*** june typhoon tokyo ***

加納エミリ @青山 月見ル君想フ

 バンドを従えた本格的ワンマンは、飛躍の予兆も得たドリームラッシュなステージ。

 「1年半くらい音楽活動をやってきて、100人を超えるようなキャパの本格的な会場でのワンマンは初めてで、客が入るのか不安だったけど……いっぱい頭があるねぇ!」と笑顔でオーディエンスへ語り掛けた表情には、安堵と充実感に満ちていた。“完全セルフプロデュースの〈NEO・エレポップ・ガール〉”を自称する加納エミリが、初のフル・アルバム『GREENPOP』を引っ提げたワンマンライヴ〈加納エミリ「GREENPOP」レコ発ワンマンライブ〉を開催。会場は青山墓地や神宮外苑にほど近い、満月を背にしたステージが情趣ある青山・月見ル君想フ。冒頭の発言通り、多くの観客がフロアを埋め尽くし、初アルバム・リリースとワンマン成功というある種の門出を祝う形となった。

 “本格的な会場”という言葉にもあったように、5月にはデビュー1周年を祝うライヴ〈加納エミリ1周年記念ショー〉を行なっている(※記事はこちら→「加納エミリ @北参道ストロボカフェ」)が、その時は50名前後のカフェスタイルのアットホームな会場での開催。それゆえ、今回ではステージからフロアに観客が立ち並ぶ光景を見た時は、チケットの売れ行きの好調ぶりからある程度は想像していたとはいえ、感慨深いものがあったような表情が窺えた。



 ステージには、ポップ・バンド“カンバス”のヴォーカル&ギターの小川タカシとroppenやbjonsで活動する渡瀬賢吾のツインギターに、ロック・バンド“Alice & Co.”のベースのKazuya.Y、ピアノとドラムのデュオ“白いパレット”のドラムのManaka(真成香)を加えた“加納エミリ・バンド”が登場。いつもはオケ音源でのステージを展開している彼女がバンド・セットを従えてというのも、ワンマンライヴへの意欲を感じるところ。前述の〈加納エミリ1周年記念ショー〉でもバンドを従えたが、その時はギター(渡瀬賢吾)、ドラム(Manaka)、キーボード(矢舟テツロー)の3名のベースレスだったのが、鍵盤はオケ音源に投入してベースとギターをプラス。パワーアップした形でこのレコ発ワンマンに華を添えていた。

 バンド・セットとなったことで音圧に迫力が生まれ、奥行きのある音像に。冒頭の「恋愛クレーマー」や「Lucky」などはオーセンティックなロック・テイストが強調され、「ハートブレイク」「Moonlight」のメロウなメロディラインの曲はツインギターの泣きが効き、「Just A Feeling」「フライデーナイト」などでは「TR-808」の“ヤオヤ”的リズム・サウンドとともにドラムが躍動感あるビートを刻むなど、相乗効果や従来とは音色の異なるサウンドメイクで、加納エミリを大きく後押ししたのは間違いない。

 ただ、勘違いしてはいけないのは、バンド・セットが加わったことでパフォーマンスが向上した、ということではない。もちろんケミカルな音源とバンドの生音というケミストリーが創出したサウンドは、従来にない立体感を築いていた。だが、そのなかでも加納エミリは、バンド・サウンドだからといってそれに寄り添うのではなく、あくまでもナチュラルに加納エミリを演じたところが、結果的に良い意味で“異質な”音空間を創り上げたといえる。


 MCでは観客への感謝を何度も述べながらも、最近とみに「口が悪い」と言われるトークも“相変わらず”。あちらこちらから失笑が聞こえるグダグダ進行も彼女のステージの“お約束”で、ステージでのチアフルなパフォーマンスとは対照的なそのギャップも“加納エミリ・ワールド”という味になって、フロアを魅了していく。

 「二人のフィロソフィー」での目元横の横ピースサインや「1988」でのカンフー映画アクション風のポーズなど、楽曲が進むにつれて振りの“キメ”度も増していき、観客もそれに負けじと一緒になってポージングする光景が微笑ましい。「Been with you」や「フライデーナイト」などでの“ケチャ”もスケールを増し、観客が手を伸ばしながら愛情や忠誠を誓うようにも見えるフロアを一望した加納の顔には、充実と歓喜、そして、苦労を乗り越えてきて得た自信など、さまざま交錯した表情が浮かんでいるような気がした。

 楽曲のテンポが良く、(本人は「たくさん曲を持ってきたはずなのに、おかしいなあ」と上っ面で語るも……笑)まだ楽曲数も少ないため、1時間も立たずに本編はラストへ。観客とともに手を上へと伸ばし、振り上げながら歌い楽しんだ「Next Town」だったが、“OK 今がチャンス All Right ここでアガれ!”のフックが印象的なこの楽曲を本編ラストへ持ってきたことを考えると、1年半前には想像も出来なかった光景が文字通り激変した今を見据えながら、“まだまだ、ここからが勝負なんだ”という強い決意を込めていたようにも思えた。

 アンコール中には(加納のマイクが入ったまま楽屋での会話が駄々洩れというアクシデント?サーヴィス?もあったが…笑)2020年5月28日に渋谷 WWWでの2周年ライヴ決定という“重大発表”もなされ、さらに勢いを増したところで、新作『GREENPOP』から「恋せよ乙女」を経て、彼女のアーティスト人生にとってのターニングポイント曲「ごめんね」でエンディング。昨年は“ごめんね”ポーズを一緒にする観客もそれほど多くなかったが、初の本格的会場でのワンマンでフロア一面にポーズが繰り広げられる光景には、コミカルな楽曲ながら、グッと胸に刺さるところもあったのではないだろうか。

 アンコールを入れても1時間ほどと実際長くはないステージだったが、それを鑑みても時間の経過が早く感じたのは、満足度の高いライヴを展開していたという証拠だろう。バンドを配したことで奥行きが生まれ、楽曲の解釈や振幅が増したことも良い効果を生んでいた。だが、実はそれ以上に、バックから安心感と勇気を得ながらも、加納エミリが加納エミリとしてパフォーマンスをやり切ったということが重要で、それを完遂した彼女には、大きな達成感とともにさらなる向上心が胸に宿ったのだと思う。半年足らずで早々に渋谷・WWWという今後の活動の試金石になりそうなネクスト・ステージが待ち構える。おそらく本音では緊張や不安が過ぎる気持ちの裏返しで、SNSやインストアなどでは時折なんだかんだ悪口や悪態をつくだろうが(笑)、それらの心配が杞憂に終わるような当日を迎えそうな気も。それほどの飛躍力と勢いが、今の彼女にはある。それを改めて実感した60分だった。


◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 恋愛クレーマー
02 Lucky
03 Just A Feeling
04 ハートブレイク
05 Moonlight
06 二人のフィロソフィー
07 1988
08 Been with you
09 フライデーナイト
10 Next Town
≪ENCORE≫
11 恋せよ乙女
12 ごめんね

<MEMBER>
加納エミリ(vo)

小川タカシ(g / カンバス)
渡瀬賢吾(g / roppen, bjons)
Kazuya.Y(b / Alice & Co.)
Manaka(真成香)(ds / 白いパレット)



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【加納エミリに関連する記事】
・2018/11/21 それぞれのレトロ@下北沢BAR?CCO
・2019/01/24 Mia Nascimento@下北沢BAR?CCO
・2019/02/13 加納エミリ@新宿Motion
・2019/03/01 LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ
・2019/05/24 加納エミリ @北参道ストロボカフェ
・2019/12/14 加納エミリ @青山 月見ル君想フ(本記事)

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