夢と現実のおとぼけバラエティー

実際に夢で見た内容を載せています。それと落語や漫才・コント・川柳・コラムなどで世相を風刺したりしています。

創作落語『手抜き屋』

2019-10-10 16:02:53 | 夢と現実のおとぼけバラエティー


      

   テン・テン・テケ・ツク・テン・シャン・テン・の・スッ・テケ・テン・・・


            『手抜き屋』


       え〜、寄席と申します処(ところ)は、
        まことに結構な処でございます。
       世間のわずらわしさから解放されて、
   ばかばかしい噺で笑って気疲れを解(ほぐ)したところで、
       ついでに肩や腰の凝りも解そう・・。
      なんて要領のよろしいお客さまも
       いらっしゃいますようで・・。
   せっかくお越し頂いたお客さまにご満足頂くことが、
      わたくし共の連体責任でございます。
     手抜きをするなぞと大それた考えを
      起こすわけには参りません。
    晩飯のオカズに直ぐ影響してしまいます。


近頃は、あちらと云わずこちらと云わず
「手抜き」インフルエンザが日本中で
大流行しておりますようで・・。
これに効くワクチンは無い・・、と
保健所が音(ね)を上げております。
親は、こどもの躾(しつ)けを手抜き・・。
小中学校は、いじめの対応に手抜き・・。
大学は、入試問題の作成に手抜き・・。
警察は、住民からの苦情・相談に手抜き・・。
裁判所は、被害者の心情を汲むことに手抜き・・。
原子力施設は、いろいろと手抜き・・。
病院は、診療や手術に手抜き・・。
マンションの建設業者は、工事に手抜き・・。
電力会社は、設備の点検を手抜き・・。
大銀行や大手企業でも、経営に手抜き・・。
政治屋は、問題先送り一辺倒で、これまた手抜き・・。
収賄に励んで、私腹を肥やしております・・。
官僚は、国民への奉仕を手抜き・・。
横領に励んで、私腹を肥やしております・・。
近頃の日本人は「手抜き」への誘惑に克てない
ようでございます。
江戸の昔の人情も同じでございます。




なまけもので評判の長家の熊公が、
めずらしく何か考えごとォしてます。




八  「おう、何ィ考えてんでェ・・?」


熊  「いや、なンも考えてねぇ・・」


八  「隠したって、顔に描いてあらァ。
    おめぇだって考えごとぐれぇしたって、
    べつに罰ィ当らねェだろう」


熊  「じつはナ・・」


八  「おう、・・」


熊  「手抜きィして儲かる商売ねぇかナ?」


八  「ははは・・、そんなこったろうと思ったぜ」


熊  「ほれ、笑ったじゃねぇか」


八  「いや、これは、もののはずみだ。
    そんなことなら、蔵前に住んでるってェ、
    おめぇの叔父きに相談したらどうでェ。
    なんでも、目ざといオヤジだってェ評判だそうじゃねェか・・」


熊  「蔵前のオジキかい?
    しばらくご無沙汰してるからナ。
    敷き居が高ぇなぁ・・」




   ・・とは云いながら、やっぱり聞いてみても損じゃねェだろうって、
   オジキの家ェやって来まして・・、




熊   「え〜、オジキどの。」
     こんち、御機嫌うるわしく・・」


叔父  「なにが、ご機嫌うるわしくだ。
     なんでェ、しばらく顔オ見せなかったじゃあねぇか。
     きょうはなんの用だ・・?」


熊   「え〜、オジキどの。
     じつは、手抜きして儲かる商べぇを教わりてぇ・」


叔父  「なンでェ、やぶからぼうに。手抜きィしてぇだと?
     それがお前ェの悪い性分だな。なにかってぇと楽をしようってェ魂胆だ。
     ちいっとも治ってねぇな。世の中にゃあ、そんな旨い商べぇはねェ!!」


熊   「でも、オジキ。世の中にゃ手抜きして旨い汁吸ってるヤツって、
     けっこう居るんじゃねぇですかい?」


叔父  「いっときは、それでいい思いをするだろうが、後が続かねェ。
     末路(まつろ)は哀れだナ・・」


熊   「その、いっときでもいいから、いい思いをしてぇんで・・。
     末路はあきらめますんで・・、へぇ」


叔父  「そこまで云うんなら、しかたねェな。
     じゃあ、『手抜き屋』ってぇ商べぇを始めてみるか?」


熊   「ボワッははははははは・・。
     オジキは冗談屋だぁ」


叔父  「いやいや、これは珍しい商売だって評判になり、
     江戸中から物好きな客が集まる・・」


客  「おう ! 手抜き屋 ! 珍しい名前の商売だな? どんなことをやるんでぇ?」


手  「へぇ、手抜きできることなら、どんなことでも手抜きしやす。・・へぇ」


客  「そうか、では、おれの家ン中は、先祖代々300年も掃除してねぇんだ。
    早速やってくれィ」


手  「へぃ、ガッテン。終わりやした」


客  「なに? もう終わったのか?」


手  「へぃ、全部手抜きしやしたんで・・。お代は300年だから三百文」


叔父 「どうだ」


熊  「へぇ・・、そんなにうまく行きやすかねぇ・・?」


叔父 「いやなら、無理には勧めねぇぞ・・」


熊  「いえ、決していやではねぇんで・・。
    ただ、聞いたこともねぇ商べぇでげすから・・?
    まあ、なんだか面白そうだし・・・、よおしっ、
    おいらも江戸っ子だぁ。
    ものは試しで、一丁やってみるか・・」




  ・・・というわけで熊さん、期待に胸を踊らせて長家に戻って来ました。




熊 「叔父キも、面白ぇこと考えるねぇ・・。
   『手抜き屋』だってぇの・・。
   だけど、そんな物好きな客って居るのかねぇ・・?
   まあ江戸は広ぇからなぁ・・、変わった奴も居るかもしれねぇな。
   え〜と、どこに店を出そうかな?・・と」


八 「おう、どォしてェ!
   なにをぼけっとしてやんでェ?」


熊 「このやろう、間抜けな面しゃがって、いいか・・、驚くなよ」


八 「なにを・・。てめぇの言うことにいちいち驚いてた日にゃァ、
   朝から晩まで驚いてなきゃなんねェや」


熊 「じつはな・・、おれは商べえを始めるんでぇ」


八 「プーッ。なんか叔父キから聞いて来たか?」


熊 「うっひっひっひ・・」


八 「なんでぇ? 気持ち悪い笑い方するんじゃねぇ!」


熊 「おいらに合ってる商べえってのが、見つかった」


八 「信じられねェな。
   この世の中に、おめぇにできる商べえなんてあるわけねぇだろ」


熊 「それが・・、あった。じつは、手抜き屋の商べえを始めた」


八 「そいつぁ、おめぇにピッタリだなぁ・・」


熊 「・・だろ。ほんで、いま、商べえの段取りを<考えてたとこだ」


八 「同じ長屋のよしみだ、おれも知恵ェ貸してやろうじゃねェか。
   ・・う〜む、この商べえ、元手は要らねェな・・」


熊 「元手は要らねぇか・・」


八 「ああ、要らねェ。・・仕入れも要らねェな・・」


熊 「仕入れも要らねぇか・・」


八 「ああ、要らねェ。・・人手も要らねェ。・・店も要らねェ」


熊 「おう、ちょっと待った。そうなにもかも要らなくしちゃうと心配だ・・」


八 「てやんでェ。それが『手抜き屋』ってぇもんじゃねェか」


熊 「・・ああ、なるほど」


八 「店も要らねェから看板も要らねぇってわけだ!!
   こいつァ、おもしろくなってきゃがった。じゃんじゃん手抜きしようぜぇ。
   ついでにビラも呼び込みも手抜きだァ!!」




・・てんで、全部手抜きしてしまいまして、
日本橋のたもとに、ただ立っているだけ・・という状態の処へ、
叔父キが通り掛かりまして・・。


叔父 「おう、熊じゃねェか。
     どうだい、商べぇの方はうまくいってるか?」
 
熊 「へぇ、・・それが、なンもかも手抜きィして、
   きょうで三日、ここに立ってるんですがね・・
   客が、一人も来ねぇんで・・?」


叔父 「あきれたやつだ。
    お前ぇ、それゃ手抜きじゃなくて、抜けてンだヨ」


熊 「へぇ・・、なんか抜けてましたかい?」


叔父 「そうだ。『間』というもんが抜けてる・・、つまり間抜けだナ」


熊 「へぇ・・、間抜けですかい?」


叔父 「そうだ。かなり念の入った間抜けだナ。
    いいか? 江戸という処は、八百八町、生き馬の目ぇ抜くってェ処だ。
    間抜けなことォやってちゃァ、商べぇはできねェナ。
    手抜き屋ってェのはな、抜け目なく要領よく世渡りをするってェ商べぇだ。
    まあ、お前ぇには向かねェな・・」


熊 「へぇ、・・叔父キ、こんだァ上手くやるから、
   おいらに出来そうな筋書きをこさえてもらいてぇ」


叔父 「まあ、無理だろうナ」


熊 「へぇ、そこンとこォなんとか・・。
   おいら、手抜きの醍醐味(だいごみ)を味わいてぇ・・」


叔父 「まあ、止めたほうがいいだろうナ」


熊 「へぇ、手抜きの醍醐味(だいごみ)・・


叔父 「このやろう、抜けてる割にゃァ、執念だきゃァしぶてェナ。
    じゃあ、これっきりだぞ」


熊 「へぇ、これっきりで・・」


叔父 「いいか、お前ぇ、炭やの下働きの口にありついたとするナ」


熊 「へぇ、ありついたとする・・」


叔父 「で、炭俵二俵を荷車に積んで
    お得意先のウナギやに届ける仕事ォ頼まれたとする・・」


熊 「へぇ、頼まれたとする・・」


叔父 「だが、途中に長いだらだら坂があるとする・・・ナ」


熊 「・・あるとする・・」


叔父 「目指すウナギやァ、この坂ァ登ってしばらく行ったところにあるとする・・」


熊 「・・あるとする・・」


叔父 「だが、この坂は長くてきついとする・・」


熊 「とする・・」


叔父 「端折(はしょ)るな」


熊 「端折るな・・」


叔父 「ここは、手抜きしなきゃァならねぇとこだ」


熊 「とこだ・・」


叔父 「そこで、通りかかった若そうな男に頼むんだ。
    『モシ・・、あっしァちっと腰を痛めちまって、動けねぇありさまなんですが、
    この坂の上じゃァ、得意先の美人(べっぴん)の看板女中が、
    荷の着くのを待ってるんでやすが、あっしァ、このありさま。
    すまねェが、この荷を届けてやってもらえませんでしょうか?』
    ・・ってェ具合だ」


熊 「へぇ、嘘はよくねぇ・・」


叔父 「嘘も方便ってんだ。なあ・・。
    若そうな男ァ、早くも美人の看板女中の方に気が行ってるから、
    二つ返事で引き受けてくれる。
    その間ァ、お前ぇは物陰で昼寝でもしてりゃァいい」


熊 「へぇ、昼寝していいんで・・?」


叔父 「ところが、坂の上にゃァ、そんな女ァ端(はな)から居やしねぇ。
    若そうな男ァ、しばらくキョロキョロしてるが、荷を置いてどっかへ行っちまうだろう。
    ころ合いを見計らって、お前ぇは坂の上ぇ行って、荷を届けて、手間賃をいただく。
    ・・どうだ、うまく手抜きィできただろう」


熊 「なあるほど、・・うまいねぇ」


叔父 「感心してねェで、さァ、行ってやってみな」


熊 「へぇ、こんだぁ、でぇじょうぶ」


熊 「だが、叔父キもよく思いつくねぇ・・。こんだは、炭やの下働きかぁ・・。
   どっかに炭やァねぇかなぁ・・?
   あっ、あったあった。あんなとこにあるある」




熊公が前方に目をこらすってぇと、丸に「炭」の字の看板が目に入ります。
熊公、店先にのそっと入ると・・




熊  「えへん、下働きの口」


炭や 「おい、なんか変な人が来たヨ。え〜、なにかご用で・・?」


熊  「ウナギやに炭を届けてぇ」


炭や 「へぇ〜!? いま、ウナギやさんへ炭を届けようとしてたんですが、よくお判りで・・?
    あぁ、ウナギやさんのお使いの人で・・?」


熊  「いえ・・、普通の人でやす」


炭や 「しかし、よくお判りで・・? いえね、今朝方、うちの手代が腹ァこわして、寝込
    んでしまいやして、
    配達の人手が足りなくて困ってました。
    どなたか存じませんが、丁度よかった。
    ウナギやさんから、矢のような催促でして・・」


熊  「手間賃をもらいてぇ・・」


炭や 「へぇ、もちろん手間賃は差し上げます。
    じゃあ、この炭俵2俵を荷車に積みますから、お願いしますヨッ。
    道はね、そこの角を右へまがってまっつぐ行くと、大川の橋に出ますから、
    橋を渡ってなおもまっつぐ進むと、長いだらだらした坂道にぶつかります。
    その長い坂道を登ってすぐの処にウナギやさんのお店がありますからねッ。
    手間賃は、届けて来たらさしあげますからねッ。
    では、頼みましたヨッ」


熊  「へぇ〜、たまげた。叔父キの筋書き通りだ。話がぴったり合ってるヨ。
    それにしても、荷車ってのはなかなかいうこときかねぇナ・・」




熊さん、あっちへよろよろ、こっちへよろよろ・・千鳥足みたいに荷車ァ引いて行きます。




通行人  「おうおう!! なにヨロヨロ引いてやんでェ!! 危ねぇじゃねェか!!
      荷車引くときゃあな、眼ェ開けて引くもんだァ!!」



・・・なんて、通行人からどやされながらも、大川の橋ィ渡って、
ようやくだらだら坂の下まで辿り着きました。




熊  「いやぁ、あったあった、だらだら坂だヨ。
    叔父キも不思議な人だナ、占い師みてぇだナ・・。
    おっと、こうしちゃあいられねぇ。ここから手抜きが始まるんだったかな。
    なんだかドキドキしてきたナ。え〜と、若い男だったな・・。
    向こうから来たのは・・・、
    なんだ、女と子どもと年寄りかァ・・。あッ、来たきた。
    もし、お若けぇの! 」


若者 「なんでェ?」


熊  「あっしァ痛ぇ・・」


若者 「それが、どうした?」


熊  「坂の上に別嬪が・・」


若者 「なにを言ってやんでェ。こちとら忙しいンでェ!!」


熊  「あれ、行っちまいやがった。気の短けぇやろうだな・・。
    最初だから、ちっと緊くなっちゃったな、へへへ・・。
    落ち着かないといけねェな・・。おッ、こんだァ、おとなしそうなやつだな。
    もし、お若けぇの! 」


若者2 「へぃ、あっしのことですかい?」


熊  「へぇ、ちっと、兄ンさんに頼みが・・」


若者2 「へぃ、どんなご用で?」


熊   「へぇ、あっしは、いまァ炭ィ運んでやす・・」


若者2 「そのようで・・」


熊   「じつァ、・・腰がイテテテッ・・・」


若者2 「そいつァ、無理しねぇで、ひと休みしたらどうです・・」


熊   「へぇ、そうしやす・・。あっ、ちょっと待ったぁ」


若者2 「へぃ、なにか・・?」


熊   「大事(でぇじ)なこと忘れるとこだった。また、叔父キにばかにされる・・。
    間抜けだなんて・・、こんだァでぇじょうぶだ」


若者2 「何がでぇじょうぶで・・?」


熊   「いえ、なんでもねぇ。
    じっァ、坂の上でウナギやの別嬪な女中が待ってるンで・・」


若者2 「へぇ〜、別嬪な女中が・・」


熊   「その女中に、この炭を渡すことになってやして・・」


若者2 「ああ〜、さいですかい。よござんす、あっしが届けてやりやしょう」



・・言い終わらないうちに、若い男は荷車引いて坂ァ登っていきます・・。



熊   「へぇ〜、こりゃあ、ますますおどれぇたなァ!! 
    叔父キの筋書き通りになってきゃがった。
    そうだ、こうしちやぁいられねぇ。昼寝だ昼寝だ・・」



・・熊さん、あわてて物陰に隠れて昼寝を始めました・・
ふつう昼寝なんてものは、せいぜい半時すりゃあ眼がさめるンですが、
熊さんの場合は特別でして、眼がさめた時ァ、暮れ六つどき。
あたりァ、すっかり真っ暗・・。



熊   「あれれれ!! なんだァ、夜になってるぜ!?
     またドジやっちまったかな・・」


・・熊さん、あわてて坂の上へ行ってみましたが、人っ子一人居ませんし、荷車なんかもありません。





熊  「あ〜ぁ、また、やらかした。おいら正真正銘の間抜けだ・・」


・・それから、半月ほどして、しばらく顔ォ出さないんで、
心配した叔父キが、長家に熊さんを訪ねて来まして・・・、



叔父  「おう、しばらく顔ォ見せねぇが、どおした・・?」


熊   「叔父キに会わせる顔がねぇ・・。じは、しかじかこうこう・・」


叔父  「だから、言ったろ。お前ぇには、手抜き屋の仕事は無理だ」


熊   「だけど、どうしても分からねぇ?」


叔父  「何がだ?」


熊   「なんで叔父キの筋書きが、ああもぴたりとハマるんで・・?」


叔父  「あったりめェだ!  ・・おれが、元祖手抜き屋だ」



           お後がよろしいようで・・





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