原発問題

原発事故によるさまざまな問題、ニュース

第9章 黒い雪 ※10回目の紹介

2015-05-29 23:25:03 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。10回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話第9章 黒い雪 ※9回目の紹介

「奇策ではありますが、この手しかありません」

 この手しかない、という日村の言葉に、もはやすがるしかない。

 明治憲法下での法令の多くは戦後廃止されているが、明治憲法下で有効に成立した法令は、それが廃止されていない限り、日本国憲法下でも有効である。

 官報正誤とは、本来は、出稿した役所による「原稿誤り」か、印刷局のミスである「印刷誤り」かのいずれかとされる。そして、官報正誤の手続きで実際の法規範を変更することは、平時であればもちろん禁じ手・・・しかし、いまは平時ではない。

 異論が誰からも提起されないことを確認して、日村は再度、口を開いた。

「官報正誤と戒厳令を直ちに官報で発して下さい。戒厳令は、あくまで一時的に国民の基本的な権利を制約するものですので、期間と区域を区切って発出することが肝要かと存じます。一都四県を対象に、差し当たり1週間だけ戒厳の宣告を発していただければ、暴徒も沈静化すると存じます。以上であります・・・」

 全員がうなった。ここまでのことをスラスラと述べる日村は、畑山原子力政策課長に法制的な可能性を研究させながら、原発災害による首都圏のパニックという事態を頭のなかでシミレーションしていたということになる。

 上畑内閣法制局長官が慌てて日村の言葉を継いだ。

「官報正誤、大丈夫です。平成16年8月10日に閣議決定した内閣参質160第13号の質問主意書の答弁書において、内閣から国会に対し、次のように回答しております。

『官報正誤とは、法文の「表記上の誤り」、すなわち、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬があることが客観的に明らかであると判断されるものについて、法文の表記を実質的な法規範の内容に則したものに訂正するものであり、実質的な法規範の内容を変更するものではない。憲法上、内閣は、法律の公布について責任を負い(第3条及び第7条第1号)、また、法律を誠実に執行することを職務としている(第73条第1号)ことから、実質的な法規範の内容と法文の表記との間に形式的な齟齬が生じている場合に、法文の表記を速やかに実質的な法規範の内容に則したものに訂正し、それを広く国民に知らせることは、内閣の当然の責務であるということができ、従来から官報正誤によってこれを行うことが慣例条認められてきているところである』

 したがいまして、現下の状況に鑑みますれば、戒厳令が実質的な法規範の内容になっている、という判断で、官報正誤を行うべきと考えます」

 議論の潮目を見て、いち早くその流れに乗る。上畑が、法制局長官の政治任用という荒波を乗り越えて、その地位に辿りついた所以であった。

第9章 黒い雪」の紹介は、今回で終わります。

引き続き第10章 政治家と官僚のエクソダス」の紹介を始めます。6/122:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第9章 黒い雪 ※9回目の紹介

2015-05-28 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。9回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話第9章 黒い雪 ※8回目の紹介

 官房長官は、再度、そう恫喝する。その横で、総理が突然立ち上がった。

「だから、戦後70年の節目の年に、日本国憲法を改正して、自主憲法としておかなければならなかったんです!」

 大声とは似つかわしくない、うつろな視線を泳がせている。明らかに情緒不安定だ。

 こういう国家存亡の危機のときにこそ、本当は、政権のリーダーの鼎の軽重が問われるのである。

 放っておくと国民の生命の安全など基本的な権利が脅かされる緊急事態を前にし、平時の法体系では国民の権利が守れない場合、政府が国民に代わってその権利を守るため緊急措置を実施する・・・これは、憲法に明記されていなくとも、憲法に内在する国家の権利であり、義務とも考えられるのではないかー。

 バックシートから発言する者がいた。

 資源エネルギー庁次長の日村だった。

「私、一計を案じております・・・」

 経産大臣がこの場にいない以上、日村がこの総理執務室に潜り込んでいること自体、本来の霞が関の秩序からして奇異ではあるが、原発事故の流れからすれば、そう不自然なことではなかった。

 総理の表情が急に明るくなった。

「ひっ、日村次長、いってみろ!」

 再度、躁状態に急転した総理が、発言を促す。

「戒厳令を復活させるのです」

 ・・・全員、絶句である。しかし、日村の発言のその先を聞かなければ、良いも悪いもいえない。日村は続けた。

「戒厳令は、内閣制度が始まる前の明治15年太政治官布告36号で定められています。これは、戦後のGHQ占領下でのポツダム命令の一環で発せられた昭和22年政令第52号で廃止されています。廃止政令が昭和22年5月17日の官報に掲載されておりますが、この官報正誤の手続きをして、廃止の対象から外せばよろしいか、と・・・」

 みなが息を呑んだ。危機管理など考えたことのない平和ボケの政治家や役人には、日村の案にどう反応していいか、わからない。日村が腹心の原子力政策課長の畑山に、徹夜で研究させた案であった。

続き第9章 黒い雪」は、5/2922:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第9章 黒い雪 ※8回目の紹介

2015-05-27 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。8回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話第9章 黒い雪 ※7回目の紹介

 官邸のオペレーションルームでは、爆発が起きた原発災害を指揮するよりも、むしろ首都圏のパニック鎮圧の方策に、力点が移っていた。

 戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構をもって対処することが困難な非常事態には、国家の存立を維持するために、国家権力が憲法秩序を一時停止して、非常措置をとることが必要だ。この非常措置をとる権限が、国家緊急権として、諸外国の一部では憲法に明記されている。

 しかし日本の場合、国家緊急権は、現行日本国憲法のもとでは規定されていない。災害対策基本法や武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律などで、非常事態に公共の福祉の観点から、合理的な範囲内で国民の権利を制限し義務を課する規定が、個別に定められているだけだ。

 たとえば災害対策基本法第109条第一項には、災害緊急事態に際して必要がある場合で、国会が閉会中であり、かつ臨時国会の召集を待ついとまがないときには、生活必需物資の配給、価格の決定、金銭債務の支払いの延期等を政令で定めることができる、そう規定されている。

 しかしパニックの現実を前にしては、このような個別の規定は、まったく無力なものであった。平常時の想像力では予期できない出来事、それが次々起こるのが、まさに国家存亡の危機なのである。

(34)
 
 総理執務室に、官房長官、内閣危機管理監、警察庁長官、防衛大臣が集まり、一同はソファに座っていた。内閣法制局長官も呼び込まれた。バックシートには、関係省庁の官僚が控えている。

 「知恵を出せ、知恵を・・・とにかく、パニックの群衆をいったん押さえつけるんだ。使えるものは何でもいいから、押さえつけんといかん」

 官房長官が上畑秀介内閣法制局長官を睨み付ける。

 傍らで加部総理は、格納容器爆発直後の躁状態から一転、暗い顔で塞ぎ込んでいる。何をどうしていいかわからないのだ。

 「現行憲法のもとでは、いかんともしようがなく、超法規的措置として、何か命令を総理が発せられるのであれば、それは私ども法制局の関知するところではなく・・・」

 と法制局長官は口ごもる。

 「だから、知恵を出せと言っているんだ! 超法規的措置なんていったって、ダッカのハイジャック事件じゃあるまいし。法制局がリスクをヘッジするな、法制的なリスクを総理に負わせるんじゃない・・・法制局長官が考えるんだ、何のための法制局なんだ!」

続き第9章 黒い雪」は、5/2822:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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第9章 黒い雪 ※7回目の紹介

2015-05-26 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。7回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話第9章 黒い雪 ※6回目の紹介

 「駅に通してください。切符は予約しているんですっ」

 妊娠した若い妻を連れサングラスをかけたイマドキ風の若者が、殺気立った目をして突進してくる。モンクレールのダウンジャケットを着て、それなりに裕福な身なりだった。

 「構内は危険ですから、いまはやめてください。しばらくここでお待ちください」

 「ウルセー、うぜーんだよ、兵隊さん!」

 その若者が、スタンガンを使った。火花が散り、たまらず自衛隊員はうずくまる。

 「どけ、どけ、どけ、おら、おら、通さんかい、おら!」

 興奮した若者は、スタンガンをカチカチ鳴らしながら、自衛隊員のなかを突進して、次々と隊員を襲う。

 暴徒と化した住民に対して銃口を向けることが正義なのかどうなのかーしかし、警察官職務執行法に基づく緊急避難の要件を満たすことは明らかだった。

 バキューンという音とともに、八九式小銃の最初の弾が、若者の太ももを貫通した。しかし、次の弾は妊婦のおなかを直撃してしまった。

 若い2人はそのまま床に倒れこむ・・・自衛隊が一般市民に銃口を向けた最初の出来事だ。井桁原子力規制庁長官が陛下に述べた懸念が的中した。

 「うぉーっ、自衛官が発砲したぞ、逃げろ!」

 群衆が、今度は駅の出口を目指して逃げ惑う。つまずいて転んだ群衆の上を、遠慮も何もなく、うしろから来た群衆が踏みつけていく。

 入口の自衛官の前にスペースができたら、また斜めから群衆が殺到してくる。流血して倒れ込んだ2人の救助をする前に、群衆が2人を踏みつけていく・・。

 このように、首都圏の主要な駅や交通の要所の至る所で、正にパニックが発生していた。パニックを抑えるためには、一時的に軍に全権を掌握させること、いわゆる戒厳令を発することが世界の常識である。

続き第9章 黒い雪」は、5/2722:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第9章 黒い雪 ※6回目の紹介

2015-05-25 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。6回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話第9章 黒い雪 ※5回目の紹介

(33)
 翌1月3日朝、大晦日以来続いていた関東地方の雪は、ようやくやんだ。

 新崎原発は、2度の格納容器の爆発で、吹き出すものは噴き出し、一時の小康を保っていた。コンクリート建屋基礎にめり込んだデブリと、吹き飛ばされずにプールの底部にとどまった使用済み核燃料、これらが溶け出して地下水に到達すると、再度水蒸気爆発が起こることが予想されていた。

 しかし、大半のデブリと使用済み核燃料は、既に爆発とともに、大気中に放出されてしまっていたのだ・・・。

 あとにはスラリーを流し込む作業が残っていた。が、ニイザキ・フィフティーズたちは、所長代理を含め、連絡が取れなくなっていた。

 その新崎県の沿道には、原発とは反対の方向に向かった避難民の多くが行き倒れていた。嘔吐で息を詰まらせ、顔には紫斑が残されている。脱毛してしまっている者も多い。新崎原発の周囲30キロが、70年前のヒロシマやナガサキの爆心地から半径1キロと、同じような状況になっていたのである。

 新崎原発からオフサイトセンターに退避してきた約1000人の関東電力社員と出入りの業者も、線量の関係から、おそらくもう原発の鎮圧には使えなくなっていた。


 東京では、昨日は屋内退避していた多くの群衆が、東京駅、上野駅、品川駅、羽田空港、成田空港に押し寄せた。高速道路の入り口はすべて封鎖された。これ以上、群衆が集まることは、誰の目から見ても危険だった。至るところでパニックが発生し、一部の群衆が暴徒化していた。

 それぞれの駅の入口では、機動隊が整列して群衆を整理、誘導した。しかし、豪雪のあとの東京は線量がかなり高く、思うように動けず避難できないがため、群衆にはイライラが募っていた。

 午前10時過ぎには、動員された機動隊の人数をはるかに上回る10万人の群衆が、東京駅を取り囲んでいた。もう機動隊では防ぎきれないことが明らかだった。

 総理は、自衛隊に、自衛隊法第78条に基づく治安出動を求めた。

 自衛隊は、災害出動ならば、武力行使もできないし、警察官職務執行法の権限も行使できない。しかし治安出動であれば、自衛隊法第89条に基づき、警察官職務執行法の準用による緊急避難はできる。

 外国の通常の軍隊であれば、法律上できないことだけをネガティブリストで軍法に書いている。すなわち書かれていないことは、目的遂行のため原則的にできるということだ。原則は、軍隊は何でもできるという建前なのだ。

 しかし、我が国の自衛隊は軍隊ではないという建前だから、自衛隊法には、自衛隊が法律上できることしか書いていない・・・。

続き第9章 黒い雪」は、5/2622:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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第9章 黒い雪 ※5回目の紹介

2015-05-22 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

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作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

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「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


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救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
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前回の話第9章 黒い雪 ※4回目の紹介

「これ以上、暴れると、公務執行妨害と威力業務妨害の現行犯で、逮捕するぞ!」

 そう恫喝している。乗客のみならず、鉄道警察隊の面々も苛立っているのだ。

 定刻を10分過ぎた22時10分、厳重な警備態勢のもとで、サンライズ瀬戸、サンライズ出雲が、東京駅のホームを出発した。乗車定員100%の満席である。

「当列車は、ただいま10分遅れで東京駅を出発いたしました。出発直前、ホーム及び車内が混在しましたことをお詫び申し上げます」

 車内アナウンスが流れる・・・指定券で乗車していたのは、大半が、出張予定の男性サラリーマンと鉄道マニアであった。

 東京では、自家用車で脱出するという選択肢はない、実際、東日本大震災に際しては、深夜1時になっても、たとえば西に向かう目白通り、新目白通り、早稲田通りでは、車がピクリとも動かない大渋滞が発生していた。

 あのときは、放射能の危険はなかった。しかし、今回は違う・・・。

 そのため、乗りそびれた女性や子連れの集団は、22時52分発の東海道本線熱海行のホームに殺到していた。これに乗れば、午前0時42分に熱海に到着し、そしてホームで一夜を明かせば、早朝の午前5時32分発浜松行に乗って、午前7時46分には掛川に辿り着ける。そうすれば、明日も西へ西へと、生き延びられるはずだ・・・。


 羽田空港でも同様の騒ぎが起きていた。

 午前0時5分発サンフランシスコ行の日本航空、午前0時5分発シンガポール行の日本航空、午前0時5分発ロサンゼルス行の全日空、午前0時10分ロサンゼルス行のデルタ航空、午前0時20分発バンコク行のタイ国際空港、午前0時25分発バンコク行きの全日空、午前0時30分発シアトル行きのデルタ航空、午前0時30分発ドバイ行のエミレーツ航空、午前0時30分発ジャカルタ行のガルーダ・インドネシア航空、午前0時40分発バンコク行の日本航空、午前0時55分発フランクフルト行の全日空、午前1時発ドーハ行のカタール航空、午前1時25分発ホーチミン行の日本航空・・・すべてが満席となっていた。

 空港のカウンターは黒山の人だかりで、みな翌朝の便を必死で確保しようとしている。乗客の整理のため航空警察署の署員が総出で対応しているが、割り込みや場所取りが原因で、喧嘩がいたるところで起きている。人間は追い詰められると、礼儀を忘れ、生存本能が剥き出しになるのだ。

 ところが24時間以上前、官房長官の2回目の記者会見を前に、朝イチで動いた日村を始めとした完了の家族、小口を始めとした政治家の家族、そして小島を始めとした電力会社の家族で、羽田も成田も、ひとしきり混雑が起こっていたのだ。

 しかし、みな早めのチケットの確保で、スムーズに出国することができていた。これが国家権力に近いものだけに許された、プラチナ・チケットの本質であった。

続き第9章 黒い雪」は、5/2522:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第9章 黒い雪 ※4回目の紹介

2015-05-21 22:01:33 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。4回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

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救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
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前回の話第9章 黒い雪 ※3回目の紹介

(32)

 ツイッターでは、いろいろな情報が断片的に駆け巡っていた。

「黒い雪が降る前に、関東脱出しなきゃ、妊婦は確実に流産」

「東北自動車道で北に向かうか、東名高速で西に向かうか。両方高速入口で270分の渋滞」

「安定ヨウ素剤の代用で、昆布を煮出して飲んでみて。イソジンも、飲まないより飲んだほうがいいよ」

「イソジンは含有量が少なすぎて意味ない」

「NHKは、パニック防止のために、屋内退避を勧めている。雪が降る前に逃げよう」

「最後の東京発の寝台は22時。高松行と出雲行」

「最後の羽田発はホーチミン行、午前1時25分」

 東京駅には、妊婦や乳幼児を抱える女性が殺到していた。しかし指定席券は、とうに売り切れている。

「自由席でも、立ち席でも、何でもいいんですっ、通路に座ってるだけでいいんですっ」

 涙ながらに駅員に陳情している抱っこ紐をした母親の隣で、どんどん妊婦や母親たちがサンライズ瀬戸やサンライズ出雲に乗り込んでいく。生き延びるためには実力行使をするしかないのだ。泣いて列車の扉にしがみつけば、何とかなるだろう。

 定刻の午後10時前になると、朝の田園都市線のように、列車の扉が閉じないぐらいパンパンに乗客が乗り込み、さらにその周りに黒山の人だかりが押し寄せていた。

 JR東日本は、もともと国営鉄道会社だけであって、お役所以上に官僚的で、女性の気持ちを理解する柔軟性に欠けている。

「申し訳ございません。22時発のサンライズ瀬戸、サンライズ出雲とも、全席指定席となっております。自由席の販売はいたしておりません。指定席の券をお持ちではない方は、速やかに降車願います」

 東日本大震災のときには、いち早く駅舎を閉鎖して避難民を追い出した会社だ。こんな台詞は、この会社の社員の心に、何の痛痒ももたらさない。あの日、たとえば西武鉄道などの純民間企業は、深夜に運行を再開した。しかし山手線すら運行再開しなかったJR東日本は、その後長く、インフラ企業としての公共性を問われた。

 そのJR東日本が要請したのか、鉄道警察隊が動員された。すると鉄道警察隊は、ホームに溢れかえる群衆を、機動隊が用いる盾を使って整理していく。各車両にも鉄道警察隊が乗り込み、一人ひとり券を改めて降車させていく。泣き叫んで乗車ドアにしがみつく臨月の妊婦を、両脇から鉄道警察隊員が押さえ、引きはがしていく。

続き第9章 黒い雪」は、5/2222:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第9章 黒い雪 ※3回目の紹介

2015-05-20 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。3回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話第9章 黒い雪 ※2回目の紹介

 悲惨なのは、いまだ停電が復旧しない関東平野の50万世帯だった。停電でテレビを見ることのできない家庭には、放射線プルームの危険性が伝わらない。

 榛名山から関東平野に向けてなだらかな扇状地が続く場所、冬の「からっ風」と呼ばれる強い北風で有名な群馬県高崎市では、幼い兄妹が久々の雪に歓声を上げていた。

「お兄ちゃん、雪が降ってきたよ!」

「本当だ。テレビもまだ点かないし、ゲームの電源も切れているから、庭で遊ぼうよ」

「雪だるまつくろう、雪だるま」

「そうだね、雪だるまつくろう!」

 いち早く雪が降り始めた群馬県は、小口前経済産業大臣の選挙区でもある。しかし、小口の家族は全員、東京に住んでいる。しかも、既に国外退避が完了しているが、小口の選挙民には、停電のためNHKからの情報すら伝わっていない。

 この子たちの両親は、家にいてもつまらないといって、近所にできた戦艦のような大型ショッピングモールの初売りに出かけている。民自党の幹部の兄弟が経営する、日本最大の小売チェンのモールだ。

 そのショッピングモールが立っている場所は、つい最近まで農地として守られ、ゆえに所有者はほとんど税金を払ってこなかった。しかし、なぜか農業委員会は、その小売チェーンに、あっさりとモールの造成を認めた・・・しかもこの大型ショッピングモールでは、電力の供給がなくとも、自家発電ですべてが動いているようだ。

 日本には、かくも様々な「モンスター・システム」が存在する。そんなことすら知らない幼子の両親は、まさか新崎原発から三国山脈を越えて100キロメートル以上先にあるこの地に、放射能被害が及ぶとは、思いもしていない。

 その両親が留守のあいだ、子ども2人は、庭で思う存分に遊んでいる。

「今年の雪は、ずいぶんと黒っぽいね、お兄ちゃん」

「そうだね、ちょっと黒砂糖みたいな色だね」

「ちょっと舐めてみようか、もしかしたら甘いかも・・」

「うん」

 兄と妹は口に雪を入れた。しかし、予想に反して、金属と酸の入り混じった味がする。

「・・・おいしくないね」

 ペッ、ペッ、と2人はすぐに吐き出した。

「お兄ちゃんの舌、真っ黒だよ」

「お前もだよ、ハハハ・・・」

「本当?」

 2人はお互いの黒い舌を見て笑い転げながら、雪だるまづくりに勤しんだ。

 数時間後、黒い雪だるまが完成する頃に、急性放射性障害で毛髪が抜け始めることを、この2人はまだ知らない。両親が帰宅するときには、子供の髪の毛は、ほとんど抜けてしまっているだろう。

続き第9章 黒い雪」は、5/2122:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第9章 黒い雪 ※2回目の紹介

2015-05-19 22:04:16 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。2回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

前回の話:第9章 黒い雪 ※1回目の紹介

 政府により渋々公表されたSPEEDIのシミュレーションでは、新崎平野から三国山脈を超えて、関東平野全体が、ちょうどフクシマのときの飯舘村のように、すっぽりと赤いエリアで覆われている。ただし、フクシマの事故のときと比べ、放出されたと推定される核燃料の分量が、1000倍以上も多い。

 ー チェルノブイリを超える、人類史上最悪のカタストロフィだ。

 豪雪が、群馬県と埼玉県を集中的に襲っていた。どんよりとした放射性プルームが、SPEEDIの予想通り、三国山脈を越えて群馬県、そして埼玉県に襲い掛かる。

 1月2日午後のテレビ放送では、全チャンネルが、表面的な変化のない新崎原発の映像ではなく、SPEEDIの予測と放射性プルームの動きを集中的に伝えていた。

「現在、群馬県と埼玉県北部で、激しい雪が降っています。解説委員の水梺さん、どのような点に気をつけたらいいでしょうか」

 若い男性のアナウンサーが、NHKでは唯一、原子力ムラの御用解説委員ではない、水梺解説委員に解説を求めた。

「・・・はい、いま関東地方北部に降っている雪は、多量の放射性物質を含んでいますので、絶対に外出しないようにしてください。万一雪に打たれた場合には、よく中性洗剤で洗い流してください。口に入れたり、舐めたりすることは絶対にやめてください。どうしても外出しなければならないときには、眼にはゴーグルをして、口と鼻に密閉性のあるマスクをかけるか、タオルを強く押し当てて行動してください。

 屋内退避の場合には、家の換気扇は絶対に回さないようにしてください。エアコンも極力止めて下さい。外気を吸い入れると、放射性物質を含むマイクロメートル単位の粉塵が室内に流入する可能性があります。肺に吸い込むと、内部被曝が続き、がんや白血病の危険がありますので、くれぐれもご注意ください」

 水梺の解説は、冷静に厳しい現実を物語っていた。

「水梺さん、ありがとうございます。それでは、これからの雪と雲の動きについて、気象予報士の斎藤さん、伝えてください」

 気象予報士の斎藤は、水梺と違い、上気した顔にうっすらと汗を浮かべていた。専門家だけに、いますぐ逃げ出したい、と感じているようだ。

「・・・は、はい、これからの雪と雲の動きについてお伝えします。か、関東平野では、大陸から流れてきた上空の寒気により、ところどころで激しい雪が降っています。これから雲は、関東北部から徐々に、数時間かけて関東の南沿岸部付近まで移動する見込みで、それに伴って、関東南部でも強く降る見込みです。

 特に、東京都、神奈川県にお住まいの方は、これから激しく雪が降る恐れがありますので、く、くれぐれも気を付けてください。いわゆる里雪のような降り方が予想されます・・・」

 アナウンサーの表情も、いまは凍り付いている。

「ありがとうございます・・・これから豪雪が予想される関東南部、特に、東京都、神奈川県にお住まいの方は、外出は絶対に避け、換気扇やエアコンを止め、外気を吸い込まないようにご注意ください。

 どうしても外出しなければならない場合にも、マスクやタオルで口を鼻を覆い、外気を直接吸い込まないようにしてください。雪に降られた場合には、速やかに中性洗剤で洗い流してください」

 アナウンサーはそれでも努めて平静を装っている。しかしその心の内、すなわち、すぐにでもNHK放送センターから逃げ出したいという様子が手に取るようにわかるため、それが視聴者の恐怖心を煽った。

続き第9章 黒い雪」は、5/20(水)22:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

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第9章 黒い雪 ※1回目の紹介

2015-05-18 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第9章 黒い雪を複数回に分け紹介します。1回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第9章 黒い雪」の紹介

第9章 黒い雪

 AFPBB NEWS(2014年10月10日)

「トナカイ肉の放射能濃度が急上昇、ノルウェー」

 旧ソ連のチェルノブイリ原発で大事故が発生してからほぼ30年が経過したが、数千キロ離れたノルウェーでは最近、トナカイの肉に含まれる放射能濃度が急上昇し、食肉として消費するのは不適格となっている。同国政府機関が9日、明らかにした。

 ノルウェー中部では今年、原発事故で大気中に放出された放射性同位元素のセシウム137のトナカイの肉に含まれる濃度が1キロ当たり最大8200ベクレルに達した。同地域は1986年の原発事故で発生した「放射性プルーム(放射性雲)」により甚大な影響を受けた。

 ノルウェー放射線防護機関の研究者、インガー・マルグレーテ・アイケルマン氏は、AFPの取材に「これは、トナカイの食肉処理を行える上限値をはるかに上回っている」と語った。

 2年前にトナカイの肉に含まれていたセシウム137の平均値は1500~2500ベクレル。同国の許容限界値は3000ベクレルに設定されている。結果、毎年9月末に伝統的に行われているトナカイ数百頭の食肉処理が実施されることはなかった。

 放射能濃度が上昇に転じた原因は、今年の夏の暖かく、湿気の多い気候が、「シュウゲンジ」というキノコの成長を促進させたことにある。ショウゲンジは、トナカイやヒツジなどの放牧されている家畜が好んで食べる餌の一つだ。

 ショウゲンジは、土壌上層部に含まれる栄養を吸収する。ここにはセシウム137の大半が存在する。

*****

(31)

 西高東低の典型的な冬型の気圧配置に覆われた日本列島では、シベリア上空の寒気団が日本海の水蒸気を含んで日本海側に大雪をもたらし、極めて不安定な気象状況になっていた。

 日本政府は、SPEEDIのデータの公表はベントのタイミングとしていたため、公表のタイミングを逸したままであった。しかし、1度目の格納容器の爆発以降、マスコミはSPEEDIのデータの公表を執拗に求め、政府はそれを約束せざるを得ない状況に追い込まれていた。

 そこに2度目の爆発である。プールの使用済み核燃料が、格納容器の爆発とともに、宙に舞い上がったのだ・・・。

 大陸からの冷たい寒気が列島に流れ込むなか、宙に舞い上がった使用済み核燃料や瓦礫や粉塵は、強風に流され、放射性プルームとなり、三国山脈を越えて関東平野へと黒雲が広がっていく。参考値として示したPPA(放射性ヨウ素防護地域)の50キロまでという記載が、何の意味もないことが証明された瞬間だった。

続き第9章 黒い雪」は、5/19(火)22:00に投稿予定です

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第8章 50人の決死隊 ※6回目の紹介

2015-05-14 22:04:22 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。6回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介

前回の話:第8章 50人の決死隊 ※5回目の紹介

 昨夜は、2時間だけ総理公邸に戻って仮眠をとった。そのときに、どこかで見覚えのあるやんごとなき高貴な方が枕元に立つ気配がしたのである。

「八百万の神が与えしこの清らかなりし我が国土を汚したもうたのは誰ぞ」という御声が聞こえたのだ・・・。

 よく総理公邸に幽霊が出るというときに引き合いに出される、ザック、ザック、という軍靴の音ではない。どこかで聞き覚えのある、やんごとなき御貴な見声なのだ。

 そうして目を覚まし、電気をつけると、そこには誰もいない・・・。

 咲恵夫人からは、「疲れているからよ」と慰められた。しかし、前回の政権末期のように、ノイローゼになりつつあるのかもしれない。

 このように満身創痍の総理であった。それでも、「国家の総力を挙げて」という所長代理の言葉が総理の琴線に触れた。

 政治家4世の血筋で、父や祖父に比べて勉強の出来が悪く、その劣等感の裏返しとして、周辺諸国に必要以上に虚勢を張る夜郎自大的な総理にとっては、人生最大の踏ん張りどころであったかも知れない。

 ・・・こうして躁状態へのスウィッチが入った。平常時には紳士的な総理が、椅子を蹴って立ち上がった。そして、ドーンと机を叩いて、髪を振り乱しながら絶叫した。

「所長代理、あとはお任せ下さい!原子力災害対策本部長として、そして、日本国の最高司令官として、我が国を威信にかけて、6号機、7号機を鎮圧します!」

 そして、防衛大臣を指で差した。

「・・・江藤防衛大臣、ただちに、自衛隊の総力を挙げて、新崎原発の鎮圧に向かって下さい。自衛官の犠牲はやむを得ません」

 総理の目は、かっと見開かれたままだ。

「・・・それから山屋国家公安委員長、警察も、NBCテロ対応専門部隊や機動隊高圧放水車を派遣して、鎮圧に当たって下さい」

 総理は何かに取り憑かれたようだ。

「高い総務大臣、消防庁長官に命じて全国の市町村消防から優秀な部隊を選抜して、放水車を現地に!」

「多田国土交通大臣、海上保安庁から特殊警備隊を派遣してください。それから、大手ゼネコンにスラリーの製造装置と生コンの圧送機を現地に運ばせてください。スラリーの材料も忘れないように!」

 スラリーとは、砂と水を混ぜた泥である。これをむき出しになった炉心やプールに流し込むのだ。チェルノブイリ原発では、石棺をつくって事故を収束させたがそれと同じことである。

 日村がしたためたメモを、横から総理秘書官が加部総理に手渡した。加部総理は一瞬戸惑い、そしてそのまま力強く読み上げた。事前には聞かされていないようだった。

「・・・それから、汐垣厚生労働大臣、被曝限度の引上げを本日、直ちに実施してください。差し当たり、住民の被爆限度を年20ミリシーベルトに、作業員の被曝限度を年50ミリシーベルトから年500ミリシーベルトに変更してください。さらに、必要に応じ限度を上げていってください!」

 これから反転攻勢だ。加部は生涯最高の興奮を味わっていた。最高司令官として我が国を守っている自らの全身に、電流とアドレナリンが同時に駆け巡っていた。

続き第8章 50人の決死隊」の紹介は、今回で終了します。

引き続き第9章 黒い雪」の紹介を始めます。5/17(月)22:00から投稿予定です

====第9章 黒い雪から一部紹介====

・・・東京駅には、妊婦や乳幼児を抱える女性が殺到していた。しかし指定席券は、とうに売り切れている。

「自由席でも、立ち席でも、何でもいいんですっ、通路に座ってるだけでいいんですっ」

涙ながらに駅員に陳情している抱っこ紐をした母親・・・

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東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第8章 50人の決死隊 ※5回目の紹介

2015-05-13 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介

前回の話:第8章 50人の決死隊 ※4回目の紹介

(30)

 2度にわたる爆発にもかかわらず、かろうじて新崎原発の免震重要棟と官邸とは、テレビ会議システムがつながっていた。

「・・・いま7号機の格納容器も爆発したみたいです。残留していた所員は、瓦礫の処理と電源の復活に出払っていたのですが、この状況だと、おそらくもう全滅ではないかと・・・」

 テレビの映像越しに見る新崎原発の免震重要塔の緊急時対策室には、もうほとんど人形が写っていない。落城前の天守閣のようだ。

「ぐぇ、ぐぼっ、げーっ」

 画面上で突然、所長代理が、免震重要棟の緊急時対策室で嘔吐を始めた。

 ずっと何も食べていなかったのだろう。黄色い胃液に血が入り混じっている。画面越しに、酸っぱい匂いが、官邸のオペレーションルームにも漂ってくるようだ。

 新崎原発のリアルタイムのモニタリングデータは、1シーベルトという驚異的な値に跳ね上がっていた。プールにある使用済み核燃料が、爆風とともに吹き飛ばされた結果であった。

「・・・申し訳有りません。もう私たちに、この現場においてできることはありません。私は、命ある限り、ここで原発を見届けます。とにかく、警察でも、消防でも、自衛隊でも、米軍でも、何でもかまいません。国家の総力を挙げて、こやつを抑え込んで下さいっ!」

 所長代理の黄ばんだ顔には、死相が表れている。

 しかし死相が現れているのは、総理も同じであった。

 再登板から3年を超え、日々の激務に加え、外遊の疲れが蓄積していた。外遊は本人が望んだというよりも、婦人の咲恵の希望と外務省の希望との最大公約数の結果であった。

 3年間の外遊による度重なる疲労が極限に達したところに、今回の事故だ・・・目の下にはクマができ、顔のシワはより深くなり、皮膚は黄ばんで、ところどころシミが現れている。疲れたときに現れるアトピーも再発していた。そして、持病がある胃腸の調子もよくない。

 おまけに昨夜は悪夢にうなされていた・・・。

続き第8章 50人の決死隊」は、5/14(木)22:00から投稿予定です。

 

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第8章 50人の決死隊 ※4回目の紹介

2015-05-12 22:02:01 | 【東京ブラックアウト】

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介

前回の話:第8章 50人の決死隊 ※3回目の紹介

 ガソリン不足も新崎県全域を襲った。

 車社会の新崎県では普通の住民の給油は、平常時はだいたい週に一度のペースだ。それが元日の朝から一斉にガソリンスタンドに客が押し寄せた。誰しも、できるだけ遠くに避難するために満タンにする。早い者勝ちの世界だった。

 6号機の格納容器が爆発する前に、既に県内のガソリンスタンドでは、製品のほとんどが売り切れになっていた。わずかに残るガソリンスタンドは、価格表示のパネルにガムテープで桁を一つ追加して、リッター1000円で販売していた。

 どの時代も、パニックに便乗して客の足元を見る悪徳業者がいる。石油ショック時のトイレットペーバーしかり。しかも、原発事故という過酷な状況下での販売であれば、売るほうも命がけである。それが適正価格かどうか、誰にもわからなかった。

 石油需給適性化第9条には、経済産業大臣は、ガソリンの使用の節減を図るため、必要があると認めるときはガソリンスタンドに対し、給油量の制限、営業時間の短縮、その他必要と認める販売方法の制限を実施すべきことを指示することができる、とある。この法律が発動されれば、一部の物が買い占めないように、一人当たりの販売量を、1回の給油につき10リットルまで、などと制限することができる。

 また国民生活安定緊急措置法では、緊急時には、第8、9条で政府が政令で定める物資の特定標準価格を定めて、第11条で、それを超える値段で販売した事業者には、その差額について課微金の納付を命じなければならない、とある。いざというときに、業者が買い手の足元を見てふっかけることを防ぐための法律だ。

 ーしかし、法律は無力だった。

 経産大臣には、新崎県のパニック下でガソリンがどのように売られているか、そもそも知る由もなかったから、石油需給適正化法に基づく指示など出しようもなかった。

 国民生活安定緊急措置法についても、そもそも政府は、この法律の対象となる物品を政令で定めていなかった。したがって、ガソリンの特定標準価格を定めようにも定めようがなく、業者は吹っかけ放題だった。

 ・・・結果として、弱いものが出遅れ、仮に避難の車が手配できたとしても、ガス欠で幹線道路の路肩に自動車ごと取り残されることになった。路肩で、家族全員が嘔吐のうえ窒息死している自動車や、家族全員が凍死している自動車が、いくつも並ぶことになったのだ。

続き第8章 50人の決死隊」は、5/13(水)22:00から投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第8章 50人の決死隊 ※3回目の紹介

2015-05-11 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

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恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

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「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介

前回の話:第8章 50人の決死隊 ※2回目の紹介

 ナースコールを鳴らすこともできない認知症の老人が、いたるところで、

「ぐうぇ、ぐうぇ、ぐうぐぅつ」

 と異音を発し、そのまま喉を詰まらせていく。

 嘔吐の臭いは、他人の嘔吐を誘発する、4人部屋では次々と伝染し、スタッフが走り回っても手当が間に合わず、続々と息を詰まらせて窒息死していく。

 「ぐぐっ、ぐうぇ、ぐうぇ」と、いろいろな部屋から聞こえてくる。

 正に、生き地獄とはこのことだろう。ゲロまみれになりながら走り回っていた介護スタッフにも、放射線の魔の手が及んでいた。気のせいではない、吐き気を感じ始めたのだ。

 UPZ内やUPZ外の病院や介護施設も、状況は同じだった。

 緊急時には弱い者が取り残される。避難計画では、あれほど要支援者避難の計画を練っていたのに、ほとんど機能していない・・・。

 まず、民間バス会社との協力協定がまったく無意味であった。バスの運転手だって普通の労働者だ。法律上許容される労働環境は、一般公衆の被曝線量限度である年1ミリシーベルトを基本とすると、労働安全衛生法で決まっている。これを屋外8時間、屋内16時間の生活パターンで換算すると、0.23マイクロシーベルト時だ。既に新崎県では、すべての地域で、この値を超えてしまっている・・・。

 すなわち、「病院にバスで患者を迎えに行きなさい」という職務命令を発する、その前提がないのだ。

 民間バス会社も、会社として福祉施設と協力協定を結んでいても、バスの運転手一人ひとりに、誰がどこに迎えに行くかという明示的具体的な迎車のミッションを課してはいなかった。そういう状況で、事故が起きて線量が跳ね上がるなか、会社としても運転手に無理強いはできないのである。

 協力協定という名の民事契約には、たしかに法律的な拘束力がある。しかし同時に、民事契約では、損害賠償というべナルティを覚悟すれば、破棄する自由もあるのだ。

続き第8章 50人の決死隊」は、5/12(火)22:00から投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)

 


第8章 50人の決死隊 ※2回目の紹介

2015-05-08 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第7章 メルトダウン再びを複数回に分け紹介します。2回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「第8章 50人の決死隊」の紹介

前回の話:第8章 50人の決死隊 ※1回目の紹介

 最初の鉄塔倒壊から24時間が経過した。交通麻痺の状態が続いていた。

 新崎県内全域は、交通渋滞というよりも、交通麻痺の状態が続いていた。

 新崎駅には新崎市民が殺到し、そのため警察によってバリケードで封鎖された。新崎空港も同じである。道路は、高速道が事故でストップ。一般道では、西と北と南に向かう避難民の群れが続いた。ある者は渋滞を覚悟して自家用車で、ある者はマスク姿で雪道を滑りながら自転車で、ある者は口をタオルで押さえてトボトボと歩いて行く・・・。

 そうなのだ、前知事の伊豆田が、災害時のシミュレーションのため、たった400人に避難訓練をさせただけでも、大渋滞を引き起こした。

 いわんや雪のなか、まず一時避難場所に集合し、ゼッケンを着けバスを待つほど、人間は悠長にはできていない。仙台原発の避難訓練のシーンがテレビで放映されたことがあったが、いまとなっては、物笑いの種にしかならない。


 ドッガーン、ドドドドーン・・・!!

 2度目の爆発が深夜に起きた。7号機の格納容器の爆発だ。

 既に建屋が半壊し、使用済み燃料プールからも漏水していたため、使用済み燃料と格納容器内のデブリが爆風により吹き上げられて、モクモクと上空に高く上がっていく。いわゆるキノコ雲である。

「ま、まずいですね」

 と、官邸で原子力規制委員長が呟く。

「これは放射性プルームになりますよ・・・」

 2度目の爆発で、現地のニイザキフィフティーズは、壊滅的な被害を受けていた。瓦礫を片付けていたホイールローダーにデブリを含む瓦礫が襲い掛かり、ホイールローダーの操縦席を貫通した。操縦員は即死である。

 やっとのことで凍り付く高台の車庫灯から運び出した非常用電源車から、電源をつなごうと必死になって原子炉建屋に出入りしていた所員たちは、その大半が爆風で吹き飛ばされたか瓦礫の雨に打たれたかであった。即死だろう。

 そうではなく、奇跡的に無傷の者も、急性放射性障害により、現場で瓦礫の上に嘔吐を繰り返している・・・もうそう長くは生きていられないだろう。


(29)

 悲惨な状況は現地だけではなかった。新崎原発からわずか3キロの特別養護老人ホームには、結局、避難指示から24時間たっても迎えのバスもスタッフも現れなかった。線量も驚異的な数字に跳ね上がっていたが、それには誰も気が付かなかった。放射線の線量は、人間の五感では感知できない。もちろん目にも見えない・・・。

 2度の爆発音が不安な気持ちを高まらせたし、ラジオは間断なく原発の状況を伝えていたが、正直、介護スタッフと看護スタッフは、それどころはなかった。目の前の80名の老人の世話にひたすら追われていたのだ。もちろん事務員も、その手伝いに追われていた。
 
 老人たちに異変が現れ始めた。続々と老人が嘔吐を始めたのである。急性放射性障害だ。寝たきりで動けない老人が嘔吐をすると、そのまま吐瀉物で喉を詰まらせる。

続き第8章 50人の決死隊」は、5/11(月)22:00から投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)