
そちらのお客さん、あたしの顔ォ見て、もう笑っていらっしゃいますけど、
え〜、まだ、話しァ始まっちゃァおりません・・。
え〜、いまから、始まりますので、・・へぃ。
え〜、どうも世の中にァ、いろいろな癖(くせ)をお持ちの方が
いらっしゃいますようで・・。
むかしから、「無くて七癖、有って四十八癖」とか申しますが、
いまァ、世の中多様化の時代ですから、
「無くて700癖、有って4800癖」ぐらいなんでしょうが、
まあ中にァ、人とモメ事ォ起こしてないと、どおも落ちつかねぇ、なんて
ともかく、ごたごたモメてると楽しいんだそうですな。
そうかと云いますと、覗きが趣味で、穴が開いてると、
どおも覗かないと気がすまない。
手直かに穴が無いときは、猫のケツの穴まで覗いてしまうとか・・、
最近は、ケータイで、なんですな、スカートの下の方角から
写真撮るとか、
それォ、インターネットとかで流すとか、
はた迷惑な癖をお持ちの御仁もいらっしゃいますようで・・。
え〜、落語の世界に出て参ります「裏長家」と申しますのは、
「九尺ニ間に戸が一枚」なぞと云われまして、
間口が九尺、奥行きが二間という、早い話が六畳の広さしかない。
入口を入るってぇと土間になっていまして、
脇に竈(かまど)と台所があるから、
寝起きする処は正味四畳半ってぇことになります。
おまけに建て付けはひどくお粗末に出来ておりまして、
壁は薄い板一枚、節穴もそこかしこに空いているもんですから、
隣の生活は丸見え。プライバシーなんてぇものとは、
まったく無縁な世界でございます。
こういう処に住んでいる連中が、癖だらけの連中ですから、
まあ、たいへんな騒ぎで・・・。
(ワープステーション江戸)
熊 「おう、見ろよ。八の嬶(かか)ァ、けっこうデカパイだなぁ」
嬶あ 「お前さん、覗き見はお止しよ。まるで出歯亀じゃあないか」
熊 「まア、いいじゃあねぇか。こォいう機会は、めったにあるもんじゃァね
ぇ・・・」
嬶あ 「いいかげんにおしッ。ひとの女房のおっぱい見て、どこがいいんだイッ」
熊 「てやんでぇ。なんたって、ひとの女房のデカパイたぁ、
新鮮でいい眺めじゃねぇか」
嬶あ 「デカパイ、デカパイってね、
あんなデカいと赤ん坊が乳飲むとき、息が詰っちまうってもんだよッ 」
熊 「なに、ペチャパイよりゃァ、ましだろう。
ペチャパイだったら、体中探したって、
おっぱいがどこにあるか分らねぇって、
赤ん坊がネをあげらァ・・」
嬶あ 「おや、あたしのこと、ペチャパイだってのかィ?」
熊 「そうじゃねェ、・・世間一般のことだ」
嬶あ 「ふん、うまくごまかしたね。あんなもん、若いうちはいいヨッ。
向こうの横町のお婆さん、若い時はデカパイだったらしいけどね、
いまじゃ、前にぶら下がってるのが邪魔で、湯やに行くと、
えいっと、背中に放り投げてから、前を洗ってるありさまだョッ」
熊 「そォいう景色もまた、見ものだなぁ・・」
嬶あ 「いいかげんにおしッ」
嬶あ 「うちのひとは、まだ帰ってこないのかねぇ、ふんとに・・。
今日は仕事が早く終わるというから、
目指しを買って来て1本付けて待ってるのに・・
ちょっと、表を見てみようかしら・・(ガタガタガタ・・・)
あらら、何だネェ・・、こんな処で人が寝てるヨ! 誰だィ?
なんだィ、うちの宿ろくじゃないの!
ちょィと、お前ィさん、起きなヨッ!
眠かったら、家ん中に入って寝たらいいだろッ!」
留公 「なんでぇ! うるせぇな。おれァ、疲れて帰ぇって来て眠いんだ!
人からごたごた云われる筋合いはねぇッ」
嬶あ 「なにを云ってんだヨッ! 世間体てもんがあるだろッ!
えッ、あすこの亭主は、奇人変人だってね、噂が立つだろッ!
もう、立ってるけど・・」
留公 「なんでぇ、立ってるものなら、そのままでいいじゃあねぇか。
いまさら、横にするこたァねぇ」
嬶あ 「屁(へ)理屈いうんじゃないヨ。
お前ィさんは、どんな噂でも蛙のツラに小便だろうがね、
あたしゃ、どうなるんだィ?
あぁ、あすこの嬶あは、奇人変人の亭主ォ持って、
なんて気の毒なこった・・て、哀れみの眼で見られるんだ」
留公 「べらぼーめェ! 俺だってなァ、好き好んで表で寝てるんじゃねぇや。
こちとらなァ、汗水たらして働れェて帰(け)ぇって来てるんでぇ。
ここまで、へとへとになって戻って来たんでぇ。
やっと着いたんだァ! 何で寝て悪いんだ?」
嬶あ 「まるで、行き倒れの行者みたいなこと云うんじゃないよ!
お前ィさんが寝てた処は、戸口まで、あと一歩かニ歩だろ!
手を伸ばせば戸に届くじゃないか」
留公 「その一歩か二歩でも、辿り着く力が無かったんでぇ。
だいたい、亭主をつかめぇて、奇人変人たァ、なんてこと言やがる。
モ、モラルの低下だァ。
えっ、誰のおかげでお天道様ァ、東から昇って来ると思ってんだ?」
嬶あ 「つべこべ云ってないで、サッさとお入りよ!
いま、お隣の喧嘩が、いいところなんだから、静かにおしッ」

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