2年ぶりの実現に感極まった、7人が紡ぐ“Wonder Land”。
フロアにクラップが鳴り響いたアンコール明けのMCで、wakathugが「マジでちょっと感情が……」と発すれば、ラストの「Buddy」演奏直前に弥之助が「感の極まりの向こう側へ……」と思いがけないキャッチフレーズを投げかける。久しぶりの有観客ライヴとなったAFRO PARKERの初のワンマン東名阪ツアー〈AFRO PARKER 1st Tour“Wonder Hour”〉は、制限があるなかでも、ライヴがメンバーにとってもオーディエンスにとっても、胸の内にさまざまな感情を巡らす“生”に触れる特効薬になることを証明したステージとなった。
さて、この“初の東名阪ツアー”は、本来2021年4月から5月にかけて行なわれる予定だったが、コロナ禍の影響によって中止となり、無観客配信ライヴへ変更。歯がゆい思いで苦渋の決断をしたのだが、秋に改めてリヴェンジ公演ということで、9月に名古屋、10月に大阪、東京と3公演が決定。だが、その名古屋、大阪の2公演も中止となり、不安が過ぎっていたが、9月末に東京では緊急事態宣言が明けたこともあり(10月1日~24日は「リバウンド防止措置期間」が設定されたものの)、2年ぶりの有観客のライヴに辿り着くことが出来た。会場は東京・渋谷WWW X。登録フォームへの記入、検温、消毒に換気、可能な限りの人的接触を避ける措置を施し、漕ぎつけた公演。通常のオールスタンディングであれば隙間なく埋められていくフロアも、この日はディスタンスが保たれた座席を配置。おそらく現状を踏まえて泣く泣くキャンセルを選択したファンも少なくなかっただろうし、万全な状況であれば、開演前からフロアに集う人々の熱気で満ちていたはずだ。それでも、フロアに間隔を空けて並んだ丸椅子に座り、誰もいないステージを見遣った際には、なんだか落ち着かない感覚が身体を走った。それはこの状況下で“アフロパ”のステージを間近で体感出来る幸運と期待が入り混じっていたからなのかもしれない。
AFRO PARKERがこの4月にリリースした4thアルバム『Wonder Hour』(アルバム・レヴューはこちら→「AFRO PARKER『Wonder Hour』」)を引っ提げての公演ゆえ、楽曲は『Wonder Hour』収録曲を中心に構成。暗転中にメンバーによる新型コロナウイルス感染拡大防止のための会場内の注意事項がアナウンスされた後、メンバーがステージイン。左からアフロヘアとサングラス姿が一際目立つサックスのBUBUZELA、King GnuやWONKあたりにいそうな(実際は知らない…笑)ウェイヴィなヘアと髭という風貌のベースのKNOB、酒好きが高じてアフロパロゴ入りのクラフトビールを作ってしまったというキャップを被ったドラムのTK-808、アフロパ・クルーのバランスを掌るIT企業のエリート風の優男感漂うキーボードのBoy Genius、右手前にサングラスが照れ隠しの昔ながらの不器用男風情が滲むギターの加地三十等兵、そしてベースボールキャップとメガネがトレードマークのナード系童顔フェイスの弥之助と、垢抜け切らないながらも爽やかな好青年のいで立ちでパンチラインを繰り出すwakathugの2MCがステージ中央に陣取り、生音とトラックを自在に操りながら、フロアに心地よいグルーヴを放っていく。
これまでのアルバムではスキットを挟み込んでアクセントをつけているが、その世界観をしっかりと創り上げるために、ステージでもコミカルなMCを挟んで単なる楽曲の羅列にしていないところが、AFRO PARKERがAFRO PARKERたるゆえんの一つ。クライマックスに宛がう楽曲といってもいい「Cosmic Dance」を惜しげもなく初っ端に配置して、オーディエンスの待ち侘びた気持ちへ点火し腰を上げさせると、肩身が狭い新人サラリーマンの嘆きを歌った「After Five Rapper ~SHACHIKU REQUIEM~」と上司と後輩の“板挟み”に悩む中堅社員の悲哀を歌った「After Five Rapper II ~SHACHIKU CAPRICCIO~」の間に、これまでのライヴでも仕込んできた“天からの声”との掛け合いをインタールード的に繰り広げて“社畜ラッパー”の苦難を歌う曲を繋ぐ。
この手のMCは他にもあり、“エイ、エイ”と合いの手を入れるクールなR&B/ヒップホップ・トラック「Flowing Stories」の演奏後には、“魂のロンダリング”について語る“粒子エネルギー評議会”なる人物から弥之助へかかってきたの謎の勧誘の電話を切った後に、wakathugが突然「魂のロンダリングに興味ある?」と勧めて来るコミカルなオチで笑わせたり、終盤では、弥之助が同じくライヴの“曲間”だった2年前の自分に電話をかけ、「2年後は大変な世界になるが、いいこともあるぞ」と伝えながら、wakathugの言葉を借りて(この2年間は大変だったが)きっといいことがある未来へ旅立とうと願いを込め、“出発”を意味する「Departing!」へと繋ぐなど、音楽とMCを調和させながらステージを展開させていくパフォーマンスが巧みだ。
そういったMCでの仕掛けを、いわば“イロモノ”的なアクセントと取る向きもあろうが、ライヴのテーマやストーリーから大きく逸脱している訳でもない。むしろ新鮮な感覚をもたらせる効果的な“変化球”といっていい。そして、そのブレイクによって、次なる楽曲以降への加速度と熱量を高める役割にもなっていたと思う。
冒頭の「Cosmic Dance」をはじめ、アウトロでのBUBUZELAのサックスが高らかに鳴る「Wheels Up」や、鍵盤のコードのループやフックの“Oh Oh Oh”というコーラスとともに颯爽と駆け抜けるヴォルテージアップの定番曲「Still Movin' On」、躍動的でダンサブルなリズムが陽気な雰囲気を先導する「Departing!」など、推進力の高いグルーヴィな楽曲はもちろんフロアの熱を上げてくれたのだが、個人的に印象深かったのは、対照的にクールな彩りで描かれた「Plastic Summer」や、ミステリアスな導入から混沌を彷徨うようにラップを畳み掛ける「Klein Bottle」といった楽曲。ズルズルと深みへと引き込むような渋いベースと、オーディエンスの身体を揺らせることを止めさせない過不足ないドラム、琴線に触れるような上モノの鍵盤フレーズなどをバックに、真摯なまなざしでフロウを繰り出す情景には、MCの際には窺えない訴求力に満ちていた。ラップを畳み掛けるタイミングで激しく発光していたストロボとは異なり、これらの楽曲で照らされた深海のような青系のライティングも、クールネスと伝達力を増幅させていたようだ。また、「In Tears」でのむせび泣き溢れた涙を拭って走り出すようなギターソロも印象的だった。
本公演のサプライズは、アンコール後に登場した竹内アンナ。グレーなど渋めの色の衣装のAFRO PARKERメンバーが一瞬にして添え物になってしまうかのような、鮮やかな白系の上下とゴールドなボブヘア姿の竹内アンナが登場すると、“竹内アンナ with AFRO PARKER”名義での新曲「Now For Ever」を初披露。笑顔がキュートな竹内の快活で瑞々しいヴォーカルとクラップを伴ってフックへと走り出す展開がラヴリーなミディアムで、弥之助、wakathugはリラクシンなラップで、演者というよりも共に楽しんでいる感じが伝わるパフォーマンスを見せていた。
最後は、高らかな鍵盤から始まり、自然とクラップが沸き起こる感謝ソング「Buddy」でエンディング。温かみある朗らかなサウンドとともに、フロアに至福な拍手が満ちるなかでの大団円で2年ぶりの有観客ライヴは幕を閉じた。
前回のAFRO PARKERのライヴ観賞は2019年12月の表参道 WALL&WALL公演(記事はこちら→「AFRO PARKER @表参道 WALL&WALL」)だから、メンバーとほぼ同じくらいのインターバルでの有観客ライヴとなるか。当時もそうだったが、客層の女性率が高し。気疲れしない洒落っ気がある、肌当たりのやわらかさも人気の要因の一つなのだろう。近年では男性声優による音楽原作キャラクターラッププロジェクト、通称“ヒプマイ”こと『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』仕事もこなしていることもあってか、声優ファンや若いラップファンもいるか。おそらくコア層は20代後半から30代(ないしは40代前半あたり)と考えると、観客の平均年齢を一人で“爆上げ”していたことになりそうだ(苦笑)。
4thアルバム『Wonder Hour』の帯に赤で書かれた“逃げろ”の文字。アルバムでは“さよなら日常ツアー”の旅を描いたが、奇しくも現実においてもコロナ禍という災禍に見舞われるという“非日常”を経験し、それによりステージの機会を逸することに。それでも思慮を凝らし、度重なる公演中止の憂き目や不運に追われながらも曲がりくねった道を逃げ切った先に辿り着いたのは、WWW Xのステージだった。“逃げろ”を“逃げるが勝ち”へと昇華させた一夜、そう捉えるのも一興ではないか。弥之助が「ビビるくらい楽しい」と発した言葉や、メンバーのプレイやMC陣の掛け合いに、終始微笑みと恍惚を繰り返していたBoy Geniusの表情が、それを代弁し物語っているようにも思えた。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Cosmic Dance (*LO)
02 Do I Love You (*WD)
03 After Five Rapper ~SHACHIKU REQUIEM~ (*LF)
~MC〈Phone call from Yanosuke's boss〉~
04 After Five Rapper II ~SHACHIKU CAPRICCIO~ (*WH)
05 Wheels Up (*WH)
06 H.E.R.O. (*LF)
07 Plastic Summer (*WH)
08 Flowing Stories (*WH)
~MC〈Phone call from Particle Energy Council〉~
09 Klein Bottle (*WH)
10 In Tears (*WH)
11 Life Is Good (*LF)
12 Still Movin' On (*LF)
~MC〈Calling Yanosuke 2years ago〉~
13 Departing! (*WD)
14 H.A.N.D (*WH)
≪ENCORE≫
15 Now For Ever(竹内アンナ with AFRO PARKER)(New Song)
16 Buddy (*WD)
(*WH):song from album“Wonder Hour”
(*WD):song from album“Which date suits best?”
(*LF):song from album“LIFE”
(*LO):song from album“Lift Off”
<MEMBER>
AFRO PARKER are:
弥之助(MC)
wakathug(MC)
加地三十等兵(g)
Boy Genius(key)
KNOB(b)
TK-808(ds)
BUBUZELA(sax)
Special guest:
竹内アンナ / Anna Takeuchi(vo)
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【AFRO PARKERに関する記事】
2014/06/07 Mixed Up@代官山LOOP
2015/06/06 Mixed Up@代官山LOOP
2016/11/13 Let's Groove@六本木VARIT
2017/04/22 Parade!@六本木Varit.
2019/12/21 AFRO PARKER @表参道 WALL&WALL
2021/05/21 AFRO PARKER『Wonder Hour』
2021/10/24 AFRO PARKER @WWW X(本記事)
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