いわさき ちひろ
1918年12月15日 - 1974年8月8日
「わたしのえほん」いわさきちひろ
発行 : 1978年 新日本出版社
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
私は一人の青年と知りあいました。
戦争直後のこともあって彼はいつもなっぱ服に
草履をはいてよく私のところにやってきました。
「絵を見せてください。」ともいってきましたが、
彼は一人ぐらしのあじけなさもあって私がよく
つくっていたサンドイッチが目的だったんだそうです。
かけだしび絵かきだった私にもある日わりとたくさん
画料が入ったことがありました。昭和も二十四、五年に
なるとそろそろいい靴をはいている人も多くなりました。
彼より年上の私は少し姉さん気分もあったのか、彼に
「靴を買ってあげましょうか。」といいました。
すると彼は靴なら海軍からもらってきたのが六足も
あるからいらないというのです。ではどうして
そんなにある靴をはかないのでしょう。
彼はつぎのようなことをなにげなくいいました。
「僕は一生お金のたくさん入るような仕事には
つかないつもりなんです。ですからとても靴なんて
買えるようにはならないと思います。だからあの
六足の靴を一生はこうと思って大切にしているんです。」
お金をたくさんもうけようと思っている男の人は
たくさん知っていました。けれど、もうけまいと
思っている人は私ははじめてでした。
私はこのことばをどうしても忘れることができませんでした。
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1918年12月15日 - 1974年8月8日
「わたしのえほん」いわさきちひろ
発行 : 1978年 新日本出版社
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私は一人の青年と知りあいました。
戦争直後のこともあって彼はいつもなっぱ服に
草履をはいてよく私のところにやってきました。
「絵を見せてください。」ともいってきましたが、
彼は一人ぐらしのあじけなさもあって私がよく
つくっていたサンドイッチが目的だったんだそうです。
かけだしび絵かきだった私にもある日わりとたくさん
画料が入ったことがありました。昭和も二十四、五年に
なるとそろそろいい靴をはいている人も多くなりました。
彼より年上の私は少し姉さん気分もあったのか、彼に
「靴を買ってあげましょうか。」といいました。
すると彼は靴なら海軍からもらってきたのが六足も
あるからいらないというのです。ではどうして
そんなにある靴をはかないのでしょう。
彼はつぎのようなことをなにげなくいいました。
「僕は一生お金のたくさん入るような仕事には
つかないつもりなんです。ですからとても靴なんて
買えるようにはならないと思います。だからあの
六足の靴を一生はこうと思って大切にしているんです。」
お金をたくさんもうけようと思っている男の人は
たくさん知っていました。けれど、もうけまいと
思っている人は私ははじめてでした。
私はこのことばをどうしても忘れることができませんでした。
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