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*** june typhoon tokyo ***

D'angelo@パシフィコ横浜


 充実のD。“トーキョー”に再降臨。

 2014年の暮れにようやくリリースされた3枚目のアルバム『ブラック・メサイア』で一躍注視されると、2015年にはサマソニ、単独公演で来日。従来のネオソウルやブラック・ミュージック・リスナーの枠を遙かに超越した人たちがこぞって“語り草”としたディアンジェロが再来日。月曜夜というウィークデーかつパシフィコ横浜という時間・会場ともに好条件ではないにも関わらず、チケットは完売(実際には若干当日券も出た模様)。『ブラック・メサイア』リリースから1年以上経っているが、日本での熱狂の渦は衰退するどころかさらに烈度を増しそうな気配だ。

 2015年8月に行なわれた前回の公演はザ・ヴァンガード名義での公演だったが(その時に記事はこちら→「D'angelo And The Vanguard@Zepp Tokyo」)、今回はディアンジェロとしての来日。とはいえ、ジェシー・ジョンソン、アイザイア・シャーキー、クリス・デイヴら核となるメンバーは変わらず。トピックとしてはピノ・パラディーノに代わって彼の息子のロッコ・パラディーノが出演したことか。前回のZepp Tokyo公演では開演時間より約45分遅れてのスタートだったが、今回はそれを上回る約1時間遅れての開演。開演前には前回同様J・ディラの楽曲とともにアース・ウィンド&ファイア「ゲットアウェイ」(モーリス・ホワイト追悼か?)も流れるなど、心地良いグルーヴに会場が満ち満ちて、それももう熟れ過ぎてしまうという直前で暗転。イントロダクションを経て、『ヴードゥー』収録の「デヴィルズ・パイ」からステージは幕を開けた。



 端的に言うと、さまざまな面でケチをつけたくなるところはあった。平日夜に横浜、それもみなとみらい地区という立地でありながら開演時間が約1時間遅れ、観客に帰路の不安を過ぎらせたりしたこともあろうが、個人的には先日のさいたまスーパーアリーナのマドンナの2時間の例とは異なり、約1時間なら“ディス・イズ・ザ・ファンク”の部類でギリギリ胸に納めることは出来る範囲。もちろんそう言い切れるのは、その後のライヴの内容如何によるところが大きいのだが。

 ただ、蓋を開けてみれば、帰りの心配など杞憂に終わった本編1時間、アンコール約25分というコンパクトな構成。楽曲数もZepp Tokyo公演のWアンコール含む14曲に比べると、今回はアンコール含めて10曲には物足りなさもあった。ホーンセクションや女性バック・ヴォーカルもいないというところも、Zepp Tokyo(約2700人)よりもキャパシティが広がった(約5000人)ということを考慮すると、サイズダウンは否めなかった。

 また、S指定席は1万円超の11500円であるにも関わらず、S指定席は2階席も含まれていたため、1階席との観賞状況の差が歴然。おそらく9800円のA指定席は3階席だと思うが、パシフィコ横浜は2階席といっても実質は4、5階相当、3階席となると6階相当となる上、最前列ならまだしも中央より後方は座席の傾斜が緩やかなためステージ前方がかなり見えにくいという構造となっている。座席位置によって見方は大きく変わるかもしれないが、平日夜に横浜という好条件ではないアクセス、約1時間遅れてスタート、海外公演と比べて数曲演奏を省いたセットリスト、観賞環境の差が大きい座席設定など、これで1万円前後でというのは、正直いかがなものかというのはある。
 さらに、その思いを深く募らせたのは、不明瞭なサウンドだ。Zepp Tokyo公演でも前回の記事でも「全体的に音量が大きかったこともあるが……ヴォリュームが大きくなるにつれて全体的に各パートの音が潰れ加減だったのは、やや気になるところだった」と指摘したように、今回もモヤモヤというかモコモコというか、あまりはっきりしない音鳴りが前半から続き、特にベースとドラムのリズム隊の音がしっくりとこなかった。これは観賞場所によって異なるとは思うので一概には言えないが、PAの問題なのか、会場の構造上の問題なのか、いずれにせよ期待値が大きいだけに、ストンと肚に落ちることなくどこか小骨が喉に引っ掛かったような感覚のまま前半が過ぎていった。



 それでも拳を高く掲げることを促してから始まった「ザ・シャレード」くらいからは音鳴りも安定し始め、グルーヴが次第に密になっていく感覚が訪れると、ネオ・ソウル感の欠片もないディスコ/ブギー・ファンクな「ブラウン・シュガー」で一気にこれまでのモヤモヤから解放。コール&レスポンスを駆使して観客との距離をより一層縮めると、以降はほぼノンストップでファンキーなグルーヴを連ねていったのは前回同様。シック、JBあたりのマナーを駆使した生々しく人間味溢れるタイトなナイス・グルーヴで、ホール全体が宇宙空間に浮遊していくかのような恍惚の世界観を提示していく。終盤の「レフト・アンド・ライト」「チキン・グリース」といった展開に斬新さはないが、シンセサイザーを強調したプリンス的なアプローチを含みながら、まさに熱狂という二文字が相応しいパフォーマンスを繰り広げていく。

 そして、その熱狂を熱狂足らしめていたのは、ディアンジェロ自身の充実ぶりだろう。独特の叫びともヴァイブレーションともいえる強烈なファルセット一つで観客の鼓動を高める手応えももちろんだが、その晴れやかで満ち足りた表情がそれを物語っていた。ステージから飛び降り、フロア最前列のファンの眼前を走り去るというパフォーマンスも、彼の充実期の一端を示していたように思えた。

 中盤から本編ラストまで一気にエネルギッシュなディアンジェロ・プレゼンツ“ザ・ファンク・ショウ”を見せた後は、お馴染みの「アンタイトルド」。中央のスポットライトに照らされた鍵盤に座り、それまで“トーキョー”“ジャパン”と連呼していたのに「……ヨコハマ?」と呟く茶目っ気ぶりに観客はいっせいに拍手。「トーキョー」「ジャパン」と続けてさらに観客を煽ると、あの“ハウ・ダズ・イット・フィール”のフレーズを繰り返しながらバンド・メンバーのソロを経て一人ずつステージアウトしていく恒例のエンディングへ。ほぼ“ハウ・ダズ・イット・フィール”のフレーズの連呼ながら、何故か心がグッと掴まれてしまうのは、短いながらもディアンジェロらと共有したこの空間を最後くらいはじっくりと噛み締めたいという思いがあるからだろうか。

 完成度という意味ではZepp Tokyo公演よりも足らないところは多いとは思う。だが、彼が発する唯一無二のファルセットに、メンバーと奏でるファンキーなグルーヴに、そしてカクテルライトが交差するなかで生まれたフロアのヴォルテージに、心身を持っていかれたのも事実。改めてディアンジェロを稀有な存在だと再認識した一夜となった。



◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Devil's Pie(*2)
02 Red Hot Mama(Original by Parliament/also known as Funkadelic's song)
03 Feel Like Makin' Love(Original by Roberta Flack)
04 Brent Fischer(Interlude)
05 Really Love(*3)
06 The Charade(*3)
07 Brown Sugar(*1)
08 Left And Right(*2)
09 Chicken Grease(*2)
≪ENCORE≫
10 Untitled(How Does It Feel)(*2)

(*1)song from Album『Brown Sugar』
(*2)song from Album『Voodoo』
(*3)song from Album『Black Messiah』

<MEMBER>
D'Angelo(vo,key,g)

Jesse Johnson(g)
Isaiah Sharkey(g)
Bobby Sparks(key)
Rocco Palladino(b)
Chris“Daddy”Dave(ds)
Jarmaine Holmes(back vo)
(back vo)

◇◇◇















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