第二次世界大戦末期、フランスとスペインの国境、ピレーネ山中の小さな村レスキュン村での物語。
作家マイケル・モーパーゴはイギリス人で映画にもなった『戦火の馬』を書いた人。
後書きによると、レスキュン村は、戦時中、負傷兵やユダヤ人が中立国スペインへ逃避のルートになっていたとのこと。国境警備のナチスのドイツ兵は、年配者が多く、第一次世界大戦でも兵役についた人もいて、村人と同じぐらい戦争を嫌っていた人もいたという証言もあったという。
マイケル・モーパーゴは、このようなことを取材を通して知り、この作品の着想を得たという。
テーマも描かれる風景も、私に取ってはとても感心が深かったので、読み初めて、一気にその日のうちに読み終わっていた。
私は、フランスバスクのバイヨンヌから、ピレーネの山越えをしたけれど、森林深い山肌というよりも岩肌がちの低木、草地の山々が連なっているように、私の記憶にはある。
小さな集落があり、牧畜が盛んだったと思われる風景だった。
山肌にかつての住居(山小屋)跡が点々とあった。
作中に描写される羊群れや、牧羊犬のピレーネ犬、蜂蜜の看板や、教会や役場の前の広場など、そして主人公ジョーの暮らしぶりなど、バイヨンヌの博物館で見た人々の暮らし向きの写真や家屋のレプリカなどから、目に浮かぶようだった。
作中に描かれる国境警備のナチスの伍長は、村民に寄り添う姿勢をみせ、村民との距離を縮めていく。
またこの伍長は、ベルリンの空襲で娘を亡くしているという設定。
事実、『白バラ』のゾフィー・ショルが、レジスタンス活動で逮捕され、彼女を取り調べた官吏も、人間的には良い人だったし、『エディスの真実』に記されるナチス将校ニーケムも良い人だった。
ナチスには、極悪非道の強烈なイメージがあるが、個々でみつめると、そこは人間、良い人もいるということは、自明のことだと私は思う。
そこが、取り立ててこの作品の新しい視点とは思わない。
因みに『エディスの真実』書影です。
この作品に描かれる、ジョーのおじいちゃんや、終盤に登場するジョーのお父さん、村はずれに住む気難しいオルカーダばあさんなど、どうも人物描写がステレオタイプなのも気になる。
既視感がある人物設定ばかりなのである。
ついコルドンの『ベルリン1919』から始まる大作3部作の人間達の描写と比較してしまう。
そして何より気に掛かるのはオルカーダばあさんの農場に秘かに匿われる12人の子どもたちである。
彼らは、どうもフランス語ではなくポルトガル語を話すようだ。
しかも体はかなり弱っており寝込んでいる子もいる。
フランスがナチスの占領下にあって、いったいどのようにして、レスキュン村までの、逃避行が可能だっただろうか。
ここは、1行のセンテンスであってもいいので、言及すべきだろうと思う。
それと、もう1行2行のセンテンスがあってもいいのではと思った個所がある。
それは捕虜収容所から結核になり、戻ってきたジョーの父親が、その過酷で悲惨な経験から人格がまるで変わってしまっていた。ジョーにも暴力をふるう。
そこでおじいちゃんが、ジョーがいかに立派な少年に育っているかを話すシーンがある。
徹底的に秘密にするようのオルカーダばあさん、ベンジャミンとジョーとおじいちゃんが約束をしていた匿っているユダヤ人の子どもたちのことである。
それを話していいのかと、いう問題もあるが、その話しを聞いた途端、おとうさんの人格が、あっという間に、元に戻るのである。
これって、あり?ですか。
安易すぎやしませんか?
と、私は思うのです。
ジョーと彼を取り込む友人、教師、村人達が一丸となって、ユダヤ人の逃避を可能にし、それを見ぬふりをするナチの伍長。
展開は感動の物語である。
作家モーパーゴが取り組もうとしたテーマは、とても興味深く、それだけに、私はやはり細部に拘ってほしかったと思う。
なんだろう。
偏見かもしれないが、作家がイギリスというナチの非占領下にあった作家だと、つい思ってしまう。
ドイツ人や、占領下にあったフランス人、オランダ人、デンマーク、ノールウエィの作家が描く、反ナチの児童文学とは、どうも間近感というか、切羽詰まった臨場感に欠けるような気がしてならない。
結末で、国境を越えられなかったベンジャミンとリアについても、「これはないだろうと!」と、少々イラッとした。
こういう不全感を敢えて作る意味ってなんだろう。
芝居の演技過剰の役者をみているような気がした。
物語の山場としてはいらないシーンだと思う。
今年度の中学生対象の読書感想文の課題図書に選定されている。
ああ、感動しました、泣きました、ナチスにもいい人がいるんですね、などの感想文になりませんように。
読者は、自分の頭と心で、読んで考えて欲しいと切に思う。
<追記>
レスキュン村からの国境までの逃避ルートを検索してみた。
尾根伝いに約20km。
標高は高いところで1400mほど。
時間で徒歩4時間半。