01 □ [sayonara_2012]
02 Perfect Place
03 ALIVE
04 □ [frozen_space_project]
05 Never Needed You
06 Oh Baby
07 □ [square1_scene_1 murder_he_wrote]
08 Don't Stop Me Now
09 All I Want Is You
10 Acid 02
11 Call Me
12 □ [ok_i_called]
13 Sure Shot Ricky
14 RUN
15 □ [square1_scene_2_don't_blink]
16 So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
17 She's So (Outta Control)
18 Yesterday
19 □ [to_be_continued…]
◇◇◇
『ASTROMANTIC』『Beat Space Nine』『COSMICOLOR』という“loves”三部作をリリース後、沈黙を続けていたm-flo。『COSMICOLOR』で“loves”を卒業した2007年から約5年ぶりとなる、オリジナルとしては6枚目となるアルバム。当初からアルバムに設定されていた“宇宙の旅”というコンセプトは継続し、インタールードも凝った作りとなっている。
前作まではLISA脱退後のヴォーカリストを“loves”という形でフィーチャーし、さまざまなシンガー/アーティストとの化学反応を提示して見せた彼らだが、今作では“原点回帰”を求めて制作したという。
そのひとつが、「超豪華ヴォーカリスト参加!」と銘打ちながらヴォーカリストに関する質問には一切答えない(クレジットにもない)という、これまでにない演出方法だ。ヴィジュアルや肩書きなどの情報先行ではなく、実際に聴く声やサウンドから楽しんで欲しいという思いがあったようだ。混迷が続く混沌とした現代、玉石混交した溢れる返る情報に踊らされるのではなく、自らが直に耳にし、直に触れた体験から本質を知って欲しいという彼らからのメッセージともいえる。
このアルバムの世界観を形作るインタールードには全て“□(Square)”が冠されており、ストーリーにおいては「“SQUARE ONE”は瞬きとともに」というフレーズをキーワードにして展開していく。15曲目の「□ [square1_scene_2_don't_blink]」における寸劇では“あらかじめ保留された可能性の彼方”が“SQUARE ONE”であると語っているが、この“スクウェア”という言葉が何を意味していいるかは明確には解からない。だが、1999年7月7日に「the tripod e.p.」でメジャー・デビューした彼らが、VERBAL、TAKU、LISAによる“tripod”(トライポッド、三脚)から旅立ち、次の新たなる世界=“SQUARE”へ降り立ったという意思表示と感じることも出来る。
さて、その内容だが、VERBAL、☆Takuのソロ作からもある程度予測出来たところもあるが、かなりハウス/テクノ寄りのサウンドの楽曲で構成されている。“原点回帰”という言葉に期待をした初期m-floファンのなかには、拍子抜けというか期待外れと思った人も少なくはないかもしれない。というのも、ここで言う“原点回帰”とは初期のサウンドを求めるということではなく、今彼らが表現したい音や歌をそのまま作り上げ、余計な情報に左右されずに音と歌という基盤=原点を直に感じてもらいたいという意味だからだ。ヒップホップやジャズ、ファンクなどブラック・ミュージックの要素を基盤とした初期と比べると横ノリ的なグルーヴは圧倒的に少なく、どちらかというと尖った、鋭角的な縦ノリのビートが駆け抜けるクラブ系サウンドが中心だ。2010年代の潮流ともいえる、デヴィッド・ゲッタやダフト・パンクあたりを意識したようなバキバキのデジタル/エレクトロはパーティ・アルバムとしては楽しいが、メロディよりもビートに比重が置かれ、時に単調に感じられることもあり、一過性的な要素が孕まなくもない。そういう観点からすると、思った以上に賛否ともに多くを論ぜられる作品になりそうだ。
個人的には、クラブ系サウンドも好むのだが、ヴォーカルに重きを置く嗜好があるため、やはり秘められたヴォーカリストの楽曲に耳が傾く。(17)(3)(9)(13)(8)が超豪華ヴォーカリスト参加楽曲として挙げられているのだが、(17)「She's So (Outta Control)」はおそらくK-POPガールズグループの2NE1だろう。(3)「ALIVE」はかなりエフェクトがかけられているが、EXILEのATSUSHIで間違いない。(13)「Sure Shot Ricky」はこれはクレジットにCMで話題となった「消臭力のうた」をサンプリングしていると記載されているし、空耳的なタイトルからも「消臭力のうた」を歌ったミゲル少年だ。(9)「All I Want Is You」は自信がないが、CREAMのMinamiか、という印象。(8)「Don't Stop Me Now」は野性味溢れる男性ヴォーカルだが、制作陣に難波章浩(Hi-STANDARD)の名前が記されていることもあり、難波章浩なのかも。
そのほかでは、(2)「Perfect Place」は“born in the HEISEI, First year of the HEISEI”なシンガーのJASMINEか。(18)「Yesterday」は日本語の発音からK-POP男性シンガーか日本語が堪能な海外(ハーフ?)男性シンガー(たとえばMatt Cabとか)あたり……など、そこそこ見当はつくが、正解はm-floが言うとおり、まずは音と声をじっくりと楽しんでから、しばらく待っているのがいいだろう。
ところで、このなかで特に注目したいのが、CREAMのMinamiだ。彼女が“超豪華”なのかどうかは別として、今作では「Perfect Place」「ALIVE」「Never Needed You」「Call Me」「All I Want Is You」「RUN」「She's So (Outta Control)」「Yesterday」とほとんどの楽曲に参加をしている。CREAMはStaxx TとMinamiによるクリエイティヴ・チームで、特にMinamiは、VERBALプロデュースのBoAのシングル「BUMP BUMP! feat.VERBAL(m-flo)」においてVERBALからの直々の誘いによってコンポーザーに抜擢されたほか、TERIYAKI BOYZやDJ Deckstream作品でヴォーカル参加するなど、高い信頼を得ているようだ。
それゆえ、今作のサウンドの鍵を握っているのは、彼女のサウンドメイク。そこが賛否を分ける意外と大きな要素となるのかもしれない。ファンキーなディスコのイヴリン“シャンペーン”キング「ラヴ・カムズ・ダウン」をサンプリングした「Mirrorball Satellite 2012」をはじめとする黒さやグルーヴを求めた初期ファンにとっては、同曲のタイトルにあるのと同様の“2012年”を舞台にした『SQUARE ONE』ではあるが、その音世界には期待していた2012年を見出しづらい気もするからだ。個人的にも、ミゲル「消臭力のうた」を採り入れた遊び心満載の「Sure Shot Ricky」やインタールード「□ [square1_scene_2_don't_blink]」から続く「So Mama I'd Love To Catch Up, OK?」(「そのまま踊って帰っちゃう系?」というコメントを英字に当てている)への流れなどは大いに耳を惹かれるが、それ以外は初めて聴いた時にはガツンとくる印象があまりなかったのは事実だ。
とはいえ、作品の質が低いというわけでもなく、これが彼らの最終形というわけでもない。新たな才能と出会いながらの旅の途中……それが現時点のサウンドというだけだ。冒頭の「□ [sayonara_2012]」ではヴァーチャル万博“EXPO EXPO”(『EXPO EXPO』は彼らの2ndアルバム名)の中止が告げられ、「□ [frozen_space_project]」では彼らの象徴でもあった“グローバルアストロライナー”社倒産のニュースが報じられる。一瞬、これまでのサウンドとの決別を匂わせる展開だが、「□ [square1_scene_2_don't_blink]」では(あらかじめ保留された可能性の彼方から来た)ブリンクがもう一人のブリンクに“EXPO EXPOを(奴らから)奪い返す”とも発言している。これらは、全てをまっさらにして辿り着くべき真のサウンドへ旅していることの証言なのではないか。
5年を経て、彼らが今作で示したのは、音や歌を楽しむ一つのスタンスに過ぎない。あくまでもさまざまな音楽への旅の序章なのだ。そう思いながら聴いていけば、そのうちに彼らが意図するものが何か見えてくるのかもしれない。
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