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美濃加茂市長に無罪判決 逆転有罪判決 検証・メディアの報道姿勢 

2016-11-28 18:44:25 | 評論
岐阜・美濃加茂市長に無罪判決、逆転有罪判決、
そして出直し選挙で再選
検証・メディアの報道姿勢




美濃加茂市長選、上告中の藤井浩人氏再選
 2017年1月29日、受託収賄罪などに問われ、逆転有罪判決を受けた岐阜県美濃加茂市の藤井浩人・前市長(無所属)の辞職に伴う“出直し”市長選挙で、藤井氏が新人の市民団体代表・鈴木勲氏(72)(無所属)を破って再選を果たした。
 投票率は57・10%。
 「多くの方にしっかりやれと激励され、責任の重さを感じている。信を得たと胸を張って市長職を全うしたい」。当選が決まると、藤井氏は事務所に集まった支持者らを前に、笑顔で語った。
 最高裁に上告中の藤井氏は「裁判を闘いながら市長を務めることへの信を問う」として昨年12月19日に辞職。「少しも後ろめたい点はない。現場第一主義で、市民の生の声を聞いてきた」などと判決に触れながら実績を強調し、高い知名度を生かして着実に浸透した。鈴木氏は「予算編成の重要な時期に強引に辞職するのは市政の私物化。藤井氏に市長の資質はない」と訴え、批判票の結集を図ったが、支持を広げることはできず、及ばなかった。(読売新聞 1月30日)
 公職選挙法の規定で、藤井氏の任期は1期目の残りの6月1日まで。5月にはまた市長選が行われるが、当選しても、有罪が確定した場合は失職する。
 
美濃加茂市長に逆転有罪 名古屋高裁
 2016年11月28日、岐阜県美濃加茂市の市長が浄水設備の導入をめぐり業者から現金を受け取ったとして受託収賄などの罪に問われた裁判で、名古屋高等裁判所は1審の無罪の判決を取り消し、執行猶予のついた懲役1年6か月の有罪を言い渡した。
 岐阜県美濃加茂市の市長、藤井浩人被告(32)は市議会議員だった平成25年4月、プールの浄水設備の導入をめぐって便宜を図った見返りに、名古屋市の業者から現金30万円の賄賂を受け取ったとして受託収賄などの罪に問われていた。
 1審の名古屋地方裁判所は去年3月、「現金を渡したとする業者の供述は不自然で信用できない」として無罪の判決を言い渡し、検察が控訴していた。
 2審でも業者の供述の信用性が争点となり、市長側は「業者の供述は変遷しており虚偽だ」と主張する一方で、検察は「現金の準備やメールのやり取りなど客観的な証拠から供述の信用性は高い」とした。
 28日の2審の判決で、名古屋高等裁判所の村山浩昭裁判長は1審の無罪を取り消し、懲役1年6か月、執行猶予3年、追徴金30万円の有罪を言い渡した。
 判決のあと、藤井市長は会見を開き、「現金の授受は一切ないので、裁判所の判断は受け入れられない。きょうは市民に『やっと裁判は終わった』と報告できると思ったが、このような結果になってしまった。私自身は、今後も戦いながら市長を続けたいと思っている。地元に戻って、市民に自分の気持ちをしっかり説明したい」と述べた。
 また、弁護団長の郷原信郎弁護士は「予想外であり、到底承服できない判決で大変、驚いている。全く許しがたい判決で、直ちに最高裁判所に上告する手続きをとりたい」とした。
(出典 NHKニュース 2016年11月28日)


捜査あり方が問われる
 3月5日、岐阜県美濃加茂市の雨水浄化設備設置事業を巡る贈収賄事件で、業者から30万円を受け取ったとして受託収賄罪などに問われた藤井市長(当時は市議会議員)に対し、名古屋地裁は、無罪の判決を下した。
 一方で、贈賄側の「元社長」は、起訴された藤井市長への贈賄容疑をすべて認め、すでに判決が確定しているという、贈賄側の判決と収賄側の判決が正反対となる異例の事態となった。
  裁判所は、今回の判決で、贈賄を認めた「経営コンサルタント会社社長」の供述について、「信用性に疑問があり、その他の証拠を考慮しても、現金授受があったと認めるには、合理的疑いが残る」と述べた。
 起訴状では、藤井市長は美濃加茂市議だった2013年3~4月、名古屋市の設備会社社長(贈賄、詐欺罪などで実刑判決確定)から、市立学校への浄化設備の導入に協力を依頼され、担当者に検討を促すなどした見返りに現金を受け取ったとされていた。藤井市長の公判は、藤井市長に金を渡したとする社長の供述の信用性が争点となっていたという。
 藤井市長は、28歳で全国最年少の市長として注目を集めた、その市長が2014年6月、受託収賄罪などで逮捕される。現職の市長が逮捕されるのは極めて異例である。8月後、保釈請求が認めら公務に復帰したが、保釈の条件に、前代未聞の「30人の接触禁止」が付けられた。その中に副市長も含まれており、市議会では、市長と副市長は、5メートルも離れて座っていたという。
 そして無罪判決。警察や検察の捜査のあり方や姿勢が厳しく問われてしかるべきだ。

焦点の「現金接受の信用性問題へのメディアの報道姿勢
この判決について、各メディアは、各社とも大きく扱って報道し、解説を加えた。
 報道内容は、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、NHKニュース、報道ステーション、ニュース23ともほぼ同様の問題点の指摘をしていた。
 第一点は、裁判で争われた「現金接受」の信用性の問題点である。
 贈収賄事件は、一般に、物証がほとんどなく、立証が難しい。
 今回の裁判では、「現金接受」が本当にあったのかどうかが焦点になった。
 「現金接受」については、「会社社長」の供述のみで、「物的証拠」はない。しかし、肝心の供述が曖昧で、当初は、現金を渡したのは、藤井市長と2人だけの会食の場と供述。しかしその後は3人だったと変更した。また現金を渡した回数も2回に変わり、1回目については、「よく覚えていない」とした。また検察側は、「会社社長」の金融機関の出入金記録や、藤井市長とのメールのやりとりなども証拠として提出し、十分、供述は信用できるとした。
 しかし判決では、供述の信用性について、「賄賂と認識して現金を渡す行為は非日常的で強く印象に残るはずなのに、曖昧だったのは不自然」と指摘。「供述は変遷していると言わざるをえない」としている。
 また、法廷で、捜査段階で供述が変遷した理由を聞かれると、会社社長は「当初ははっきり覚えていなかった。警察の取り調べでメールや資料を見せられて思い出す作業をした」と証言した。
 この点について、各メディアの記事とも、曖昧な「供述」に頼り、合理的な説明ができなかった検察の対応を問題視していた。

 しかし、各社の記事やニュースを見ても、「会社社長」の「現金接受」に係る供述がどのようになされて、どのように二転、三転していったのか良く分からない。公判を継続的に取材していた記者は分かっているだとうが、読者や視聴者には理解できないだろう。この判決の重要なポイントだけに丁寧な解説が必要と思われる。
 
 その中に、筆者が評価したいのは、日本テレビのいわゆるワイドショー「スッキリ!」である。しっかり、約25分もの時間を割いて、この判決の内容を、ゲストの弁護士と共に分かりやすく伝えた。
 この番組を見て、「現金接受」に関する「会社社長」の信用性がいかに無いかが良く分かった。
 「スッキリ!」によると、「会社社長」当初、「賄賂を渡したのは一度」としていたが、「二度に分けて渡した」と証言を変えた。また「現場にいたのは『会社社長』と藤井市長の二人」としていたが、「同席者がいて3人」に変えた。さらに「現金接受」は、「同席者」が席を外した時に行ったとしたが、「同席者」は「一回も席を離れていなかった」と証言した。
 筆者は、ワイドショーも最近、よく視聴する。かつてのワイドショーは、芸能ネタばかりだったという印象が強い。しかし、ここ数年は、ニュースを、ニュース番組も顔負けにしっかり報道する。最近では、川崎・中学生殺害事件だ。ワイドショー的な演出は、ニュース番組より、分かり易さと見やすさを視聴者に与えている。時折、放送倫理上脱線もないわけではないが、その親しみやすさも求める「貪欲な」姿勢は、筆者は大いに評価したい。二回も三回も読み直さないと理解できない新聞記事はその発想を学ぶ必要があるのではないか。

「会社会長」の「虚偽の供述」をした動機をどう見るか
 第二点は、「会社会長」の「虚偽の供述」をした動機である
 「会社社長」は贈賄の供述を始めた昨年3月、1000万円の融資詐欺事件で起訴され、余罪についても追及されていた。判決では、この事件での余罪の立件を免れるため、中林受刑者が虚偽の供述をした可能性も指摘した。「捜査機関の関心を他の重大な事件に向けようとして、虚偽供述した可能性は十分考えられる」と結論付けている。
 テレビ朝日の報道ステーションでは、「事実上の司法取引的なこともあって」こういう流れができたのかどうか」の「会社社長」と検察との間で何らかの「取引」があった懸念を古館キャスターが指摘している。「会社社長」と検察の間でどんな話があったのか、なかったのかは、国民は知る由もない。
 また産経新聞(3月6日付け朝刊)は、「見立てから引き返す勇気」の教訓を見つめ直せ」という見出しで、「捜査当局は今一度、虚心坦懐(たんかい)に自らの捜査手法を見つめ直す必要もあるのではないか」と論評している。
 この裁判が極めて「異常」な展開を見せている以上、裏でなにがあったか、なかったか知りたいと思うのは筆者だけではないと思う。厚生労働省元局長の郵便不正事件への無罪判決やそれにからむフロッピーディスク(FD)改ざん事件、東電社員殺害再審無罪判決など、検察の姿勢がここ数年、問題化している中で、新聞、テレビ、雑誌等メディアはこの問題をしっかり検証し続ける必要があるのではないか。

「政治倫理」の観点から検証を
 贈収賄の立件要素には、「請託」、「賄賂の接受」、「職務権限」である。
 この内、「賄賂の接受」についてだけが、裁判で争われた。
 しかし、もう一つ大きな問題、「請託」については、まったく報道されていない。
 筆者には、「請託」があったのか、あったとすればどんな内容か、それを裁判所はどう判断したのか伝えていない。
朝日新聞には、「(会社社長が)『何でもご遠慮なく相談下さい』と送ったメールは『さまざま解釈ができる』」という記述があるが、判決で「請託」に関してどう判断したか分からない。
 仮に「請託」があったことが認定されたとすれば、藤井市長の政治責任は厳しく問われるべきではないか。「現金接受」があろうがなかろうが、公共事業を巡って「請託」があった相手の「会社社長」とレストランで飲食し、これに関連した会話をしたとすれば、政治家として余りにも軽率である。単に「陳情」を聞いたと釈明するのだろうか。
 この問題は、贈収賄事件として立件できたたかどうかと別問題である。藤井市長は、美濃加茂市のトップ、政治倫理を率先して守らなければならい一人である。「無罪」判決で喜んでいる場合ではない。
 この判決の報道を巡って、藤井市長の政治責任に言及した記事は見当たらない。
 司法の問題だけに収斂したメディアの報道姿勢にも問題があるのではないか。



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2015年3月6日(2017年1月30日改訂)
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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
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