「オープン・ザ・ドア!」
1月16日午前5時40分。プラント大手「日揮」(横浜市)が手がけるアルジェリア南東部の天然ガス関連施設の居住区に怒号と銃声が響いた。国際テロ組織アルカイーダ系武装勢力「イスラム・マグレブ諸国のアルカイーダ組織(AQMI)」による強襲だった。
抵抗した警備員らは射殺され、自室で息を潜めていた少数のスタッフだけが難を逃れた。武装勢力の別動部隊はほぼ同時刻に生産区域を襲い、日本人を含む数人が爆発物を巻き付けられ人質として拘束された。
アルジェリア軍は翌日午前、制圧作戦を開始。武装勢力の大半を壊滅したが、日本人10人を含む37人以上の外国人が犠牲となった。
なぜアルジェリア政府は人質救出よりも武装勢力の制圧を優先させたのか。
それはプラントが破壊された場合の代償があまりに大きいからだ。アルジェリアは、アフリカ最大かつ世界第9位の天然ガス産出国であり、生産量は年間780億立方メートルで世界の24%を占める。襲われたプラントは、英石油メジャーのBPや日揮などで共同運営されており、年間90億立方メートルの生産量を誇る。原油や天然ガスの収入が国家予算の半分以上を占めるアルジェリアがもしこれを失えば、政権は大きく傾きかねない。
もう一つ大きな懸念もあった。プラントが武装勢力に占拠され、人質解放の交渉を通じてテロ組織に資金が渡ったり、拘束中のテロリストが解放されれば、それが新たなテロを呼び、世界各地で同様の事件が広がる可能性がある。合わせて原油や天然ガスは高騰するに違いない。
仏独が即座にアルジェリア政府を支持し、英米も追随した理由はここにある。
日揮の技術者ら10人の尊い命が奪われた誠に痛ましいこの事件は、昨年12月26日に発足したばかりの安倍晋三政権にも冷や水を浴びせた。民主党政権と違い、初動こそ早かったが、政府にできたのは外務政務官の城内実を現地入りさせ、政府専用機で遺体や関係者を日本に搬送することくらい。憲法第9条にがんじがらめに縛られた自衛隊は制圧作戦に加わるどころか、被害者の救出活動に参加することさえできなかった。
それだけではない。日本から遠く離れたアルジェリアでのテロ事件は、原油・天然ガスに依存する日本社会の危うさも露呈した。もし原油・天然ガスが高騰すれば、すべての原発が止まった日本の電力会社の経営を直撃し、電気料金値上げの形で国民、企業に跳ね返る。幸先のよい滑り出しをみせるアベノミクスも頓挫しかねない。
電力は安全保障の根幹を担う。いや、安全保障そのものだともいえる。
●原油価格テロで6倍
埋蔵資源に乏しく加工貿易国として繁栄の礎を築いた戦後日本は、中東の原油に依存し続け、中東での政変や軍事衝突による原油価格の変動に翻弄されてきた。
1973(昭和48)年に勃発した第4次中東戦争で1バレルあたり3ドルの原油価格は12ドルと4倍になり、第1次石油危機を引き起こした。1978(同53)年のイラン革命により第2次石油危機が起き、原油価格は1バレル当たり13ドルが42ドルと3倍に跳ね上がった。
1990(平成2)年には湾岸戦争により1バレル当たり17ドルから37ドルへ2倍以上に上がり、2001(同13)年9月11日の米中枢同時テロ後は1バレル当たり20ドルが130ドルに高騰した。
「原油価格が1バレル144ドルになれば西洋に対するジハード(聖戦)を勝利に導くことができる」
アルカイーダの指導者、ウサマ・ビンラーディンは90年代後半にこう予言した。サウジアラビアの富豪の息子であるビンラーディンは原油高騰による国際経済の破綻を狙って米中枢同時テロを起こしたのである。ビンラーディン亡き後もその危機はなお続いている。
●悪辣!!ロシア資源外交
では天然ガスはどうか。
天然ガスは米国での価格が1991(平成3)年に1000立方メートル当たり52ドルだったが、2013年は120ドルに跳ね上がった。これは1回ごとの契約で取引されるスポット価格であり、長期契約を結べばずっと安価になる。液化天然ガス(LNG)で効率よく発電するコージェネレーションの発電所を多数造れば、原発がなくても安価で安定した電力を供給できるとの声もある。
だが、原油と違って貯蔵が難しい天然ガスを長期契約で輸入するには、産出国にプラントと貯蔵施設を作り、日本にも大型の貯蔵施設を建造しなければならない。LNGを冷却輸送するための特殊な専用船も必要となる。
しかもアルジェリア事件が示したように天然ガスプラントが再びテロリストの標的となる可能性は否定できない。8割以上を中東から輸入する原油に比べ、天然ガスは、インドネシアやマレーシア、オーストラリアなどからも輸入しており、中東への依存度は24%と格段に低いとはいえ、リスクは十分ある。
首相の安倍晋三は3月に訪露を検討しており、露大統領のプーチンとの会談を通じてサハリンからのパイプライン敷設計画が本格化する可能性もある。実現すれば、天然ガスを安価かつ安定的に供給できるようになるが、発電をロシアからの天然ガスに依存するようになって安全保障上問題はないのか。
ロシアは2003年にラトビアに石油供給を停止したほか、2006年と2009年にはウクライナへのパイプラインでの天然ガス供給を停止するなど主に東欧に対し、たびたび悪辣な資源外交を繰り広げてきた前科がある。これは旧ソ連時代からの常套手段だともいえる。とてもではないが日本の命運を委ねるわけにはいかない。
ただ、LNGに将来性があるのは確かだろう。米国やカナダでは頁岩(シェール)層から採取される天然ガス「シェールガス」の大量の埋蔵が見込まれ、注目されている。
とはいえ、パイプライン敷設にせよ、シェールガス輸入にせよ、中長期のエネルギー政策の一環に位置づけられるべき課題であり、原発の全面停止による慢性的な電力不足や、債務超過に陥りかねない電力会社の窮状を打開する手立てとはなりえない。「デフレ脱却」と「経済成長」を掲げたアベノミクスの成否とも短期的には結びつかない。
中長期的にみても、天然ガスはどちらかと言えば、原油の代替エネルギーとしての意味合いの方が大きく、“準国産”である原発の代替エネルギーとしてはいささか頼りない。少なくとも、ここ数年の景気浮揚と電力の安定供給に原発再稼働が不可欠であることは間違いない。(敬称略)
原発は唯一エネルギー問題を解決する手段であり、テロを起こさせない事につながる。
ですか。
毎度コメントありがとうございます。
原発は、考えてみると
今のところ、一度動かせば
長期間、安定的に雨や夜間でも発電でき、
廃棄物もリサイクル可能で
しかも核抑止にも使えるという
一石五丁の優れ物です。