【社説】米副大統領のメッセージは不十分―防空識別圏撤回要求が必要
バイデン副大統領は3日に東京で、中国が沖縄の尖閣諸島に対する支配権を行使しようとしている動きに言及。安倍晋三首相と臨んだ記者会見で「米国は東シナ海の現状を一方的に変えようとする試みを深く憂慮している」と述べた。
しかし、バイデン副大統領も、オバマ政権のほかの閣僚も、米国に防衛義務のある日本の領空に中国が設定した防空識別圏を受け入れられないと明言していない。その代わり米国は、衝突の可能性を最小限に抑える方法で防空識別圏が扱われることを期待しているというシグナルを中国に発した。それは米国と日本の立場に隙間を生む恐れがあり、これを中国に弱点ととらえられかねない。誰も対立を望んでいないからこそ、今はより強力な対応が求められる。
米国は北米、ハワイ、グアム周辺に独自の防空識別圏を設けているため、中国の防空識別圏設定に反対するのはダブルスタンダード(二重基準)だという中国の主張に屈しそうになるかもしれない。だが両国の決定的な違いは、米国の防空識別圏には、他国が支配している係争中の領土が含まれていないことだ。日本の防空識別圏にも、ロシアが支配している千島列島(ロシア名・クリル諸島)や韓国が支配している竹島(韓国名・独島)は含まれていない。
中国の習近平国家主席は、同国は新しい防空識別圏で積極的に活動するつもりはないと約束し、米国と日本を安心させようとするかもしれない。だが、中国の船舶や航空機が尖閣諸島周辺で毎日のように日本の防衛力を試している中、こうした約束は信頼できない。防空識別圏が設定されている限り、中国人民解放軍はこれを利用して、日本の自衛隊との緊張を高めることができる。一部の解放軍幹部は強烈な愛国心をあらわにしており、危機的状況の中で文民の指導部が軍部を制御できるか疑問視されている。
米国と日本はここ数日、航空会社が新たな防空識別圏を通過する際に飛行計画を提出するよう求める中国の要求に応じるかどうかをめぐり、足並みが乱れている。日本は航空各社に応じないよう命じたが、米国は応じるよう求めた。いずれにせよ、米国の航空会社は法律や保険に絡む問題から応じる見込みだ。民間航空機での足並みの乱れに対する懸念は、政府専用機の飛行の自由という一番の問題から気をそらしている。
中国が設定した防空識別圏は、尖閣諸島や日本だけでなく、中国沿岸と日本、台湾、フィリピンの島々の間に位置する東シナ海の「第一列島線」の内側における米国の軍事力も視野に入れている。国際法によると、世界各国の軍用船と軍用機はこの海域で作戦を展開できるはずだが、中国は海洋法を拡大解釈し、沿岸から200マイルの排他的経済水域(EEZ)から外国の軍隊を締め出している。
米国などが今回の防空識別圏を認めれば、中国は「昔からの領海」と訴えている南シナ海のほぼすべての上空に新たな防空識別圏を設定する可能性がある。そうなれば、ベトナムやフィリピンなど南シナ海の島々の領有権をめぐり中国と争っている国が自国の駐屯地を守るのが一段と難しくなるだろう。
中国は権威主義的な姿勢を強めている。歴史を振り返ると、世界の大国がこうした領土を拡張しようとする行動をすぐに阻止しないと平和が危険にさらされるという教訓がある。
米国やその同盟国に受け入れられそうな唯一の解決策は、中国が防空識別圏を撤回することだ。バイデン副大統領が米国は防空識別圏内の特別ルールを保証することを承知すると言えば、中国に「現状維持」をあらためて検討させることができるだろう。
米国は中国指導部に、防空識別圏が取り消されなければ、米空軍・海軍が共同で尖閣諸島周辺の巡視を開始すると伝えるべきだ。長期的には中国が軍事的な威嚇を続けるのを容認するよりも、こうした断固たる態度の方が平和に寄与するだろう。