き
雨の匂い 感じるととても嬉しい
振り始めの雨に両手を差し伸べて雨粒を味わうのが好き
ぽつ ポツポツ ぽつ
肌を打つ雨粒を一雫ずつ 指でなぞって線を引いて遊ぶ
なぞる雨粒で濡れる手のひら
ひた ひた 雨粒をなぞる
あの人 あの人はとても背が高くて
大股で少し猫背でも歩く
あの人の傘の中
雨だまりを避けながら手を引かれて歩いた道
街中 傍目を何時も気にするあの人
並んで歩くなんて 数える程しか無かった
雨 雨が降るとあの人は傘の中
私を隠して並んで歩いた
手を繋いでくれて
並んで歩いた
雨だまりにヒールが濡れる
跳ねる雨粒に濡れる
そして 繋いだ手のひらがしっとりと湿って濡れる
身体のあちらこちらが熱を浴びて汗ばみ湿る
あの人は何時も私を湿らせて濡らして溢れさせてしまう
あんな男
本当に あんな男
今でもそう想う
あんな男 あの人
雨の気配
身体が重くなる
雨粒を見つめていると瞼が湿って濡れる
涙なんかじゃない
ただ 湿って溢れてるだけ
雨が降ると身体がだるい
乾いて 渇いた 硬く固まったなにかしらの感情がウズウズ疼き
乾いて渇き斬ったモノがザワザワ騒ぐ
あの人の後姿
傘さすあの人の後姿
探って掘りおこして探して
心の画面に映しだすけど
あんな男 あんな男
今世ではもう逢えない
それで良い
それを望んだんだから
あの人 もう居ないんだから