究極の享楽を“Do it”する、モダンでファンキーな時空間。
毎年恒例になりつつあるメイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンによる人気ディスコ/ファンク・プロジェクト、タキシードのビルボードライブ公演。左にキーボードのサム・ウィシュコスキ、中央奥にヴォーカルのギャヴィン・トゥレク、右にギターのクリスチャン・ヴンダリッヒ、ステージ前方にメイヤー・ホーソーンとジェイク・ワン。昨年の公演(記事はこちら→「Tuxedo@Billboard Live TOKYO」)とほぼ同じメンバーで、前回はギャヴィン・トゥレクが帯同せず、ジェシー・パヨがバック・ヴォーカルを務めたが、今回はトゥレクがカムバック。それだけでなく、単独でオープニングアクトを行なうなど、このプロジェクトでの彼女の重要性を示すステージにもなった。もちろん中央には、彼らのライヴではおなじみの“HO!”ボタンがセッティングされていた。
前回と異なるのは、コーラスのギャヴィン・トゥレクのオープニングアクトがDJセットながらも配されたこと。暗転後、小走りにステージに上がったトゥレクは、ミュージックヴィデオで着ていたフードを目深にしたスパンコールのガウンを纏ってドリーミーな「ザ・ディスタンス」を艶っぽく歌うと、そのガウンを脱いで爽やかなライトブルーのミニ姿で「ドント・ファイト・イット」へ。以降もドナ・サマーあたりが歌ってそうな軽快なディスコ・ポップという音色に加え、アフロヘアを振り乱したり、足を大きく広げてピボットのように踊ったりと、どちらかといえばあか抜けない感じの古臭さが匂うパフォーマンスだが、それがかえって新鮮で親しみを呼ぶから、彼女をよく知らないオーディエンスは当初は“?”という表情をするものの、次第に微笑みを満たしてクラップをし始めるから面白い。一言で言えば“キュート”というのが最も当てはまる、人懐こくてファンシーなパフォーマンスは、同性にも大いにウケそうだ。女性ヴォーカルというとプライドが見えるシンガーも少なくないが、彼女は(プライドがない訳ではないが、むしろ「プライド」というタイトルの曲を発表しているくらい)それを見せずに自らが楽しむというスタンスに終始していて、それはタキシードのコンセプトとも合致しているのだろう。
その後「マイ・デライト」「フロントライン」とノリのいい曲を続け、ステージや時にはフロアまで飛び出して目をクリクリさせながら歌う姿は実に愛らしい。最後はアルバムのタイトルを飾ったリード曲「グッド・ルック・フォー・ユー」。ノスタルジーも感じさせるスウィートなヴォーカルもディスコ・クイーン的な煌びやかさがあり、レトロモダンなディスコ・サウンドと相性の良さが窺えた。今後は楽曲や作品数を積み重ね、単独でのステージも見てみたいと感じた。
幕間でステージでのセットチェンジを終えて、本編のタキシード。バンドメンバーが中二階の階段を下りてステージイン。続いて登場したギャヴィン・トゥレクは“お色直し”をして今度は白系統のパンツスタイルに。オーディエンスが次第に胸の高鳴りを歓声で表わしていると、メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンの主役二人が満を持して姿を現す。西海岸の名門レーベル〈ストーンズ・スロウ〉を代表するユニットの登場だ。
イントロダクションを経て「ナンバー・ワン」から心地良いグルーヴをほぼノンストップ・スタイルで展開していくクラブユースなステージ。曲の繋ぎや合いの手にはしっかりと“HO!”ボタンが活躍。オーディエンスの歓喜を共有確認するかのごとく、絶妙のタイミングでフロアに“HO~!”の音声が鳴り響き、それにつられて“ノリ”も密度を増していくようだ。ザップとコラボレーションした注目曲「シャイ」も序盤にあっけなく披露。彼らにはもったいぶることよりも心地良いグルーヴを続けることの方が重要なようで、惜しみなくトピックスを投下してくる姿に、あらためて彼らが“まずは楽しむ”ことを意識したプロジェクトだということを認識。“肩肘張らずに身体を揺らそう、昔の人たちがそうやって楽しんできた音楽をリスペクトしながら、僕たちも楽しもう”とでも言いたげな気取らないステージ。フロアのあちらこちらにグッド・ヴァイブスが伝わっていくのも納得だ。
そうかといって適当に音を鳴らしているという訳ではなく、中盤に「ゲット・ユー・ホーム」や「ジュライ」などのスローなナンバーを置いて、メリハリとヴォーカルを聴かせる時間も構築。このスローダウンが後半の熱狂へと促していく起爆剤にもなっている。元来メイヤー・ホーソーンはヴォーカリストとして類まれなる才能を持っている訳ではないが、どこかくぐもった親しみを覚える声質は、レトロやヴィンテージ感のあるメロディにうまく寄り添っている印象。ジェイク・ワンとの掛け合いもフランクで、仲の良さというか波長が合う感じが見て取れるのも、ステージの熱を高めるの一助となっているようだ。
「『タキシードI』持ってる人は? じゃあ『II』は?」のフリから「それじゃ『III』になる曲を」と披露した新曲では、トゥレクとのデュエットをフューチャー。ファンサーヴィス発言なのかもしれないが、毎年これだけ客席が埋まる盛況ならば、タキシードを続けることに障害はないだろうし、アルバム第3弾を十分期待してしまう。
ライヴでは楽しむことを大前提に、ステージ前には綿密に、が彼らのモットーなのかもしれない。というのは、とにかく楽しく歌い踊るをコンセプトにしたステージングの一方で、楽曲やそのアレンジには彼らならではのニクイ演出がちらちらと施されているからだ。冒頭の「ナンバー・ワン」などはそれ自体にスヌープ・ドッグの「エイント・ノー・ファン」をサンプリングしているが、それ以外でも楽曲の繋ぎなどにもちょいちょいヒップホップやR&Bファンなどがニヤリとするようなフレーズを組み入れてくるから侮れない。そのあたりは豊富で幅広い知識とコレクションによって磨き上げられた楽曲セレクトのセンスが彼らに備わっているからに他ならない。たとえば「ソー・グッド」では、トニ・トニ・トニの「フィールズ・グッド」のフレーズをトゥレクにも歌わせて「ソー・グッド」に対する返歌的な意味合いを持たせたりと、単純にエンジョイするだけではないマニアックな面も覗かせているのが楽しかったりもする。
後半、特に「テイク・ア・ピクチャー」からはヴォルテージもさらに一段アップ。突然、ホーソーンとワンが中二階へそれぞれ両サイドの階段から駆け上がり、落ち合った中央でポーズを決めると、ステージの中央にシャッター音が聞こえて「テイク・ア・ピクチャー」がスタート。ステージに戻ると、トゥレクも加わってシャッターへのカウントを促し、フロアが文字通り“テイク・ア・ピクチャー”な撮影会に変貌。ファッショナブルでショービズ的な演出をしながら、曲の後半にはオーディエンスのクラップとともにフロアが一体となるなど“ツボ”を押さえた構成にジョイフルな空気の波が広がっていった。
以降もノンストップでインタールード的な「スクーターズ・グルーヴ」からクライマックスへ。「サンキュー」ではメンバー紹介やフロアを煽りながらも「シャイ」を想わせる一節をサラリと仕込み、コール&レスポンスを経て、テイスト・オブ・ハニー「今夜はブギ・ウギ・ウギ」を下敷きにした「ドゥ・イット」へ。リストだけを見たら本編ラストに「ドゥ・イット」とは何の変哲もない選曲だが、そんな陳腐な考えなんてノープロブレムで、フロアのあちらこちらに喜びのうねりと歌声が溢れていたことが、このライヴの全てを表わしていたといっていい。
アンコールは「デザイナー・ドラッグ」に続きこのステージ2曲目となるメイヤー・ホーソーン楽曲の「ヘニー&ジンジャーエール」で幕。「サンキュー」から「ドゥ・イット」、アンコールで「ヘニー&ジンジャーエール」への流れは昨年の公演と全く変わらないが、ショーをエンジョイすることに特化したステージには、マンネリさえエンターテインする活力と心地良さに満ちていた。おそらくこういった感想も昨年とあまり大差がないのかもしれないが、それは裏を返せば、彼らのステージでは常に楽しみを享受出来ていることに他ならない。裏ではこだわりとマニアックな嗜好が飛び交っているだろうが、一度ステージに上がればシンプルかつキャッチーに。フレンドリーにグルーヴを共有することにこだわった彼らは、究極のエンジョイを具現化しているプロジェクトの一つかもしれない。
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<SET LIST>
【Gavin Turek】
01 The Distance
02 Don't Fight It
03 My Delight
04 Frontline
05 Good Look For You
【Tuxedo】
00 Tux H0! Intro
01 Number One
02 Shy
03 Designer Drug(Original by Mayer Hawthorne)
04 Fux With The Tux
05 The Right Time
06 2nd Time Around(include intro phrase of“Funkin' For Jamaica”(Original by Tom Browne)???)
07 Get U Home
08 July
09 NEW SONG(“Dreamin In The Daytime”???)
10 So Good(include phrase of“Feels Good”by Tony! Toni! Toné!)
11 Rotational
12 I Get Around
13 I Got U
14 Take A Picture
15 Watch the Dance
16 Scooter's Groove
17 Thank You
18 Do It
≪ENCORE≫
19 Henny & Gingerale(Original by Mayer Hawthorne)
<MEMBER>
Mayer Hawthorne(Lead vo)
Jake One(vo)
Gavin Turek(vo)
Sam Wishkoski(key)
Christian Wunderlich(g)
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【Tuxedo/Mayer Hawthornのライヴに関する記事】
・2010/02/27 MAYER HAWTHORNE & THE COUNTY@Billboard Live TOKYO
・2011/11/16 Mayer Hawthorne@Billboard Live TOKYO
・2016/01/06 Tuxedo@LIQUIDROOM
・2017/08/17 Tuxedo@Billboard Live TOKYO
・2018/07/17 Tuxedo@Billboard Live TOKYO(本記事)
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