goo blog サービス終了のお知らせ 

*** june typhoon tokyo ***

SHIRMA ROUSE『CHOCOLATE COATED DREAMS』

■ シャーマ・ラーズ『チョコレイト・コーテッド・ドリームス』

Shirmarouseccd
 
 オランダ自治領キュラソー(クラサオ)生まれで、アムステルダム音楽院を経て音楽活動に勤しむシャーマ・ラーズのデビュー・アルバム。キュラソーといえば“キュラソー・ビザ”で知られる島。ナチス・ドイツの迫害を受けたリトアニアに移住したユダヤ人は、ソ連のリトアニア併合により逃亡経路が断たれてしまう前に、日本の通過ビザを取得して第三国へ出国するしか逃亡方法がなかった。日本領事館に押し掛けたユダヤ人に対し、当時のリトアニア・在カウナス日本国領事の杉原千畝は、外務省のビザ発給拒否通告に反して日本国通過ビザを発行。この結果、数千人のユダヤ難民の命を救った……という、あの“キュラソー・ビザ”のキュラソーだ。

 そんなカリブ海に浮かぶ小島、世界遺産にも登録される街並みを持つ主都・ウィレムスタッドなど風光明媚な土地に生まれたシャーマが、生誕地の影響を多分に含んだアルバムをリリースした。オーガニックソウルやネオソウル、モータウン、ファンク、ジャズといった要素が程よいバランスで融合している楽曲が特徴だが、それぞれのいいところどりというのではなく、カリブとヨーロッパ(とアフリカ)、レトロとコンテンポラリーなどの絶妙な配合加減により抽出された、シャーマ印の褐色のソウル・ミュージックとでも言おうか。

 冒頭のヴィンテージ感溢れるギターが印象的な「マイ・ベイビー」や陽的なオールドスクール然とした「ガッタ・ビー・マイ・ガール」などからは、確かにレトロ・ミュージックへの回帰ともとれるサウンドを鳴らしている。ただし、ラファエル・サディークが『ストーン・ローリン』(2011)で披露した古典的ソウルといった佇まいとはまた異なり、陽的であってもやはりどこかしら陰影がちらつくUK風というかヨーロピアンな薫りが漂うのが“らしい”というところ。
 レトロという意味では、“シュッ、シュッ”というバックコーラスが軽やかな微笑みを生む「ア・プレイス・コールド・ホーム」もそう。ハモンドオルガンとホーン・セクションの上機嫌も相まって晴れやかなポップ感に満ちた、60年代モータウン風ガールズ・ポップといった曲だ。

 とはいえ、単なるレトロの追求ではなく、今風な要素もしっかりと組み込んでいる。タイトル・チューンである「チョコレイト・コーテッド・ドリームス」はジワジワと熱量が浸透するビター&スウィートな、言ってみれば甘いも苦いも包含したプログレッシヴなファンキー・ソウル。カーボベルテ生まれロッテルダム育ちのラッパー、ゲイリー・メンデス(Gery Mendes)を迎えた「ユー」や同じくゲイリーが参加した涼感が伝わるスウィート・ジャジィ・ソウル「テイク・ミー・アズ・アイ・アム」などは、どちらもヒップホップというフィルターを通してのソウルで、コンテンポラリーな視点がなければ創り得ないものだ。
 また、ジャズマナーを基調としながらも、リズミカルに叩かれるエレピと潮の干満のようにエネルギッシュなグルーヴが訪れる「ワーズ」は、クレヴァーでクラブ・ジャズ/ハウス的な要素も。このあたりは、しっかりと現在の音楽を幅広く咀嚼している証左ともいえる。

 それだけではなく、楽曲のヴァリエーションも豊富。快活なグルーヴが身体を揺らす「アイム・ゴナ・ギヴ・イット」は太陽の下をご機嫌に闊歩するようなポジティヴなファンク・チューンだが、エンディア・ダヴェンポート(またバンドを離れてしまったが)のザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ楽曲といっても遜色ないグルーヴの良さだし、期待感を煽るカッティング・ギターから幕を開ける「ジャスト・ストップ・ランニン」もインコグニートのような推進力のある洗練されたファンクで、アシッド・ジャズ界隈やUKソウル/ジャズ・サウンドとの適応性も見せてくれている。

 また、マクスウェルあたりのあてどなく彷徨うような漂流感とふつふつと芽生えてきている苛立ちのようなものが溶け合った何ともいえない雰囲気が魅力の、全編に気だるさが横たわるネオソウル「リトル・ライズ」や、ヴァースにロックを落とし込んで彩度と鮮度を明瞭に仕立てたロック・ミーツ・ネオソウルといった「ザ・ベスト・オブ・ミー」、静謐で安堵感をもたらすジャジィなバラード「サンキュー」など、予想以上にその音楽的振幅の広がりを持っている。

 もちろん、これらのソウルやジャズをベースにした嫌味のない(灰汁がないという意味ではない)浸透性の高い楽曲も魅力だが、最大限に魅了されるのは、これら多彩な楽曲群を“チョコレート色”のシャーマ節にコーティングしてしまうヴォーカルだろう。スモーキーと言い張るほど煙くもなく、スウィートと聴くほど甘ったるくない。土着的な部分も見られるが、ネットリと粘着過ぎることもない。そのあたりがアメリカではない、ヨーロッパ的な土壌や黒人の民族的文化に関係しているのかもしれない。ささやかな湿気を伴った貿易風がそよぎ肌身に浸潤していくような包容力が、シャーマのヴォーカルには存在するような気がする。それは、生まれた地、キュラソーの美しい風景をかすめる貿易風のようなものかもしれない。

 ただ緩やかに流れる癒し曲では決してない。喜怒哀楽、人間味を多分に含みながらも上質な空間をもたらしてくれる楽曲群は、爽やかで実にエネルギッシュ。スウィート、ミルキー、ビター……さまざまな口溶けが味わえる、実に深みのあるデビュー作だ。ご堪能あれ。
 
 

◇◇◇

≪TRACKS≫

01 My Baby
02 Gotta Be My Girl
03 Chocolate Coated Dreams
04 Little Lies
05 A Place Called Home
06 I'm Gonna Give It
07 The Best Of Me
08 Thank You
09 Just Stop Runnin'
10 Words
11 You
12 Take Me As I Am
13 My Brother(ft. Ron-le-bass)(*)
14 The Truth(ft. Ron-le-bass)(*)
15 Time(if i get a go)(ft. iET)(*)

(*)Japan Bonus Tracks
 
 
◇◇◇
 

Shirma Rouse - Gotta be my girl



Shirma Rouse intro are you ready - just stop- gonna


メイサ・リークといい勝負かと思わせる、ジャケから想像していた以上のキュートな巨漢ぶり!(キキもそうだったなー)
でも、これはライヴに行きたいぞ(来日するかなぁ)。 
 
 



にほんブログ村 音楽ブログ R&B・ソウルへ
にほんブログ村 音楽ブログへ

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「CDレヴュー」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事