*** june typhoon tokyo ***

BONNIE PINK @Billboard Live YOKOHAMA



 ブランクをものともせずに歌い上げた、痛快なカムバック・ステージ。

 久しぶりに観る”ボニー”は、相も変わらずの“ボニー”だった。活動再開後は、2018年に東京と大阪のビルボードライブにて〈BONNIE PINK Special Live 〜もろびとこぞりて〜〉を、翌2019年に〈BONNIE PINK at Billboard Live 〜20 BEFORE 2020〜〉を開催して以来、3年ぶりとなるビルボードライブ公演〈BONNIE PINK Billboard Live "Hello Again"〉を観賞。個人的にBONNIE PINKを生で観たのは、2015年の全国ツアー〈BONNIE PINK 20th Anniversary TOUR 2015〉のファイナルとなるZepp Tokyo公演(記事 →「BONNIE PINK@Zepp Tokyo」)だから、もう7年にもなるか。この年にステージ上で結婚を発表、2017年に出産報告し、しばらく活動を休止。さらに、コロナ禍ということもあって主だった動きはなかったが、2021年にNight Tempoとのコラボレーション「Wonderland(feat. BONNIE PINK)」を発表し、2022年に入ってNight TempoのフジロックのステージやLIQUIDROOM公演にゲスト参加すると、NHK「みんなのうた」に新曲「宝さがし」を、8月公開の映画『for you 人のために』『生きるFROM NAGASAKI』2作のエンディング曲へ「エレジー」を書き下ろすなど、ようやく本格的に動き出してきたなかでのカムバック・ステージだ。

 “カムバック”というのは、BONNIE PINK自身も意識していたようで、公演タイトルに"Hello Again"を冠して「久しぶり!」とでも呼びかけてきそうなものに。8月に自身が新型コロナウィルスに感染するなど心配もされたが、そちらからも無事に“カムバック”となった。2018年の東阪ビルボードライブ公演にさらに1ヵ所追加した、横浜、大阪、東京での3会場6公演でファンとともに本格的再始動を高らかに発することになったが、12月4日に行なわれる東京公演は、復帰を待ち侘びていたファンの熱量が窺えるかのごとく、あっという間にソールドアウト。ということで、ビルボードライブツアーの初日となるウィークデーの夜に、横浜へ馳せ参じた次第。


 BONNIE PINKのバックには、鈴木正人をバンドマスターとして、八橋義幸、奥野真哉、白根賢一という盟友“Bad Bad Boys”が結集。前述の2015年のZepp Tokyo公演をともに盛り上げた面々が再び顔を揃え、懐かしくも安堵が伝わるバンドは、在りし日のBONNIE PINKのステージの光景が再び針を動かしたようでもあった。さすがにNight Tempo「Wonderland」は披露しないバンドセットだが(これまでもm-floとの“loves”曲「Love Song」やクレイグ・デイヴィッド「ALL THE WAY」、tofubeats「衣替え」などのように、意外と打ち込み、電子系の楽曲にBONNIE PINKのヴォーカルはフィットするのだけれど)、それぞれもステージにて久しぶりの再会に喜びを感じながら、新旧の楽曲をファンとともに愉しむステージとなった。

 バンド演奏のイントロで一部を“ピンク”に染めたヘアのBONNIE PINKが登場し、ボニー復活祭の幕を切って落としたのは、自身もソープ嬢役で出演した映画『嫌われ松子の一生』の主題歌「LOVE IS BUBBLE」。ホーンが高らかに響くビッグバンド・サウンドで景気づけていこうという意図もあったのか。冒頭曲としてあまり想定しておらず、個人的に「そう来たか!」と唸ってしまった……という時点で、彼女の“策略”にハマってしまったようだ。


 「Morning Glory」に続く3曲目の「Ocean」からはギターでの弾き語りを取り混ぜながらの進行。八橋による「1、2、3…」というカウントアップから始まったギター・ポップ「Spin Big」でのコーラス、「Ocean」と同様に7thアルバム『Even So』からのピックアップとなった「Rise and Shine」では、ボニーのバンド“Bad Bad Boys”との相性の良さを再確認。なにか特段刺激的なアクションを起こす訳ではないが、BONNIE PINKのビター&スウィートなヴォーカルを一切邪魔せずに、しかしながらしっかりとそれぞれの音の粒をヴォーカルを湧き立たせるように響かせるサウンド・アレンジを構築。バンドマスター鈴木の操縦のもと、ヴォーカルとの絶妙な距離感でグルーヴの波を生み出していく手腕は、長年連れ添い、酸いも甘いも嚙み分けた盟友とのコンビネーションならではといえる。

 やはり復活祭ということで、新旧取り混ぜた、最新曲となる「宝さがし」「エレジー」を含めたBONNIE PINKの足跡をかいつまんだような曲構成になるのは、粗方想像はついていた。だが、代表曲「A Perfect Sky」こそ披露したものの、たとえばライヴ定番曲といえる「Heaven's Kitchen」「Do You Crash?」や人気曲「Tonight, the Night」「Last Kiss」などはリストから外されていたのは意外だった。11月に1stから3rdまでの初期アルバム『Blue Jam』『Heaven's Kitchen』『evil and flowers』がカラーヴァイナルで再発したこともあって、2ndアルバム『Heaven's Kitchen』から「No One Like You」「Melody」を、『evil and flowers』からは「金魚」をセレクト。カラーヴァイナル再発を機に初期作を聴き直してみて「若さゆえの痛さがあって恥ずかしいけれど、同時に愛おしいと思えた」と語っていたなかで、敢えてシングル曲ではなく「No One Like You」「Melody」というアルバム曲を演奏したのは、ファンにとってはニヤリとするところだろう。


 「No One Like You」はキーボードでの弾き語りで披露。「金魚」はシングル曲だが、こちらは当時着用していたという薄手の白のドレスコートを纏っての歌唱。「大事な衣装は結構そのままとってあって、3日前くらいに思い出して引っ張り出してきた」「ちょっと黄ばんでいたけど、まぁいいかなと」ということで、貴重な“再現”ステージとなった。「(昔の衣装は取っておいても)別にBONNIE PINK記念館を造る訳でもないし、欲しい人がいたらあげてもいいんだけど」と言いながらも、かつてを思い出し浸るような表情も垣間見せていた気もした。“真っ白に 真っ白に 真っ白に…”というフレーズとともに深淵な空間へと落ちていくようなアウトロが印象的だった。

 後半には「最近はフェイヴァリットなアーティストがどんどん亡くなっていって……」という惜別と「天へ届くといいな」という思いを乗せて、1981年にオリビア・ニュートン=ジョンがリリースした全米10週連続1位、1982年度年間チャート1位という世界的ヒット曲「フィジカル」のカヴァーを。「金魚」の時のように、「フィジカル」のミュージック・ヴィデオよろしくレオタードへ衣装チェンジすることはなかったが(笑)、歌うことに心酔した心地よさが伝わる歌唱でフロアにクラップの波を呼び起こしていた。代表曲「A Perfect Sky」では、帳が降りた夜であっても晴れわたる“完璧な空”を、バンド・サウンドとともにフロアに“再現”。清々しさも広がるなか、「ついやってしまう」「これはもう、仕方ない」というフロアへマイクを向けて、コーラスパートでコール&レスポンスを促すなど、久しぶりのステージを自らも満喫する様子も窺えた。


 本編ラストは最新曲の「エレジー」。被爆者を通して終戦からの歴史を辿るというシリアスな映画の主題歌だが、実際に鑑賞して意外と重すぎない、いわゆる被爆映画とは異なる感想を持ったことから、重厚というよりもゆっくりと傷を癒しながら、少しずつ瞼を開けて動き出すようなヒーリング・マーチという仕上がり。マーチといっても、一般的な賑やかなマーチというのではなく、白根が叩く優しく歩みを導き出すようなドラミングと緩やかな川の流れにも似た奥野のノスタルジックな鍵盤が、哀切を感じながらも希望を見出そうとするBONNIE PINKのヴォーカルと相まって、希望の扉へと促すように眼前を照らし、ささやかにステップを踏み出させる……というような作風だ。喧騒が穏やかな空気に変わるムードのなかで、少しずつ熱を帯びていくようなサウンドは、BONNIE PINKの情緒溢れるヴォーカルワークをより引き出していた。

 アンコールラストには『Even So』収録のシングル「Private Laughter」をチョイス。コーラスパートへ向かってせり上がっていくようなバンド・サウンドのダイナミズムは、久しぶりのステージというブランクも問題とせず。蠢くような生命力を感じるバンド・サウンドとともに、もどかしさややるせなさというような痛みを孕みながら、ささやかな甘美と艶やかさを滲ませる、これぞBONNIE PINK節といえるヴォーカルが渦となっていく光景は実に痛快で、久しぶりのステージという懐古の念は不思議と消えていた。実生活では新たな風景をやり過ごしてきたBONNIE PINKだが、これまでの情趣に母となった強さが加わって、いっそう機微に溢れ、情熱を帯びた歌唱を聴かせてくれるようにも感じた。

 「アルバム出すぞ出すぞ詐欺を繰り返してきた」という彼女だが、2023年はアルバムをリリースすると高らかに宣言。実際に楽曲制作も進めているとのこと。また、ギアを上げ始めたBONNIE PINKに期待を抱いた、メモリアルな復活祭の幕開けとなった。


◇◇◇

<SET LIST>
01 LOVE IS BUBBLE (*BP)
02 Morning Glory (*DD)
03 Ocean (*ES)
04 宝さがし
05 Spin Big
06 Rise and Shine (*GT)
07 No One Like You (*HK)
08 Melody (*HK)
09 金魚 (*ef)
10 Physical(Original by Olivia Newton-John)
11 A Perfect Sky (*BP)
12 エレジー
≪ENCORE≫
13 Private Laughter (*ES)

(*HK):song from album『Heaven's Kitchen』
(*ef):song from album『evil and flowers』
(*ES):song from album『Even So』
(*GT):song from album『Golden Tears』
(*BP):song from album『Every Single Day -Complete BONNIE PINK(1995-2006)-』
(*DD):song from album『Dear Diary』

<MEMBER>
BONNIE PINK(vo,g,key)
鈴木正人(b)
八橋義幸(g)
奥野真哉(key)
白根賢一(ds)

◇◇◇

【BONNIE PINKのライヴに関する記事】
2005/10/24 BONNIE PINK@東京厚生年金会館
2006/09/28 BONNIE PINK@東京厚生年金会館
2006/10/05 BONNIE PINK@渋谷公会堂
2007/10/26 BONNIE PINK@日本武道館
2008/09/26 BONNIE PINK@NHKホール
2009/07/31 BONNIE PINK@赤坂BLITZ
2011/11/27 BONNIE PINK@日本橋三井ホール
2012/10/08 BONNIE PINK@日本橋三井ホール
2014/11/01 BONNIE PINK@Zepp DiverCity Tokyo
2014/12/16 BONNIE PINK@O-EAST
2015/09/21 BONNIE PINK@渋谷公会堂
2015/12/19 BONNIE PINK@Zepp Tokyo
2022/11/29 BONNIE PINK @Billboard Live YOKOHAMA(本記事)


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ライヴ」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事