
アシッド・ジャズ/ジャズ・ファンク・シーンを牽引して世界を巡り、特に日本で人気を博す親日家のジャン・ポール・“ブルーイ”・モーニック率いるヴェテラン・バンドの恒例のブルーノート公演。ブルーイの来日としては今夏のシトラス・サン&テムズ・リヴァー・ソウルとしての公演以来、インコグニートとしては約1年ぶりとなる。今回はインコグニートのドラマーのフランチェスコ・メンドリアがブルーイに会わせたイタリア人シンガー、ロベルタ・ジェンティーレを紹介するというコンセプトも含めたステージだ。
後列は左からパトリック・クラハー(サックス)、シド・ゴウルド(トランペット)、タリク・メキ(トロンボーン)のホーン・セクション、続いてジョアン・カエタノ(パーカッション)、フランチェスコ・メンドリア(ドラムス)の打楽器陣、右後方にフランシス・ヒルトン(ベース)を配し、中列の左にブルーイ、中央にフランシスコ・サレス(ギター)、最前列は中央やや左からヴァネッサ・ヘインズ、イマーニ、ジョイ・ローズの歌姫勢で、一時ここにロベルタ・ジェンティーレも加わる形。最前右列には昨年は不在だったマット・クーパー(キーボード)が鎮座している。

冒頭にブルーイが登場し、ロベルタ・ジェンティーレを紹介。ジェンティーレは1994年生まれ、イタリア・プーリア州アンドリア出身で、英・ウエスト・ロンドン大学のロンドン・カレッジ・オブ・ミュージックで学び、現在はフランシス・ヒルトン、フランシスコ・サレス、フランチェスコ・メンドリアによるユニット、テムズ・リヴァー・ソウルの1stアルバムに参加している模様。その経緯から開演から2曲はこの3人のみをバックにした“テムズ・リヴァー・ソウル”セットでの演目に。ジェンティーレは二日目とはいえまだ緊張感も窺え、初々しさも覗かせる反面、風貌以上にホットな歌声を披露。パワフルという意味では“先輩”ヴォーカル陣にはまだ足りないが、ソウルフルでパッションを感じるヴォーカルワークで、インコグニートのヴォーカル陣に新たな彩を加えるピースになるかもしれない。

その先輩格ヴォーカル陣は、近年のインコグニートでは主力級となっているヴァネッサ・ヘインズに、イマーニ、ジョイ・ローズの3人がメイン。イマーニはおそらく2008年以来の参加で、久しく見ないうちにすっかり冨士眞奈美的な“貫録”がついてしまっていたが(笑)、小柄ながらパワフルなヴォーカルは健在。近年はなかなかトニー・モムレルの参加がなく男性ヴォーカルの不在が多いが、それでもインコグニートのオリジナル・“レジェンド”・ヴォーカリストのメイサ・リークを受け継ぐ系譜の、ローズ、イマーニ、ヘインズという豪華なヴォーカル陣が揃った。ローズはしなやかさ、イマーニは観客を煽るモチベーターとして、ヘインズは圧倒的なハイトーンと三者三様のヴォーカルワークで観客の耳目を釘付けにする。

ヴォーカル構成もバランス良く、冒頭のテムズ・リヴァー・ソウル・セットでのジェンティーレのソロ・ヴォーカルを経て、イマーニが「ドント・ユー・ウォーリー・アバウト・ア・シング」、ローズが「1975」、ヘインズが「ルーツ(バック・トゥ・ア・ウェイ・オブ・ライフ)」でとローテーションでメイン・ヴォーカルを執る展開で進行。ヘインズのみのスキャットで「コリブリ」を披露した後は、フランシス・ヒルトンとマット・クーパーのソロ、そして近年の見せ場の一つとなっているフランチェスコ・メンドリアとジョアン・カエタノによる丁々発止の白熱のパーカッション・バトル・セッションでヴォルテージがさらに上昇。その激しく燃えさかる熱をゆっくりと覚ますように、ロベルタが再登場。今度はヘインズとイマーニのバックコーラスのサポートを受けて、「ホエア・ドゥ・ウィー・ゴー・ナウ」をしっとりと。アウトロではア・カペラ風なフェイクも駆使し、才の一端を披露していく。
バンド陣は言わずもがなの高水準での安定感とバランス力を遂行。ただ、今回は3名+1名のヴォーカルワークを特に強調させようと配慮したようなアレンジだったのか、少々全体的にバンド・サウンドは抑えめにも感じられた。といっても、音のパワーが貧弱などということは一切なく、エネルギッシュなヴォーカル陣をしっかりと支えるに足る音圧を構築。どちらかといえば、ヴォーカルとの距離感のバランスを精密にした、巧みなサウンドの押し引きでヴォーカルの陰影を明瞭にするための音鳴りといったらいいか。

終盤はブルーイがステージ狭しと動き、スタンディングのオーディエンスをさらに煽る「モーニング・サン」、ヘインズの天を突くように上昇するハイトーンが響き渡る「エヴリデイ」で本編終了。大所帯ゆえ時間を惜しんでそのままステージアウトせずにアンコールで「オールウェイズ・ゼア」へ。ここではロベルタを含む4歌姫が勢ぞろいして、パーティ・タイムも最高潮へと達した。
歴代の情熱的でパワフルなフィメール・ヴォーカルとイタリアの若き新星を迎えての人気曲を散りばめたベスト・ライヴ・テイク的なパフォーマンス。過去と現在と未来のインコグニート像を示したような、定番ながらも刺激的なステージとなった。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Were You With Me(Thames River Soul SET)
02 Until You(Thames River Soul SET)
03 Don't You Worry 'Bout A Thing (*I)
04 1975 (*J)
05 Roots(Back To A Way Of Life)(*V)
06 Talkin' Loud (*I)
07 Spellbound & Speechless (*J)
08 As (*V)
09 Colibri (*V)
10 Band Solo Section
11 Drums & Percussion Section
12 Where Do We Go Now(*R)
13 Morning Sun (*J)
14 Everyday (*V)
≪ENCORE≫
15 Always There
16 OUTRO ~ One Love ~
(*R): main vocals by Roberta Gentile
(*J): main vocals by Joy Rose
(*I): main vocals by Imaani
(*V): main vocals by Vanessa Haynes
<MEMBER>
Jean-Paul 'Bluey' Maunick(g)
Roberta Gentile(vo)
Joy Rose(vo)
Imaani(vo)
Vanessa Haynes(vo)
Sid Gauld(tp)
Tarik Mecci(tb)
Patrick Clahar(sax)
Matt Cooper(key)
Francisco Sales(g)
Francis Hylton(b)
Joao Caetano(per)
Francesco Mendolia(ds)

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