ディーヴァの降臨、そしてマイケルの光輪。
ビヨンセ@さいたまスーパーアリーナ。2009年は夏にサマソニで来日したが観に行かなかったので、東京ドーム公演以来となる。S席を確保したのだが、ステージからは最も遠い400レベル。ほぼ中央だったのと1列目だったことが救いか。
バンドは今回も女性のみ。ダンサーには男性もいる。バンドの中には日本人キーボーディスト(Rie Tsuji)も。
キーボード×2、ドラム×2、パーカッション、ギター、ベース、ホーン・セクション3人、コーラス3人と配されたバンドだが、大仰なセットはなく、骨組のようなシンプルなもの。中央に階段付きの骨組があり、そこにビヨンセが立つとバックにある大きなスクリーンの映像と一体化するという仕組みだ。
ホールは中央やや前目に正方形(ひし形)のサブ・ステージがあり、そこまではステージからの花道があるが、通常のステージの高さと同一の花道ではなく、一度客席まで降りる形の、レッドカーペットのような柵を隔てて設けられた、ファンと触れ合える花道だ。ビヨンセが通る時には、アリーナの観客がグワーッと中央へ殺到していた。まさにレッドカーペットといった光景だった。
前回の東京ドーム公演では、東京ドームというライヴとしては決して条件が良くない(寧ろ悪い)なかで、素晴らしいエンターテインメント・ショウを披露したという感想を持ったが、この<“I AM...” WORLD TOUR 2009>では、さらにディーヴァの私と真の私をご覧あれといった貫禄と高い顕示欲、エンターテインメントの最高峰を見せ付けられた。衣装チェンジも豪華で、ティエリー・ニュグレーによるメンバーの分も入れると72着のステージ衣装を盛り込んだという。それにしてもゴールドがこれほど似合うシンガーもなかなかいないのではないだろうか。さらに常に健康的な美脚を露出することを前提としているかのような衣装が似合うのも。
無駄なセットを省いたスクリーンでの3D映像やヴィデオ演出は大正解で(億単位のかなりの金額を要したようだが)、ビヨンセを鮮やかに彩っていた。日本の映画会社のイントロ映像を思わせるような打ち寄せる波から水中へと変化し、海中で歌っているような演出の「スマッシュ・イントゥ・ユー」、自身がエタ・ジェイムス役で主演した映画『キャデラック・レコード』の映像を取り込んだ「イフ・アイ・ワー・ア・ボーイ」、ステージに置かれたラジカセをチューニングすると(デスチャ時代の楽曲が一瞬流れたりしていく)子供の頃のビヨンセの歌い踊っている映像と現在のステージとを並べた映像が映し出される「レディオ」ほか、『ドリームガールズ』の映像や、実際にカメラを持ったダンサーがビヨンセを接写しているような映像が細切れに映し出される中で赤紫のライトで照らされたビヨンセが妖艶な雰囲気を醸す「ヴィデオ・フォン」、オバマ大統領就任式での一コマを背景にした「アット・ラスト」、全世界でビヨンセの踊りを男女限らず摸して踊ったYouTube映像を組み込んだ「シングル・レディーズ」(ここでもオバマ大統領が登場)など、巧みなコラボレーションをみせていた。
一方でスクリーンをそれほど伴わないトラックの演出も素晴らしく、白い羽衣のようなものをまとって神聖で純真なムードを漂わせた「アヴェ・マリア」などは息を呑むようなステージングをみせつけていた。
今回の公演では“アイ・アム”と別人格“サーシャ・フィアース”が送るステージというのがテーマであり、サブ・ステージ移行時のヴィデオで流れた、ビヨンセが上方にコインをトスするとそれを掴んだのは自信家で野心的なサーシャ・フィアース……という演出をみると、もはやその存在はエンターテインメント界のクレオパトラといっていい(美しさという意味からは、ネフェルティティの方が相応しいか)。トスしたコインにも、ビヨンセとサーシャがそれぞれ裏表に描かれていた。
会場と一体となったのは“トゥ・ザ・レフト”のフレーズでお馴染みの「イレプレイスブル」。ここではビヨンセもにこやかで安心した笑顔をみせる。「リッスン」も同様で、しっかりと根付いた歌をシンプルに歌うことが出来る演目では、真の彼女に近い佇まいとなっているような気がした。
そして、一旦暗転してのアンコールという形で披露された「ヘイロー」は、“マイケル、あなたの光輪が見える”と詞を替えて披露。スクリーンにマイケルの写真を大きく映し出してのラスト「フォーエヴァー・ヤング、マイケル」とともに、マイケル・ジャクソンのトリビュート・ステージとなった。その合間に“この中で今日誕生日の人はいる?”と聞いたあとで「ハッピー・バースデイ」を歌ってくれたのだが、天に召されたマイケルと現在誕生の日を迎えられた人たちとの“死と生”を浮かび上がらせるような演出となった。とともに、“マイケルは今尚、そしてこれからも生ある人たちの心に生き続ける”というメッセージを送ったのかもしれない。
ヴィデオのみの楽曲があったり、短いパートのみで終わってしまった楽曲(特にデスチャ・メドレーとか)もあり、それらを期待していた人にはやや残念な面もあったかもしれないが、完成されたエンターテインメント・ショウを成し遂げるためには、致し方ない部分なのかもしれない。歌唱については、抑揚をつける部分などやや一本調子のきらいもあったりはするが、それらを超越する存在感と迫力でオーディエンスを席巻するのは見事としかいいようがない。2時間にコンパクトにまとめるステージとしては、なかなかこれ以上を望むのは難しいのではと思うくらいの“ザ・ビヨンセ・ショウ”だった。
エンターテインメントの極致を遂行する人物として、今、最も頂に近い存在のビヨンセ。これだけゴールドと(常に髪をなびかせるために受ける)風が似合う人も珍しいのでは。(笑) ラストにはスクリーンに“I AM... YOURS”と映し出され、方々に投げキッスや両手でハート型を作った後、自身を両腕で抱きしめて“みんなとハグしたい気持ちよ”とジェスチャーした時のキュートな笑顔は、エンターテイナーとは違った真のビヨンセの顔だったに違いない。
終演後、どこからか「キャーッ」という歓声が聞こえた。どうやらビヨンセが車からファンに手を振りながら走り去っていった模様。それを見つけたファンはその車に走り寄りパニックに。(笑) 終演後までもしっかりと演出を施しているビヨンセの役者魂には、本当に恐れ入る。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Deja Vu~Crazy In Love
02 Naughty Girl
03 Freakum Dress
04 Get Me Bodied
05 Smash Into You
06 Ave Maria
07 Broken-Hearted Girl
08 If I Were A Boy
09 Sweet Dreams (VIDEO)
10 Diva
11 Radio
12 Ego
13 Hello
14 Band Interlude
Including of “Billie Jean”“Working Day and Night”(Original by Michael Jackson)
(VIDEO Interlude)
Including of “Love Hangover”(Original by Diana Ross)
≪Sub Stage Section≫
15 Baby Boy
16 Irreplaceable
17 Check On It
18 Bootylicious~Bug A Boo~Jumpin' Jumpin'~Upgrade U
19 Video Phone
20 Say My Name
≪Main Stage Section≫
21 Independent Woman~Bills Bills Bills~No No No~Beautiful Liar~Survivor
22 At Last
23 Listen
24 Singles Ladies (Including VIDEO Intro)
≪ENCORE≫
25 Halo
26 Happy Birthday
27 Forever Young, Michael
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