規制委への申請間近に
4月から7月にかけては、国内の原発の廃炉にまつわる問題がニュースになるだろう。
運転開始から40年前後がたった原発については、電力会社が寿命を延ばすつもりなら、今年4月8日から7月8日までの間に、運転延長の申請を原子力規制委員会に行わなければならないからである。
対象となる第1陣の原発は7基。日本原子力発電の敦賀1号、関西電力の美浜1、2号と高浜1、2号、中国電力の島根1号、九州電力の玄海1号だ。
敦賀1号は1970年3月、美浜1号は同年11月の運転開始で、日本の軽水炉原発の草分け的存在。ともに大阪万博の会場に初送電した歴史を持つ。
敦賀1号は沸騰水型の、美浜1号は加圧水型の最古参だ。
7基のうちでは玄海1号と高浜2号が新しく、75年10月と11月の運転開始となっている。
これらの原発を所有する電力会社が7月8日までに運転延長を目指す申請をしなければ、どうなるか。その時点で廃炉への運命が決まってしまうという仕組みだ。
その上、申請期間は3カ月に限られている。1年3カ月前より早く、例えば2年前に運転延長認可の申請はできるのか。
原子力規制庁に尋ねると答えは「ノー」だった。
恐怖のギロチンアウト
原発の寿命を左右する重要な申請の受け付けが、3カ月間に限定されているのは考えものだが、それ以上に問題なのは規制委による審査期間が1年から1年3カ月しかないことだ。
7基の原発が今年の期間中に申請したとして、来年の7月7日までに規制委の審査が終わらなかったらどうなるか。
規制庁に問い合わせると「その時点で打ち切りです。審査の継続措置はありません」という答えが返ってきた。仕組みを知ると恐ろしい制度設計であることがよく分かる。そんなことはないと信じたいが、規制委が牛歩審議をすれば、その原発はタイムアウトで退場だ。
再稼働の前提となる安全審査でも長い日数を要している。先頭にいる九州電力の川内1、2号機でさえ、一昨年7月の審査申請から1年半がたつ現在に至っても完了していない。
当初は約半年で終わるとされていた審査である。安全審査自体にはタイムアウトはないが、運転延長審査の場合は1年3カ月以内に終了しないと、審査にも原発の寿命にも、終止符が打たれてしまうことになる。容赦なくギロチンが落下してくるイメージだ。
米は80年運転目指す
電力会社は以上のことを承知の上で、原発の運転延長を申請するのだが、リスクは高い。
寿命延長のための安全対策工事には1千億円前後のコストがかかるので、それを投じた揚げ句に審査の時間切れでは泣くに泣けない。期間内に無事、審査が終わっても、合格するとはかぎらない。
また、運転開始年代の古い原発では電気ケーブルに難燃性のものが使われていない。ケーブルに防火塗料を塗るなどの対策で規制委の審査に合格するかどうかは現段階で未知数だ。
高経年原発の運転延長の申請には、電力会社にとって予見不能の部分があまりに多い。これでは経営判断に支障を来すことだろう。
福島事故以前の国内原発は、60年運転が想定されていた。30年に達してからは、10年ごとに保守管理や評価を行うことになっていた。
それが民主党政権下の法改正で、原発の寿命は40年に限定された。運転開始から40年を迎えるまでに認可を受けた場合に、1回だけ最大で20年の延長が可能になったのだ。
米国ではどうだろう。基本的な運転期間は40年だが、99基の全原発中、既に74%の原発が60年運転の認可を得ている。それどころか、米原子力規制委員会(NRC)などは、電力会社側の意見を聴取しながら「60年超え」を検討中だ。行く手には「80年運転」があるという。
同じ原子力規制委員会でも日本と米国では、大きく姿勢が異なっているようだ。NRCは独立性を保ちながらも電力会社と上下関係なしに対話する。活動の効率性も重視する。
今のままだと規制委は原発の死刑執行機関へと進む。その事態の回避にも改革や見直しが必要だ。まずは運転延長の申請にゆとりを持たせるべきだろう。それで原発の安全性が向上しても低下するとは思えない。(ながつじ しょうへい)
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