雨の記号(rain symbol)

藤棚の蜂

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 植えて何十年にもなる藤の木を長く大きな棚に渡し、巻き付かせた藤棚が職場にある。
 その下を車の駐車場として使わせてもらっている。
 冬の間は棚に乾いたつる枝を巻き付かせてじっとしている藤だが、春先になると新しい枝を伸ばしみるみる葉を茂らせてくる。つる枝だから成長が早いのだ。
 葉を茂らせ、薄紫の花を付けだした頃、藤棚の前に一匹の熊ん蜂が旋回を始めるようになった。大きい蜂でクマバチかスズメバチかがわからない。それで熊ん蜂としたのだが、この蜂は人が近づくとどこからか不意に出現する。
 

 たぶん、こんもり茂った葉叢の中から出てくるのだろうが、車に近づいたり、そばを通っていくと頭上で旋回を始めたりする。
 何匹もいない。一匹である。二匹以上いるのは見たことがない。
 なぜ彼に気づくかというと、決まって視野に入りやすい角度で出現してくるからだ。こっちが気づいた時、彼は空中で静止状態になり、こっち向きでかすかに羽音を立てている。


 何だ、とこっちも身構え、警戒態勢を取ろうとしても襲ってくる様子はなく、さっとフェイクをかけて遠ざかっていってしまう。
 五月の初旬頃、彼とはそんな感じで毎日のように顔を合わせていた。そこの前を仕事で通る者は多く、大きな蜂がいる、という話は誰からも耳にしたが、刺されて被害に遭ったという人は出なかったし、退治したという話も聞かなかった。
 その彼も今はめっきり姿を見せなくなった。彼に会わなくなってちょっぴり寂しい気分を味わっている。伸びたつる枝が刈り込まれたせいなのであろうか。
 どうもこの蜂はスズメバチではなくクマバチだったようである。



 
★クマバチ(熊蜂、学名: Xylocopa)は、ミツバチ科クマバチ属に属する昆虫の総称。概して大型のハナバチであり、これまで、約500種が記載されている。方言によっては、連濁に伴う入り渡り鼻音を挟んでクマンバチとも呼ばれる。 

本州のクマバチ(キムネクマバチ)は、概ね山桜類カスミザクラなどが咲き終わる晩春頃に出現し、街中でもフジやニセアカシアの花などに活発に訪花するのがよく見られる。




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