特定秘密保護法は本当に天下の悪法か
by高橋洋一俗論を斬る
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特定秘密保護法案が衆議院で可決された。自民、公明、みんなの党の賛成多数だ。3党とともに法案修正に加わった日本維新の会は、採決の前に途中退席した。
これに対して、マスコミは一斉に反発している。
これはマスコミのお決まりの行動だろう。私に、これについて海外のメディアからの取材もあるが、どちらかというと、日本のマスコミの騒ぎ方のほうに興味があるようだ。
特定秘密保護法案は、刑事罰をもって保全する秘密の指定、秘密の指定と解除などを骨格としている。秘密を漏洩する側も秘密を入手する側も規制対象だ。この種の法律は、先進国ではそれぞれ歴史的な背景があるものの、すでに制定されている。例えば、アメリカの防諜法、イギリスの公務秘密法、ドイツのスパイ防止法をベースにする刑法や保安審査法、フランスの刑法、韓国の刑法、国家保安法、軍事機密保護法等である。
いずれも、国の安全保障と国民の知る権利という2つの法益調整を図る必要があり、それぞれの国の事情により、利益調整が行われている。こうした事情から考えると、筆者としては、ようやく日本も普通の国になれるのかといった感想だ。
ツワネ原則と秘密保護法
私はこうした各国の秘密保護法と比較して、日本の特定秘密保護法案がそれほど国際常識に反するとは思わない。むしろ罰則なんかは緩くて、これで大丈夫かとも思ってしまう。
しかし、反対論者は各国の実定法ではなくツワネ原則を持ち出す。これは、ネット上で読めるので、長い英文でもないので是非原文を読んだらいい(「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」)。
ツワネ原則は、誰がどのように作ったのか。作成主体は、死刑廃止主張で有名な国際アムネスティなど22の民間団体や研究所である。これは実際に制定された法律ではないが、世界70ヵ国以上の500人以上の専門家が参加して作成された理念型のガイドラインである。2013年6月に南アフリカ共和国の首都・ツワネで示されたためツワネ原則といわれる。
ツワネ原則と維新・みんなの党による政府案の修正後法案を比較してみよう(表参照)。
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第三者機関のところは、当初の政府案では問題があったが、修正によりかなり似通ってきた。安部首相は、米国の類似機関を参考にして検討するとし、はっきりと「作るべき」と明言している。また、今の情報公開法における第三者機関(情報公開・個人情報保護審査会)も合わせて参考にされるだろう。これらを考慮すると、日本の特定秘密保護法案とツワネ原則で大差ない。
原発事故情報を持ち出すのは筋違い
秘密の範囲について、マスコミは知る権利を錦の御旗として主張するが、ツワネ原則でも最小限度の秘密の存在を認めている。そもそも、今の情報公開法でも、開示除外として「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」(情報公開法第5条)を認めている。特定秘密といっても、この公開除外の部分集合であろう。
そもそも原発事故の際、情報がうまく開示されなかったことと、今回の特定秘密保護法案を混同していることもある。例のSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)である。私は震災直後のあるテレビ番組で、SPEEDIの存在や政府が開示していないことを指摘したが、これは秘密でもなく、むしろ公開しなくてはいけない情報だ。これを公開しなかったことと、防衛、外交、スパイ、テロの4分野で特定秘密を設けることとは全く違う話だ。
公開すべきはきっちり公開し、秘密はしっかり保持するというメリハリが重要なのだが、一部の人は、公開すべきことが公開されなかったことをもって、保持すべき秘密を公開すべしとの論法になっているのはとんだ筋違いだ。
基本的人権との関係では、報道の自由が配慮されることは、公明党の意向で追加された第21条(法律の解釈適用)で書かれている。
安全保障と知る権利の調整は、当面秘密だが事後検証がポイントだろう。5年毎の見直しや総理のチェックや国会報告があるのだから、国民がその都度プレッシャーをかければいい。
指定期間について、原則年数が法定されている。本当に今後支障があれば、行政府に任せるのではなく、立法府が法改正で変えていけばいい。ケネディ大統領暗殺時に、事件の機密資料は75年間、2039年まで公開しないと決定された。しかし、その後大半の資料が順次開示され、米議会は1992年、残りの資料を2017年までに公開することを決めた。
しかし、大きく違う点もある。処罰対象である。ツワネ原則は、ジャーナリストを念頭に置いていて罪に問われないが、それではスパイ防止に関して「抜け天」になってしまう。これはジャーナリストに好ましいことかもしれないが、スパイにとっても好都合になってしまう。
日本に本当のスクープはあるか
一方、特定秘密保護法案では、違法行為などの場合や共謀罪なども罰する。ただし、その場合、10年以下の懲役刑だ。これで、安全保障と報道の自由の両立を図っている。
ツワネ原則は、人権を重視した民間団体からの提案なので、安全保障上の考慮があまり払われていない。陰謀(Conspiracy)罪は、国際社会ではしばしば議論になるが、例えば、2000年11月の国連総会で採択された「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」では、共謀罪が盛り込まれている(条約は国会承認したが、国内法は未整備)。この意味で、共謀罪を規定しないツワネ原則は、国際常識とずれている。
なお、アメリカの防諜法では最高刑が死刑になっており、ツワネ原則を作成した民間団体の価値観では、絶対に認められないものだろう。
ある海外メディアは、日本のマスコミは報道の自由がありすぎて、それが少しでも侵害されると怒るといっていたのが印象的だ。
それなのに、日本のマスコミでスクープはあまり聞かない。もちろん、マスコミ業界内での「スクープ」はある。例えば、安全保障の分野でないが、合併話などだ。ところが、そうしたことは、米国ジャーナリズムではあまり意味ないらしい(参考記事:「日本なら新聞協会賞間違いなしの巨大合併スクープを連発する記者は悪いジャーナリズムの見本。市場と業者に奉仕する「プレスリリース原稿」を排する米国のジャーナリズム」)。
安全保障でも、西山事件が有名だが、あれはジャーナリストのスクープではない。記事にできなくて、野党に情報を渡したわけで、単なる情報ブローカー的な動きだった。しかも手法もハニートラップまがいだ。
また、最近の消費税増税で、新聞業界で軽減税率を獲得したためなのか、財務省の意見の垂れ流しで増税大合唱のマスコミ(いわゆる「ポチ」)が、報道の自由のみを主張し特定秘密保護法案に反対すると、これまでのように、役所情報に依存する取材ができなくなると心配しているのかと思ってしまう。
この点、特定秘密を扱う公務員に対する適性評価を読むと、次の項目があり、面白い。
①特定有害行為とテロとの関係(家族、同居人の氏名、生年月日、国籍、住所を含む)、②犯歴、③情報扱い経歴、④薬物チェック、⑤精神疾患、⑥飲酒節度、⑦経済状況である(第12条)。
ここで⑧飲酒節度があるということは、酒席で情報漏洩するなという趣旨なので、マスコミが公務員から情報を得ために酒が振る舞われる会食を使うという伝統的な手法が使いにくくなるだろう。もし万が一、マスコミが報道の自由をこの程度の意味で使っていたら、安全保障の観点が蔑(ないがし)ろになってまずい。
9.11の時、日本には必要な情報が入らず
私の官邸勤務経験からいって、各国からの情報はどうしても必要だ。2001年の9.11の時も、日本には必要な情報が入らなかった。それで結果オーライだったかといえばそうでもない。
今問題になっている尖閣諸島の領空に中国の防空識別圏が設定されたが。その情報収集は大丈夫か。中国のやり方は、防空識別圏の設定はいざしらず、中国の防空識別圏を飛行する外国の航空機に対し飛行契約を明らかにした上で、中国軍の指示に従わなければならないと言っていることなど、国際常識から見るとかなり異様な話だ。
実は、尖閣諸島近辺には、米国海軍の射爆場が2ヵ所ある(図参照)。また、沖縄北部訓練区域も」中国の防衛識別圏にかかっている。この点から、米国政府は、尖閣諸島について、「日本の施政下にあり、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が適用される」と再三述べてきた。
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だからこそ、今回の中国の防空識別圏設定について、米国政府はすぐに非難し、米軍の飛行計画も提出はしないと明言している。
いずれにしても、日本の周りには、日本が好まないにもかかわらず、国際緊張があるのは事実だ。不測の事態が起こらないとも限らない。その場合、日米安全保障条約が有効に機能するためには、日米の密接な連絡が必要だ。その前提として、米国側の懸念している「日本は機密保護法が不十分なので情報を渡せない」という事態はぜひとも避けておくべきと思う。
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